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「あの頃のように、もう一度舟を漕ぎたい。」好奇心の、その先にあったもの。

また舟に乗りたい――
そんな想いを持って島に来た。
伝統のかんこ舟や、長年の経験を培ってきた島の人々との出会い。
彼にとって、そこで見えた景色とは?

島根県の離島、隠岐島前地域で大人の島留学・島体験に参画した皆さんの来島前・来島後、そしてこれからについてお届けする「私、島で働く。」

来島のきっかけから島での仕事・暮らし、自分自身の変化など
1人1人のストーリーをお届けしています。

森優樹さん
取材当時25歳 愛知県出身

R6年度大人の島体験生として海士町に来島し、その後は期間を延長。
現在も「海の士を育む会」で働く森優樹さんにお話しを伺いました。


いっそのこと、夢中になれることをしたい。自分の気持ちを諦めたくなかった。


ーーそもそもどうして島に行こうと思ったのですか?

森さん:
大学を卒業してからはずっと働いていました。
でもいつしか、

「やっぱりもう一度、舟に乗りたい」

そんな気持ちが、何度も何度も頭をよぎるようになって。

カヌーに熱を注いだ学生のころ

実は中学校から大学まで12年間カヌー部にいて、これまでカヌー一筋だったんです。
中学生のころは、放課後になるとトコトコ川まで歩いて行ってカヌーに乗る。それが日常でした。
だからどうしても、またずっと舟に乗っていたいこの気持ちを捨てきることはできなくて。

それでカヌー関係の求人を探していたとき、たまたま、「大人の島体験制度」を利用したTADAYOIのインターンを見つけました。かんこ舟の存在を知ったのも、ちょうどそのインターンや大人の島体験の説明を受けているときでしたね。

海士町ならカヌーにも乗れるし、伝統的な「かんこ舟」にも乗させてもらえるかもしれない。
いっそのこと、仕事をやめて自分が夢中になれることをしよう。
そう思って、島に行くことを選びました。

海士町の海

ーー中学校から大学まで、とても長い間カヌーに乗っていたのですね。どうしてそんなに、カヌーに惹かれていったのでしょうか?

森さん:
乗ったらわかる!

っていうのは丸投げだけど(笑)
正直、はじめてカヌーに乗ったときは全然楽しくなくて。
自転車に例えると、
はじめは全く進まないし、がんばっても5、6秒しか乗ってられない。やっと漕げた!と思ったら、すぐに曲がる。
おもしろいことが一切なかったんですよね。
ようやくちゃんと漕げるようになったのは、はじめてから8年経った大学生のときでした。

カヌー

なかなかうまくできない期間はすごくつらかった。
それでも、「あと少し」「もう少し」ってカヌーをやり続けたいと思えたのは、
やっぱりあいつ、本当におもしろくて。

ーーそこ、すごく知りたいです。カヌーのどんなところに、そう感じるのでしょうか?

森さん:
カヌーって、かなり不安定でバランスが悪いんですよね。
一瞬一瞬に集中しないと、かなり危なくて。
舟が傾いてしまったり、パドルで舟をたたいてしまったり。いきなり蛇行しはじめたりもするんです。
でも、それが本当におもしろい。

神経をピタッと研ぎ澄ませながら漕ぐから、「今なんとなく体の中心が右に傾いているな」とか「ここの筋肉がこんな風に動いているんだな」っていうのがわかって。

そうやって、カヌーに乗っているときは、今その瞬間にすごく集中できるんです。
2、3か月先の仕事の締切なんて、考えなくてもいいくらいに。

波に乗っているときは、自分を縛っているものに囚われる必要がないくらい、すごく自由でいられる気がするんですよね。

ーーカヌーに乗っているときは、今ここに意識を向けられる…すごく奥深いですね。ちなみに、かんこ舟の体験会やヨット教室などを行っている「海の士を育む会」で働こうと思ったのはなぜですか?

森さん:「海に関する体験や教育を通じてあらゆる世代の人々に海士町の海や文化に親しむ機会を創る」という、海の士を育む会の想いに共感したからです。

体育大学に通っていたとき、運動はこどもの発達や教育にすごく必要なものだということを学びました。
人間は、運動して食料を得ながら進化してきている。机の前で座っているよりも外に出た方が脳にはいい影響があるようで。
だから自分は、たくさんの子どもたちに太陽の下で海に親しみながら、思いっきり体を動かしてほしい。
その考えが、海の士を育む会の方たちと一致していたのが大きかったですね。

島でかんこ舟と出会う。島の方の後ろ姿から感じる長年の経験と誇り。

ーーずっとかんこ舟にも興味があったそうですが、実際に森さん自身がかんこ舟に乗ってみたとき、どうでしたか?

森さん:島に来るまでカヌーしか乗ったことがなくて気づけなかったのですが、はじめてのかんこ舟は、
「なんてこんなにおもしろいんだろう…!」
って感動しました。

島の伝統的なかんこ舟

クロールで水をかくときって、水特有の重さを感じますよね。水を掴むっていうのかな。
かんこ舟も同じで、櫓で水をすくうようにして掴めたとき、
「あ、今うまく進んだ!」
って体感的にわかるのがすごくおもしろくて。

あと、かんこ舟って、カヌーと違って船底が平らで安定するんです。
だから、バランスが崩れることを気にせずに思いっきり櫓を振りながら漕いでいい。とはいえ、振りすぎると今度はスピードが出ない。
その塩梅こそむずかしいけれど、カヌーとはまた違う魅力が、かんこ舟にはありましたね。

ーー地元の方と一緒にかんこ舟に乗ることはありましたか?

森さん:
ちょうどこの間、地元の方3人に漕ぎ方を教えていただきました。
舟に一人で乗っていたら、
「ちょっと陸に寄せてみろ!」
って言われて。そうしたら、地元の方が舟に乗ってきて、いきなり片手で漕ぎはじめたんです。
僕なんて両手でも必死だったのに、地元の方はそれを片手で、しかも胸を張った立ち姿で漕げる。あれは本当にかっこよかった。

ーー想像しただけでも、かっこいい…!みなさん、普段からかんこ舟に乗り慣れているのでしょうか?

森さん:
話を聞くとやっぱり、かんこ舟に乗って漁に出ていたみたいで。
今は76歳だそうです。
漁では、舟に乗りながら海の遠くを見なきゃいけない。だからあんな風にして胸を張りながら漕げるんだなって気づいたとき、すごく歴史を感じました。
とあるかんこ乗り体験会のときには、急に櫓が壊れてしまったことがあったんです。そんなとき、地元の方が家から角材を持ってきては、いとも簡単にちょちょいと直してしまって。

かんこ体験会

僕がもしかんこ舟に乗れるようになったとしても、やっぱり地元の方たちには適わないんだろうなぁ。
本当にかっこよくて、尊敬しています。


ーー島に来る前は、そうやって尊敬できる人に出会ったことはありましたか?

森さん:大学まで続けていたカヌーはスポーツだったので、これまでずっと、自分は競技の世界にいました。
試合の評価基準も、速いか遅いか。シンプルにそれだけ。
だから、カヌーが好きでもだんだん辛そうになっていく人を何人か見てきて。
でも、こっちの地元の方はそういう風には見えなかった。
勝ち負けとかじゃなくて、舟が暮らしの一部にあるように見えたんです。

ーー舟が暮らしの一部、ですか。

森さん:
そう。暮らしの中に、「かんこ舟」という楽しみを取り入れている感じですね。
もしかしたら地元の方は、そんなわけないって言うかもしれない。でも、70歳、80歳になっても、「ちょっと腕を見せてやるわ!」じゃないけれど、堂々と漕いで見せてくださるあの後ろ姿。

僕からしたら、地元の方にとってかんこ舟は、
仕事でもあり、暮らしの一部でもあり、日々の楽しみでもある。
そう感じたんです。

かんこ舟を漕ぐ島の方

経験を積みかさね、誇りを持ってかんこ舟に乗る姿が、本当にかっこいい。動画ではなく、直接見ないと伝わらないすごさがあるんですよね。

好きなことを追いかけたい。自分の根底にあった本音を再確認した。


ーー他にも、地元の方で森さんが影響を受けた方はいますか?

森さん:
ハワードさんという、ヨット教室を行っていて、冒険家でもある方がいます。一緒に働くことが多いのですが、あるとき、

「More fun!」

って僕に言っていたのが印象に残っていて。
英語でなんとなく聞き取れたことではあるのですが、
どうせ長くやるなら、やっぱり仕事は楽しまなきゃいかんよなって、そこで気づいたんです。

ーー島に来る前は、仕事に対してそうではなかったのですか?

森さん:
ずっと、仕事は楽しくやりたいって思っていました。
でも周りを見渡すと、いきいきと楽しそうに取り組んでいる人は誰もいなかった。
仕事というのはつまらないものなんだって、だんだん自分に言い聞かせるようになっていきましたね。

でも、やっぱり自分の根底には
「楽しく働きたい」
っていう気持ちが強くあって。
海士町で熱意をもったいろんな人と出会うなかで、もう一度、隠れていた本音を再確認しました。

ーー森さんが、いろんな人を舟に乗せているところを見たことがあります。

森さん:
はい。これまで僕は、周りの人とgive&takeの関係性を築けていないなと思って。いつも人からもらってばかりで、自分からはなにも与えることができていなかったんです。
だから、誰かが「カヌーに乗りたい」って言ってくれたら、「じゃあ、一緒に乗ろう」って言います。
これがgiveになっているかはわかりませんが。
でも、沖まで漕いで行って相手が疲れたなと感じたら、代わりに漕いで最後まで送って帰るのが僕の役割だと思っているので。

ーー実際にカヌーに乗って、みなさんはどんな感想をくれますか?

森さん:
「楽しい」って言ってくれます。
でも僕が感じる「楽しい」とは少し違っていて。

僕にとっては、水を掴むような漕ぎ方ができたとき、「よし、進んだ!」ってうれしくなる。
一方で一緒に乗った人たちは、カヌーに乗って波を感じたり、水面を眺めたり、手のひらで水に触れて遊んでみたり、そういうところが楽しいみたいで。
いろんな人と乗ってみたことで、自分にはなかった、のんびりした楽しみ方があったことを知りました。

ーー人それぞれ、違った感じ方があるのはおもしろいですね。
時にいろんな人を乗せたりしながら、これからも舟に関わり続けていきたいと思いますか?

森さん:
思っています。
やっと素直に言えた。

「舟に関わり続けたい」って言いきったら、覚悟を求められるんじゃないかってずっと恐れていたんです。
でも、もうちゃんと言い切れるようになりたい。

島でかんこ舟に乗ってみてはじめて、「木造船っておもしろい。」と感じたんです。
かんこ舟だけじゃなく、長距離移動できるヨットとか佐渡のたらい舟とか、他にもいろんな舟がある。まだまだ乗ったことのない舟が、自分の知らない場所にたくさんあるかもしれない。
そう思うと、すごくわくわくするんです。

20代後半に入るからいい加減落ち着かなきゃとは思うけれど、やっぱり舟に関しては好奇心が尽きないですね。

島に来て間違いなく、自分のなかにあった舟に関する熱は深まったと思います。

今日も仕事が終わったら、かんこ舟に乗りに行こうかな。



(R6年度大人の島留学生:髙橋)

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