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あの頃、のレシピ|スープスパゲティ

イタリア料理が「イタメシ」と呼ばれていた時代。まだ若く、大人が集うようなレストランにはとても行けなかった私にとって、本と雑誌がイタメシとの貴重な接点だった。

人生で初めて買った料理本は加藤美由紀さんの『イタリア料理が好き』。1993年出版とあるから「30年…!」と流れた年月に驚きつつも時々開いて読むと、料理と器、構成までその全てに行き渡るお洒落さに、10代で初めてページをめくった時のワクワク感が少しも色褪せることなく蘇る。

本場イタリア帰りのスターシェフ達によって、スパゲティも現地に近い味わいがぐっと身近になり呼び方までがパスタへと変わろうとしていた当時、本物と同じ熱量で日常の中に俄かに近付いてきたのが「スープスパゲティ」。テレビから大量に流れてきた「スー・プ・ス・パ!」というワードは今も耳に残って離れない。

とにかく新しい何かとおしゃれなものに憧れていた。
「スープスパゲティ」を作ると、そんなあの頃を思い出す。

アンチョビとトマトの旨口スープスパゲティ

【材料】 1人前
・トマト缶…1/2缶(200g)
・にんにく…1かけ(10g)
・玉ねぎ…1/4個(70g)
・ぶなしめじ…1/2パック(70g)
・冷凍むきあさり…40g
・アンチョビ…5g(フィレ2枚)
・鷹の爪(輪切り)…1〜2つまみ

・オレガノ(あればお好みで)…適量
・おろしにんにく…10g
・オリーブオイル…大さじ2〜3(約40g)

・スパゲティ(1.4〜1.6mmの細めがおすすめ)…100g
・塩

さらりとしたトマトベースのソースがたっぷりのスパゲティです。旨味のある素材を重ねて作るソースのシンプルで自然な味わいが、パスタ自体のおいしさとよく馴染みます。家なら赤いソースのはねも気にせず楽しめるので安心です。


⒈ソースから作り始めます。にんにくはみじん切り、玉ねぎは長さを半分に切ってから繊維に沿って薄切りに、ぶなしめじは石づきを切ります。

冷たいフライパンにオリーブオイル(大さじ1)とにんにくのみじん切りを入れて弱火にかけます。にんにくは非常に焦げやすいので、香ばしさをしっかり引き出したい時には、必ず「冷たい油と一緒にフライパンに入れてから」弱火で加熱を始めることが重要です。

弱火でじわじわと加熱を続け、3分ほど経ってにんにくが色付き始めたら、鷹の爪と、アンチョビを加えてほぐします。にんにくは一度色が付き始めるとそこからの色の進みが早く、黒みを帯びると苦味が出て見た目にも味にも影響するので、すぐに次の材料を加えるのがコツ。

辛いものが得意なら、ここで鷹の爪を多めに加えると旨辛にできますので、お好みで調整してください。

⒉玉ねぎを加え、ここからは中火にして炒めていきます。玉ねぎに油が回ってしんなりツヤっとしてきたら、ぶなしめじを加えてさらに炒めます。

⒊きのこのかさが減ってしっとりとしてきたら、トマト缶を加えてトマトの実をヘラで潰しながら炒めます。完全になめらかにならなくても、ある程度潰れていれば大丈夫です。

今回はトマト缶半分を使って1人前で作っていますが、材料を倍にしてキリよく1缶使い切りで2人前(1人なら2食分)を一度に作っても良いと思います。

実がある程度崩れて鍋の中がグツグツとしっかり温まったら、水を加えます。トマト缶は大体400g入りなので、その缶に水を半分入れて加えると約200g(cc)が計れます。缶の内側に残ったトマトもゆすぎながら入れてしまえば無駄がありません。

トマト缶は、ラベルに細長い形のトマトが描かれた、赤さも味わいもしっかりと濃いイタリア産トマトのものをいつも使っています。このタイプの品種は加熱によって旨味が増すのが特徴で、種から出る酸味も含めて味わいに厚みがあり、あれこれ味付けに悩まなくても勝手においしい料理になってくれる心強い味方です。

⒋冷凍あさり、塩(3g、小さじ1弱)、あればオレガノを加え、煮立ったらソースの完成です。スープの素などは使わず味付けの調味料は塩だけと非常にシンプルですが、その方がトマトの爽やかさや、アンチョビとあさりからくる魚介系の旨味が引き立ち、却って本格的なソースの雰囲気が出てくるから不思議です。

オレガノはトマトととても相性の良いハーブで、フレッシュよりも乾燥の方が香りが強くなる珍しい種類。香り持ちが良く自分のペースで消費できるので常備しています。バジルやセージ、タイムなどお手持ちのハーブがあればそれを使ってただいても構いません。

⒌ソースができたら一度火を止めておき、パスタを茹でて仕上げていきましょう。鍋に約1ℓのお湯を沸かして塩10gほど(小さじ2強)を加え、パスタを入れます。

パスタがしなって全体がお湯に浸ったら、麺同士がくっつかないように軽く混ぜてから、「蓋をして火を止め」そのまま放置します。放置時間は、パッケージに記載されている茹で時間から2分を引いた時間が目安です。(9分茹での麺なら、7分放置)

パスタも言わば乾物なので、この放置法は乾物をお湯で戻すイメージ。吹きこぼれを気にする必要もなく、沸騰させながら茹で続けるのと変わらない時間で程良い硬さに戻ります。放置の間は鍋のことを気にせず、洗い物をしたり食卓の準備を整える時間が作れるので助かります。

⒍パスタの放置時間が経つ頃に、再びソースを中火で温め始め、おろしにんにくと、パスタの茹で汁をおたまで2杯ほど(約120cc)加えてスープの量を調整します。

最初に炒めたにんにくとはまた別に、仕上げのおろしにんにくで香りと旨味のインパクトを加えるのもこのソースの味ポイントの一つ。適度な俗っぽさも大事なおいしさの要素ですから。

そこへ湯切りしたパスタを加え、15秒ほど煮て麺とスープを馴染ませ、多めのオリーブオイル(大さじ1.5〜2目安)を加えてしっかり熱々に煮立てたら完成です。私はいつもパスタの湯切りにはザルを使わず、トングで鍋から直接ソースに入れています。茹で汁にはパスタの旨味が溶け出ているためソースが水っぽくなることはなく、むしろ適度な水分がソースに入ることでなめらかな仕上がりになります。

最後に加えるオリーブオイルの量がやや多いと感じるかもしれませんが、オリーブオイルはイタリア的な雰囲気とパスタらしいおいしさを加えてくれる大事な「食材」。単なる油ではなく「オリーブの実の果汁」と捉えて、むやみに控えず使うところではしっかり使うのがおすすめです。

深さのある器にたっぷりと盛り付けてどうぞ。パセリを振ると、赤いソースに緑が映えて見た目がより生き生きとします。

通常はフォーク1本で食べることが多いパスタですが、スープスパゲティの場合にはスプーンも添えて、スープと麺を一緒にバランスよく召し上がってください。

いわゆる普通のトマトソースのようには麺に絡まないものの、スープで追いかけながら食べ進めると、あっさりしながらも物足りなさは感じません。盛り付けた瞬間は、なみなみとしたスープの量に食べきれるかと一瞬不安になるかもしれませんが、食べ始めてみれば一口ごとに押し寄せる素材の旨味の重なりに手が止まらなくなり、きっとするりと食べられてしまいますよ。

それぞれの“あの頃”の記憶とともに、ゆっくりと食事の時間を愉しんでください。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。