『ウルトラマンZ』は何故面白いのか。それはしっかりとした怪獣を使った物語表現としっかりとしたメタ世界に話しかけるようなセリフが多い、そして子供向け怪獣ヒーロー番組として純粋に面白いからだ。追記あり。

 『ウルトラマンZ』はとても面白い。ここ10年の特撮、怪獣もの、ヒーローもので私は一番好きだ。このままいけば、『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』は別格だとして、歴代で四番目か五番目にすごい『ウルトラマン』になるかもしれない。今『ウルトラQ』他第一期ウルトラシリーズを再放送するよりも現代に響くだろうと言う点では、今放送すべきウルトラシリーズとしては歴代最高傑作かもしれない。『ウルトラマンZ』はなぜここまで面白いのだろう。2020年8月7日現在考えてみよう。
 その理由は3つだ。1怪獣を使った物語表現がしっかりしている。2メタ世界に話しかけるようなセリフが多い。3そして子供向け怪獣ヒーロー番組として純粋に面白いからだ。それぞれ説明していこう。

1怪獣を使った物語表現がしっかりしている。
『ウルトラマンZ』ではなぜ最初に登場した怪獣がゴメスなのか、それをセブンガーが倒すとはどういうことなのか、なぜゼロを吸収したのが、プルドンなのか。なぜ一号がセブンガーで二号がウインダムなのか、なぜウインダムがなかなか目覚めなかったのか、なぜネロンガで起動したのか、なぜハルキが拾ったメダルがジャックとエースでマンや平成三部作のメダルは拾えなかったのか。ベリアル因子が何かということが理屈としてしっかりしている。それを紐解くと『ウルトラマンZ』の作品としてのメッセージがしっかりと伝わってくるし、物語世界としても満足の内容になっている。それに対する回答もはっきりしている。ゆえに面白い。

2メタ世界に話しかけるようなセリフが多い。
 『ウルトラマンZ』のセリフは作中内の世界でも通用するセリフ共に現実世界にも訴えるメッセージが多い。そしてそのメッセージを紐解くことで作品としてのメッセージが伝わってくると同時に作中世界でも違和感なく入っている。特に一話、二話、三話が素晴らしかった。
 犬を助けるために自分も死にそうになるハルキやジャグラーのセリフ、バコさんのセリフなども現実世界へのメッセージや、作品を通して作り手の魂がどちらに向かっているかなどもはっきりしていて良い。

3そして子供向け怪獣ヒーロー番組として純粋に面白いからだ。
 『ウルトラマンZ』は怪獣やヒーローやロボットが本気で好きな人が本気で好きなものの魅力を伝えようとして作っている。だから面白い。適当に作っているわけでも、おもちゃのために作っているためでも、ウケ狙いで作っているわけでもない。だから面白い。
 ヒーローはヒーローの怪獣は怪獣の、ロボットはロボットとしての魅力を持っているだから面白い。

 以上が2020年8月7日現在の『ウルトラマンZ』がなぜ面白いかの考察記事だ。


2021年1月8日追記

はてなブログの質問にて、この記事に質問があったので、追記した。その内容をnoteにも書き加える。

2020年12月25日、26日 追記 『ウルトラマンZ』最終回のネタバレあり。

マヨラーさんから「なぜ最初に登場した怪獣がゴメスなのか?」という点に関するコメントいただきました。マヨラーさん以外にもそのことを思った人がいるかもしれないので、そのコメントに返信する形で追記します。(2020年12月25日)

第一段階 考え方の基本、一般論

 作り手は作品に自分の気持ち、気分や考え方を乗せていることがほとんどです。

 その思いはひとつだけではなく、複数ある場合が多いです。

『ウルトラマン』のような関わっている人が多い作品の場合はそれだけいろんな人がいろんな思いを込めて作っています。

 「『ウルトラマン』を見て楽しい気持ちになってほしい」と思っている人もいれば、「かっこいいロボットを見て、自分もロボットを作りたいと思って欲しい」という人もいるでしょうし、中には「『ウルトラマン』を使ってお金を儲けたい」と思っている人もいるでしょう。

 田口監督はインタビューによればシリーズ構成の立場から説得ののちどの回でどの怪獣を出すかの主導権を得られたようです。そのため第一カットで登場し、すぐにセブンガーに倒される役にゴメスを選んだのは田口監督(と仲間たち)だと思われます。

ここまでが第一段階です。

第二段階 なぜ田口監督はゴメスを選んだのか。表の理由

 理由の一つはマヨラーさんも理解している通り『ウルトラQ』の第一話の怪獣であり、登場することが『ウルトラマンZ』を人気作品にする上で必要な要素だったからです。

 なぜゴメスをだしたら人気が出るのか、考えるられる理由は二つあります。

 

一つ目の理由は第一期ウルトラシリーズファンへのアピールです。ゴメスを出すだけで『ああこれは『ウルトラQ』の一話の怪獣だ』と思う人は少なくないでしょう。特に子供の頃『ウルトラQ』などを見ていた年代、現在65歳前後、もしかしたら孫がちょうど『ウルトラマンZ』を見ているかもしれない人がこの一話を見た時、自分が『ウルトラシリーズ』を見ていた時に好きだった怪獣が出てくることで、もしかしたら孫と一緒に『ウルトラマンZ』を見てくれるかもしれない、もしかしたらそれで気分を良くして怪獣のグッズなどを購入してくれるかもしれません。リアルタイム世代以外にも第一期ウルトラシリーズは完成度の高さから今なお人気があります。他の『ウルトラマン』は見ていないが第一期ウルトラシリーズは好きという人もいるのではないでしょうか、ゴメスはそれらの層にアピールするのに適してます。

 二つ目の理由として『ウルトラQ』第一話の怪獣を出すことで、特撮マニアに注目してもらおうとした考えもあるでしょう。

シリーズ物の第一話で第一作第一話の要素を出すことは並大抵の覚悟ではできません、適当に使えばシリーズのファンから顰蹙を買う恐れがあります。

 しかしそれをうまく演出すればゴメスを使うという心意気が評価され、ウルトラマンが好きだが、最新作を見るつもりがない人でもたまたま『ウルトラマンZ』一話を見た時見始めようと思う可能性があります。

 全員が全員ではないでしょうが、昭和の怪獣が好きなウルトラファンはゴメスを見た瞬間にそれがゴメスであると同時に、ゴメスがどのようなエピソードでどういう背景をもった怪獣なのかを思い出します。それは同時にゴメスを好きだったころの自分も思い出すのです。そういった効果がいつの間に忘れていたウルトラマンへの愛を復活させるきっかけとなり『ウルトラマンZ』からウルトラマンを久しぶりに見る人が増えるのではという意図があったのではないでしょうか。

おそらく田口監督と仲間たちは『ウルトラマンZ』の会議でこう説明した上で一話の怪獣を決めたのではないでしょうか。

第三段階 なぜ田口監督はゴメスを選んだのか。裏の理由

 しかし実際のゴメスはセブンガーにすぐやられる役でした。なぜこうなったのでしょう。

ゴメス登場時は一見怪獣もののような取り方がされていますが、セブンガーの半分の身長しかなく、すぐにセブンガーにやられます。これにはどのような意図があるのでしょうか。

 このシーンだけ見ても様々な取り方ができます。

正統派怪獣であるゴメスを二期のウルトラ怪獣の象徴ともいえるセブンガーが共倒れのような形で倒し、どちらもの戦闘不能となりビルが崩れるという円谷プロとウルトラシリーズの歴史を振り返ってるとも取れます。

ニュージェネレーションのウルトラマンは円谷プロが一度ダメになってから再生しつつある物語であり、ニュージェネレーションの後のウルトラマンを目指した『ウルトラマンZ』の冒頭でこれまでのウルトラシリーズの歴史を振り返るという意図はあったかもしれません。

他にもウルトラ怪獣といった怪獣ものが徐々にロボットものに押され人気がなくなっていった中、それよりもさらに人気なヒーローものの時代が来た。というアクションものの戦後史を振り返っているとも取れます。

 ただこれはあくまでこのシーンだけ見た解釈です。

田口監督ら作り手が作品に自分たちの気持ちを入れたとしてどのような気持ちを入れたでしょう。そしてそれはどのように描くのが効果的だと考えたのでしょうか。

 インタビューやTwitterでの発言などを意訳すれば田口監督は「ヒーローの魅力だけでなく怪獣やロボットの魅力も感じて欲しい」などのことを話しています。

 それをもとに考えればゴメスはそのことを演出するために選ばれたと考えられます。

 ではなぜゴメスなのか、考えるためにウルトラシリーズの現状を見てみましょう。

『ウルトラマン』はもともと怪獣番組でウルトラマンは怪獣を倒す役でした。しかしいつの間にか逆転が起きてしまったのです。すなわち怪獣はウルトラマンに倒される役となってしまっていたのです。

 ウルトラマンゼロ以降ウルトラマンはヒーローしての人気が強くなる反面怪獣は以前と比べると扱いが軽くなっていました。

例えば『ネクサス』や『タイガ』では怪獣がまるで悪かのようにもとられるように描かれています。最もそれはうわべの話であり、『ネクサス』や『タイガ』にもそれぞれの設定や魅力、メッセージ性があるのですが、初めて見たウルトラマンが『ネクサス』や『タイガ』の人が怪獣に悪役以上の魅力を感じることは第一期ウルトラシリーズや『ゴジラ』と比べると難しいのではないでしょうか。

反対に田口監督が担当した『X』や『オーブ』では怪獣が悪とは描かれていません。『オーブ』のジャグラスジャグラーも闇であっても悪ではありません。それは今回の『Z』でも徹底されていました。

 

 長くなりましたがこれを踏まえてなぜゴメスだったのか結論を書きましょう。

 『Z』制作チームは、『Z』であらためて怪獣やロボットの魅力を知ってもらうため、まず一話の第一カットで本来ウルトラシリーズがあるべき姿であった怪獣が人を襲うというシーンを見せた上で、それが簡単にやられるというというウルトラシリーズの現状を見せたのはないでしょうか。

 ゴメスは『ウルトラQ』第一話怪獣であり、古き良きウルトラシリーズの象徴であると同時に着ぐるみがゴジラの改造であったことから、ゴジラから続く怪獣ものの系譜であり、さらに改造されたという点から古き良きウルトラシリーズとは変化した現在のウルトラシリーズの現状を表していたのではないでしょうか。

 ゴメスを倒したセブンガーを倒したゲネガーグはおそらく生物兵器であり、悪に乗っ取られ武器と化した怪獣です。

 そしてセブンガーはウルトラマン同士が師弟関係であったり、兄弟であったりする二期以降のウルトラシリーズの象徴です。『ウルトラマンZ』は二期ウルトラシリーズで作られた世界観を前提に物語が作れています。

『ウルトラマンZ』とは古き良き怪獣を二期的な要素を持つロボット怪獣がビルごと倒した(円谷プロ経営危機の暗喩?)後、武器と化し改造された怪獣を二期的な要素を持つロボット怪獣が肉体は持っているものの、過去の遺産を使わないと一人前に戦うことができないウルトラマンが一緒に戦い成長していく物語であったのではないでしょうか。

そして彼が共に戦うのはウルトラマンの象徴であるウルトラマンゼロやジードだけでなく、怪獣側の象徴であるジャグラスジャグラーや怪獣好きのユカ、ロボット怪獣のパイロットヨウコ、そして存在自体が過去のロボットや怪獣映画の象徴ともいえるバコさんである。

彼は戦いののちにゼロの形をした操られたウルトラマンのまがい物を倒し、同時にレッドキングの卵も守ったのではないでしょうか。

この最終回の展開を考えた上で第一話の怪獣がゴメスとしたのだと思います。




ブログの方では『Z』の記事を書いたりしているのでそちらも見て頂けると嬉しい。https://otomizusinnzi.hatenablog.com/entry/2020/06/30/105949



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