マガジンのカバー画像

N

8
運営しているクリエイター

記事一覧

*触れる

*触れる

ゆうたろうのまっすぐさは
昔の彼を思い出させた

わたしが就職したときの上司だったNは9歳年上の
40代になったばかりのひと

大学時代から付き合っていた人と別れたばかりで
ちょっとやさぐれていた私
仕事で凡ミスが続き上司としても見かねたのだろう
会議室に呼ばれ、かなり叱責を受けた

泣きそうだった
だけど仕事が原因で泣くなんて自分が自分を許せない

男女雇用機会均等法がようやく浸透しつつあったそ

もっとみる
*触れるの先

*触れるの先

Nとの関係が変わったのは
営業先に一緒に行った帰り道

ちょっと飯でもどう?

彼が連れて行ってくれた店は
なんてことない普通の居酒屋で
特におしゃれなわけでもなく
特にオヤジ臭いわけでもなく
仕事帰りにちょっと飲む程度のありきたりの場所だった

「どう?最近は。少し雰囲気が変わっていい感じになったんじゃない?
意地っ張りな感じもなくなったし」

「意地っ張り?どういうことですか?わたし素直ですよ

もっとみる
*自然な流れ

*自然な流れ

麻美と呼ばれたときのことを繰り返し思い出す
いつの間にか顔がにやけてくる

仕事が手につかない、こんな感覚久しぶりだった

Nのほうをちらりと見上げると
部下の誰かと話しているか
電話で身振り手振りで話しているかの
大抵はどちらかだった

けれどそれ以外の時は
そう、そうじゃない時は
いつも私を見てた

Nとの関係が
ただの部下と上司でなくなるのは
そう遠くはないと思った

*甘い誘い

*甘い誘い

「コンヤアイテル?」と
職場のPHSにショートメールが入った
Nからだった

ちらっと確認したことを
Nは見ていた

わたしが返信をしないでそのままPHSを閉じると
「コンヤメシデモドウ?」と
再度ショートメールがきた

「メシですか?」と返信したら
「食事でもどうですか?」と少し丁寧な言葉が届いた。
「お食事ですね。承知いたしました」

レスポンスの後、そっと彼のほうを見ると
小さなガッツポーズ

もっとみる
*今夜は帰らない

*今夜は帰らない

今夜は帰りたくないと思った

もっと一緒にいたいと思った
ただその線を超えると
わたしが辛くなることはわかっていた

恋を人生のエッセンスのように楽しむ器用さは
そのころのわたしにはなかった

計算もできないし
駆け引きなんてもってのほかだった

好きだと思ったら一直線の今までの恋愛が
Nとの新しい関係に対する躊躇を与えていた

だけどどうしようもなかった
もう好きになってしまったら
冷静な気持ち

もっとみる
*エロティシズムな指

*エロティシズムな指

わたしは正直ラブホテルというものが苦手だ

男女のまぐわいの目的だけで設計されたその場所は合理的な場所なのかもしれないけれど
どうも好きになれなかった

ただ、今のこの時間から泊まるといっても
予約しているわけでもないのだから
きっとそうなんだろうと思った

だから
「Sまで」と
Nがタクシーの運転手にホテルの名前を伝えたとき驚きとほっとした
それと同時に
この人はどれだけ遊びなれているのか
そん

もっとみる
*アナタという海に

*アナタという海に

重たい恋愛は嫌だった
軽く扱われることはもっと嫌だったけれど

社内での恋愛なんて
どうやっても本気にはならないんだから
ある程度線引きをしておきたい
できるだけクールさを装おう

Nとの初めての時間は
驚くほどあっさりとしていた
濃厚なキスや、痛いほど抱きしめられるような
そんなドラマティックなものでもなく
いつも通りすすんでいくそんな感じだった

忘れられない様な熱い交わりよりも
このしっとり

もっとみる
*また見てるよ

*また見てるよ

オフィスでのNは少しだけくせ者だった

正義感がやたら強くて
間違ったことは絶対に許さない
会議でも納得いかないことがあると
相手にくってかかった
けれども
敵は少なかった様に思う
むしろ彼のファンという女性社員は多かったんじゃないかな

麻美のことまた見てるよ

時々同僚からもそんな風に言われて
「気のせいだよ」なんていいながら
まんざらでもなく

オフィスのバックヤードで書類を探していると

もっとみる