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夜は小説を書きます。 昼はサラリーマンをします。 noteではたまに短編を書きます。

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漫画家の姉について【僕が小説を書く理由】

僕の姉の職業は「漫画家」だ。 彼女は「やりたいこと」を生業にしている。 noteでは、自ら何かを創作している人が多いので、そういった職の人は珍しくもないかもしれないが、僕の狭い人間関係の中では、彼女はかなり稀有な存在である。 先日、アルバイトをしに彼女の家に行ってきた。アルバイト内容は、漫画のアシスタント。彼女が描いた絵に、指示通りベタやトーンを挿し込んでいく作業だった。まさか、こういった作業のほとんどがパソコンで行われているとは思わなかった。僕は漫画といえば、ベレー帽

    • 「殺す若者」(50158文字)昔の処女作

      龍が燃えている。 力強く、懸命に、輝きを放つ炎。 僕は熱を感じている。そう、確かに思う。この不思議な景色は僕の目に、はっきりと焼き付き、胸の中で、何かを連想させる。炎は星空の下でただ真っ直ぐに天へ。そうして、燃え上がる龍の周りをふわふわと妖精のように飛び交う火の粉は、暗闇へと好きな方向へと駆け出し、力なく消えていった。時折、剥き出しになった木材が、生き物のように紅い粉塵を散らせながら、音を立てて崩れ落ちていったが、その中心では龍の胴体部分が自らの存在を知らしめるように大きな

      • 「錯覚」(2618文字)

         視界のずっと奥の方から、光が放射状に広がっていく。ビームのように放たれた色彩が流れていく中、穏やかな海が揺らめくように人の影も流れていく。真っ暗な闇、光に切り取られた場所、たくさんの人間が限られた場所で踊り狂うのが、ここからだと良く見える。  店内に満ちていたのは、内臓を直接掴むような音楽だった。首の後ろで脈が血液を送り出していく音が僕の脳内でしつこく繰り返されていて、飲みすぎたジンが僕の意識を現実から遠ざけていく。それなりに有名らしいDJが、繊細な手つきで玩具のような機

        • 「燃えていた龍」ショート×ショート(3766文字)

          わたしは、こんな景色をどこかで見たことがある気がした。 「えぇ?違うよ。ぜったいそんなことない」 手に持っていたスマホを汗ばんだ頬に当て込んで、窓を開くと昼間に地表に残された熱い空気が、鋭い風音に混ざり、空へ逃げていくのが分かった。片手で数えられるくらいしかない星が点々と光る東京の濁った夜空は、その下で生きている人の生活によって、まるで世界を隔てるように、蓋をされているみたいだった。更けた夜なのに白んだ都会の空が、わたしが手にしたかった景色だったのだろうか。 「お前、何

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        漫画家の姉について【僕が小説を書く理由】

          「旅路」 ショート×ショート(2219文字)

          香港での出張を終えたシンジは、雲を眺めていた。きっと、ただの雲ではなく、うんと、空に近い、生い茂るように広がる雲の海だった。地球の向こうから、滲むように揺らいだ夕焼けが、雲海の凹凸に漂っている。 ―シンジ。今がいちばんしあわせでしょう。あなたなら、きっと大丈夫さ。 先月、結婚式を挙げたばかりのシンジは、現地の人間に言われたばかりの言葉を思い返していた。その台詞は、「ハピネス」と確かに英語で言われたはずなのに、頭に繰り返される言葉は、不思議とはっきりとした調子で、残り続けて

          「旅路」 ショート×ショート(2219文字)

          「方舟」ショート×ショート(1568文字)

          ーカラン、コロン。 喉を滑り落ちていく。その感覚だけが、頼りだった。 六畳一間。猫の額ほどのスペースで、俺はほとんどの日々を過ごす。朝から、乱暴に吹き付ける雨が、今にも崩れ落ちそうな窓をガタガタと震わせている。土壁に貼ってある、区役所からもらったハザードマップには、荒川区を中心とした下町が、ドラマで観るような刺し傷のように、郊外へ移るに従って、赤から色を薄め、東京全域に染み渡っている。一際、傷の深い真っ赤な傷口に住んでいるのが、俺の家の辺りだ。 「カラン、コロン」 も

          「方舟」ショート×ショート(1568文字)

          「New Generation」ショート×ショート(1063文字)

          「師よ。明日の昼に、旅に出ようかと思うんです」   老子の前に現れた少年はそう呟いた。灯に照らされた少年は、過去に現れた若者と何ら変わりがないように思われた。だが、老子はすぐに異変に気が付いた。床まで伸びた髭を撫でつけるようにして、目の前の現れた奇妙な胎動を捉えようと試みた。 「ふむぅ。して、君はどうして寝間着姿なのだ」 過去に村を出ていった者は総じて重々しい雰囲気と共に、老子の前に現れた。例外は無かった。旅立ちの儀式のようなもので、その瞳を熱く燃やした若者ばかりが現れ

          「New Generation」ショート×ショート(1063文字)

          「試み」 ショート×ショート(688文字)

          「どうだ、俺とひとつ、勝負をしてみないか」  ……… 「なあに、それほど難しいことじゃない。俺があんたの考えていることをずばりと当てるということさ。俺には、どうも不思議な力があってね。人の考えていることを見抜くことができるんだ。それはきっとあんたにも通じるだろうと思ってね。あんたの考えを最後に、俺が見抜ければ、俺の勝ちさ。見抜けなければ、俺の負け。どうだい、簡単だろう」 ……… 「ははは。そんなに間抜けな顔をするなよ。もう残念ながら、大方勝負はついているんだぜ。なぜな

          「試み」 ショート×ショート(688文字)

          「宝石」 ショート×ショート(952文字)

          Aの持つ宝石は、人々を魅了した。   勿論、石には違いないが一見して他のそれとは違う輝きを持っていたからだ。 Aは長い間、この宝石を探し求めていた。まるで見当違いだと人々は罵ったが、それでもAは諦めなかった。途方もない労力の末、Aはとうとうこの宝を手にしたのだった。Aがその宝石を天にかざすと、群衆は歓声をあげた。陽光にさらされた宝は、降り注ぐ光を少しも逃すまいと輝きを放ち、人々はその宝石の煌めきに心を奪われた。ある者は国が買えるような金貨でそれを手に入れようとし、またある

          「宝石」 ショート×ショート(952文字)

          「繋がり」 ショート×ショート(2319文字)

          あなたのおとうさんが亡くなって、もう三十年が経とうとしています。   あなたのおじいちゃんが明治から続けていた、福井市にある呉服屋を閉めるという決断をしたとき、わたしはまだ二十歳になったばかりでした。当時のわたしは、上京をしていて、大学で仏蘭西語を学んでいました。 同じ学内だったおとうさんと出逢ったのも、そのときのことです。 あなたが小さい頃に、並べて遊んでいたバルザックやユーゴの古びた重い書籍も、本当はすべて、わたしのものなのよ。周りの学友が喫茶店なんて洒落たデートを

          「繋がり」 ショート×ショート(2319文字)

          「理想進化」 ショート×ショート(2673文字)

          「…俺達って。進化してるのかな」 幼馴染みのケンは時折、妙なことを言う。 「進化?進化ってどゆこと?」 僕は笑いながら、そう軽く答えた。ケンは黒板消しを当てたまま、窓の外の校庭を眺めている。黒板には教師がトレースして描いたオタマジャクシが、次第に尾を失くし、カエルへと変態をしていく過程がリアルに描かれていた。ケンの手は、オタマジャクシのちょうど真上で止まり、そのまま動きを止めている。 チャイムが鳴り響いた。ケンはじっと、校庭を見つめている。ちょうど授業を終えた野球部が

          「理想進化」 ショート×ショート(2673文字)

          「ほぼ、だいたい、」 ショート×ショート(3676文字)

          カーン。カーン。 聞いたこともない奇妙な音色の木槌を合図に、さざめき合っていた場内は静まっていった。 横一列に座っている人達の目の前を、幾分か恰幅の良い男が壇上を目がけて、肩を大袈裟に揺らしながら歩みを進めている。自信というものが男の身体から、むんむんと溢れ出ているのが分かった。壇上を取り囲む人々は、怪訝そうに男の行方を追った。どこか卑屈そうに男を見上げ、ひそひそと悪態を吐く輩も見受けられる。スポットライトで照らされた壇上。取り囲むように座る人々の顔は暗がりに隠れている。

          「ほぼ、だいたい、」 ショート×ショート(3676文字)

          「止まるな」 ショート×ショート(1397文字)

          目の前の男の口は動き続けている。 身に纏う服に出来た大きな傷のような裂け目から、男の肌が陽光の下に差し出された。浅黒い、沈むような色だった。男の肌は汚れ切っている。元々は健康的な褐色をしていたのかもしれないが、今となってはもう分からない。恐らくは凛々しいはずだった顔立ちも、刻み込まれた深い皺と、無精に伸ばされた髭に隠されている。 男の口は動き続けている。ぶつぶつと。 まるで、何かを伝えようかとしているようだった。 驚くことはない。なんてことのない、東京の姿だ。 平日

          「止まるな」 ショート×ショート(1397文字)

          「境」 ショート×ショート(1770文字)

          ー空に向かってゆくんだ 飛び込み台に立った先輩がこちらを見て、浅黒い腕をあげた。思わず胸の前で握りしめていた手を解こうとしたが、両隣の席で一気に沸いた部員を見て、みんなに合図を送ってるんだと気が付いた。照り付ける光が波立つプールに反射して、その度にわたしの目の奥が微かに痛んだ。 「今日はすげぇタイム出るぞ、あいつ」 「あぁ。隣のレーンに北高の山岸がいるしな、今日は負けらんねぇだろ」 目の前に座った男子部員が話しているのが聞こえる。 昨日、わたしはベストタイムを出した

          「境」 ショート×ショート(1770文字)

          「新型」 ショート×ショート(2358文字)

          「本当に普通のくしゃみだったんだよ」 僕がそう語ると、目の前の女性は大きな笑窪を浮かべて、笑って見せた。僕は彼女が笑ってくれる嬉しさよりも、自身に起きている異変の真実を掴むことに熱心だった。あまりにも素敵に笑う彼女に語りかけた。 「あはは…ごめん。ごめん。うん、それでどうしたんですか?」 「くしゃみをしたんだ。ほら、花粉が飛び始めてるだろ?俺、少しアレルギーがあるんだ。だから、朝、窓を開けた時、鼻がむずかゆくって」 ノックする音が聞こえると、店員が何杯目か分からないビ

          「新型」 ショート×ショート(2358文字)

          「離れた星々と彗星」 ショート×ショート(3498文字)

          「つまり、こういうわけだ」   幼馴染であった。シバタは幼い頃から鼻筋の通ったアドルフの横顔を見て、自身の目を細めていた。視界の奥には沈んでいく夕陽が、バオバブの木の特徴的なシルエットを映し出していた。 「僕等はこの世に生を受けてからずっとテクノロジーにそのすべてを委ねすぎている。だからこそ、こういった時でしか、もうリアルを感じることが出来ないのさ」 アドルフはそう言うと、紅に染まり、今まさに息を潜めようとしている大地を確かめるように見つめた。シバタの頬にマダガスカルの

          「離れた星々と彗星」 ショート×ショート(3498文字)