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箱入り娘

「音葉ちゃんは、箱入り娘だから」

小さい頃に何気なく
友達に言われたひとこと

その頃は意味も知らなかったけれど

大人になって思えば、
そうだったなと思う

私にそう言ったあの子は、
幼稚園の頃から
家のお手伝いをしていた

小学生の頃、彼女の家へ遊びに行くと
彼女が家族の服のアイロンがけを終えるのを
漫画を読みながら待っていた

私にいたっては、ひとりで何かを
やり遂げたことなんて
あったのだろうか?

世話を焼かれ、手を貸され
あれよあれよと自分では
何もせずに1日が進んでいく

手足を動かすよりも
窓から自然を眺めたり、人形遊びで
想像の世界で生きていることの方が
多かった気がする

ひとりきりの時間が長くて
世界は常に自分の中にあった

それは幸せであり、不幸でもあり

幼稚園にあがってようやく、
外の世界へ出て行った

大人だらけの場所で育った私は
子供らしさに欠けていた

大人の機微は分かっても
子供心が分からない

子供らしい遊びで好きなものと言えば、
透明なビニールに花びらを入れて
色水をつくったり

遊具を船に見立てて
友達と冒険をすること

少しずつできた友達が
知らなかった世界を教えてくれた

桑の実を食べたり、花の蜜を吸うこと
山の中を探検すること
誰かと遊ぶということ

今でもひとり遊びの方が
向いてるなぁと思うことがある

それでも、人と話して
その人の世界を感じることや

会話の中で育まれる世界を
好きになった

世界が
どんどん広がっていく
そんな感覚が心地いい

一度しかないこの人生なら

この世界の広さと深さを
もっと感じていたいと願う


写真 mieさま