「理不尽が日常」第2話

〇駅、構内(朝)

男子、人混みの中、小走り。男子の服装はビジネスカジュアル。
人をよけながら、急いでいる。

男子、改札で定期入れを当て、改札に入る。
男子、階段を駆け上がり、ホームに止まっている電車に飛び乗る。
ドアが閉まり、走り出す電車。

男子、車内の中に進み、吊革を持って立つ。
男子、電車に揺られながら、車内を見回す。

男子(M)「コロナが増えても減らないな」
車内、満員ではないが、そこそこ混んでいる。

男子(M)「前は空いてたから座れたのにな」
男子、座っているサラリーマンをうらやましそうに凝視する。

サラリーマン、耳にイヤホンをして、スマホを眺めている。
男子「ちっ」
と舌打ちをして外を見る。

男子(M)「空いてたら空いてたで、腹立つんだけどね」

〇会議室(朝)

派遣君、ホワイトボードの前に立っている。

派遣君「男子の不満を解説しよう!」

ホワイトボードには”空いてる”、”満員”、”在宅”、”派遣”、”正社員”などの文字が不規則に散らばっている。

派遣君、指し棒でホワイトボードの文字を指しながら、

派遣君「朝の電車が空いているということは、みんな在宅をしているということ。この場合、座れることはできても、自分だけが出社させられているという不満が湧いてきます。満員なら満員で朝から疲れて居心地が悪い。じゃあ、どないせーっちゅー話ですよね」
派遣君、にっこりと笑う。

派遣君「でも、ことはそんなに単純じゃありません。派遣生活は複雑なのです」

派遣君、ボードの”派遣”と”正社員”の文字を指しながら、
派遣君「ネットニュースで、正社員は在宅できても、派遣は在宅できないという問題がありましたね。こんなに単細胞な会社は少ないです。いまはSNSとかで拡散されちゃいますからね。でも、派遣にも在宅させるけど、正社員よりその日数は絶対的に少ない・・・そんな会社は山ほどあります」

派遣君、ボードの”派遣”という文字を指し棒でトントンと叩く。

派遣君「こんなことは氷山の一角。世間にたたかれないために、派遣にもそこそこの権利を認める・・・でも、そんなのは世間体を守るための偽善・・・男子の不満は、実はとっても根深いのです」
とシリアスな顔になる。

〇電車の中(朝)

つり革につかまって立ったまま揺れている男子。
男子「ふあ」
とあくびをする。

車窓に流れる景色。電車が大きな川を渡る。

男子(M)「今日も出稼ぎや」

ズボンのポケットに入れたスマホがピロンと鳴る。スマホを取り出す男子。
パスワードロックを外して、画面を確かめるとメールが届いている。新着メールを確認する男子。

派遣会社から新しいメールが届いている。メールを開く男子。内容は以下の通り。

件名:契約更新に関するご希望をお聞かせください

〇× △□様

いつもお世話になっております。
次回の契約更新の御意向について、貴殿のご希望をご確認させてください。
回答はこちらから

https://www.haken.co.jp/mypage/yorokonde-sakusyusaretennna-obakachan

男子、うんざりした表情をして、
男子「こんなことまでシステム化しやがって・・・」

〇会議室(朝)

派遣君「(ボード前に立ち、指し棒を手に、解説する気満々で)これはどーゆーことかと申しますと」

男子、いつの間にか派遣君のそばに立っている。派遣君、男子に気づいてびっくりする。

派遣君「びっくりさせないでよ」
男子「だって、俺も愚痴りたい」

派遣君「愚痴じゃなくて、解説だから」
男子「どっちでもいいよ、そんなの。ってゆーか、最近の派遣会社、ほんとにひどくない?」

派遣君「あ、まあ、そうだね」
男子「まあ、座んなさいよ」

会議室の椅子に座る男子。男子の前のテーブルにはお茶と菓子が散らばっている。
派遣君、薦められるままに、男子のそばに座る。

男子、菓子を頬張りながら、
男子「募集はネット、面談はリモート、更新はシステム。じゃあ、あいつらいったい何してくれてんの? それでマージンがだいたい三割前後なんて、馬鹿にしてない?」

派遣君「してるでしょ。派遣のことなんてなめてんもん、あいつら。代わりはいくらでもいるからね」
男子「いいね、いいね。のってきたね。いいよー」
と菓子を頬張る。

派遣君「(菓子をぼりぼりと食べながら、急にくだけた様子で)俺だって我慢してるんっすよ。やってられないっすよ、ほんと。誰のために働いてんだか」
男子「でも、三割なんて、嘘だよね。俺、派遣会社への支払いみたこともあるもん。自分に関する支払い。経理のデータで」

派遣君「マジっすか」
男子「人によるだろうけど、事務職でも、もっととってるって、個別にみたら」

派遣君「そうなんですか」
とうなだれる。そのまま机につっぷす派遣君。
派遣君、動かなくなる。
男子「おっ、死んだ? ついに死んだか?」
と派遣君の頭をつつく。
派遣君、反応しない。

男子、派遣君に向かって手を合わせ、
男子「ご愁傷様です」
と目をつぶる。

(終了)

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