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時間の先にあるおいしさ|牛すじ煮込み

料理のしやすさで選べば、肉はスライス/小間切れ/ひき肉が優等生で、食べる機会も自然と多くなる。だから「いつもと違うものが食べたい」という時は逆の発想で“料理しにくそうな材料”を手に取ってみるのが一番わかりやすい。

私は鶏の手羽先や豚のスペアリブをよく煮込む。手羽先はその旨味を思う存分吸い込んでくれる大根と、豚のスペアリブは沖縄風に出汁と醤油で煮付け次の日には麺で煮汁まですっかり食べ切りもう満足。さあ今日は何を煮込むか、何かいつもと違うもの、そんな気分の時に私がよく手に取るのが『牛すじ』。牛の部位の中ではかなり手頃に買えるのが嬉しいけれど、そうはいっても豚鶏よりはまだ高い。スジだけあってそのままでは固くしっかり下茹でする必要もある。それらを思ってスーパーの肉売り場でしばし逡巡しながらも、とろりと煮込まれたコラーゲンのなめらかな舌触りがふっと脳裏に浮かべばもう決まり。煮込みの中でも牛すじを使う料理は煮るほどにとろみを帯びて熱を保ち、乾燥した喉をつるり滑らかに通っていく感覚も心地良い。まさしく冬向きの食材。

煮込みに、おでんに、カレーに。じっくり煮込めば和洋を問わず味わい深い牛すじは“かけた時間をおいしさできっちり返してくれる”筋を通す食材です。

■牛すじのポン酢煮込みの作り方■

【使った材料】
・牛すじ…500〜600g
・玉ねぎ…300~400g、1〜1.5個位
・日本酒⑴… 60g(下茹で用)

[煮汁]
・出汁…300g
・ポン酢…100g
・日本酒⑵…30g(煮込み用)

・好みの薬味(青ネギ、もみじおろし、七味など)

牛すじはそのままでは固く、柔らかくするための下茹でが必要。下茹で〜煮込みまで少々時間はかかるけれど、やること自体は割合あっさり。長く下茹でしても旨さが十分に残る牛すじをポン酢の味付けだけでシンプルに煮込みます。コクのあるなめらかな味わいは、ごはんにもパンにもワインにも。

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①牛すじを下茹でします

牛すじは煮汁を汚すアクや脂が強いので、一度茹でこぼしてさっぱりさせてから使うときれいに仕上がる。鍋に湯を沸かして牛すじを入れ、再度沸騰するまで待ちます。アクがたっぷり浮いてくるので表面で寄って固まるまでそのまま沸かし続けてから、湯を捨てて水でよくアクを洗い流します。

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きれいにした鍋に水洗いした牛すじと新しい水をひたひたに入れ、酒を多めに加えて下茹でを始めます。蓋をして中火で煮始め沸いたら弱火に。あとは静かにコトコトと沸く火加減を保ちながら小一時間(45〜60分位)を目安に茹で続けます。時間はかかりますが残る茹で汁もスープとして別の料理に活かせるので、同時に2つの料理の下ごしらえが済むと捉えれば少し心持ちも変わるというもの。

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私は牛すじの下茹でにネギの青いところや生姜などの香味野菜を使わず、水に酒だけを加えて煮ることにしています。料理によっては香味野菜の香りが浮くことがあるので下茹ででは柔らかくすることだけに集中。茹汁もクセがつかずすっきりして使い勝手がよくなります。
ここまでの牛すじの下茹では他の料理に使うときも同じなので、一度に多めに下茹でして冷凍しておくと次に少し楽ができます。

②玉ねぎを切り、一緒に煮込みます
牛すじが茹で上がったら茹で汁から引き上げて食べやすい大きさに切り、煮込み用の鍋に入れます。これからもまだ煮込むので、この時点でとろとろである必要はありません。私は[まだ固さはあるけれど、そのまま食べることもできる]程度を下茹で終了の目安にしています。

玉ねぎは縦の長さを半分のくし切りにして上にのせ、煮汁の材料『出汁/ポン酢/日本酒⑵』を加え蓋をして中火にかけます。酸味が強いポン酢の場合は、好みでみりん/砂糖で甘味を整えてください。

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沸いてきたら弱火にしてコトコトと30分煮込みます。途中1度くらい全体をかき混ぜて後は待つばかり。

茹で汁はそのまま煮込みに使ってもよいのですが、何しろ素材の個性が強い。汁も牛すじ・具も牛すじだとやや強過ぎるように感じるので、私は他の出汁を加えるのが好み。違う旨味が重なることでくどさとは別の深みが生まれます。

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③薬味を用意します
よりすっきり食べられるように好みで薬味を準備。この日は彩りにもなる青いネギの刻みと、軽く水気を絞った大根おろしに一味唐辛子を混ぜたもみじおろしを用意しました。他には七味/黒胡椒/パセリのみじん切りなど。薬味とは違うけれど温泉卵も豪勢。料理自体の色が地味なので鮮度のある色味と風味を添えると見た目も味も華やぎます。絞った大根汁はお味噌汁に入れて食べると無駄なくおいしい。

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④完成です
牛すじと玉ねぎがしっとり馴染み、鍋の中に一体感が出ていれば完成です。熱々を汁ごと盛り付けてたっぷりの薬味といただきます。牛すじのコクと玉ねぎの甘み、ポン酢の酸味が渾然一体となり、とろりまろやかな味わい。下茹で段階ではまだコリっとしていた牛すじも、ぷるりとなめらかに変化しています。

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出汁とポン酢で和風なはずが、角が取れた柑橘系のまあるい酸味と牛すじのコクが相まって、不思議とパンにもワインにも合ってしまう。これも牛すじの底力。とろみのある煮汁がまたおいしく、パンを浸しながら食べ進めればまた幸せ。

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時間の先にあるおいしさ。
いつもの煮込みもいつもとは違う煮込みも、熱と汁は冬のなによりのご馳走です。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。



お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。