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ロングストレートの美人おばけ。

Netflixで映画『ポンティアナックの復讐』をみた。

ポンティアナッとは、マレーシアで有名なおばけの名前。日本でいうなら、口裂け女やお岩さんといったメジャー級の知名度で、マレーシア人ならほぼ誰もが知っている。長いストレートの髪型が特徴で、マレーシア文化通信WAU(ワウ)No.23の映画コラムによると、出産中に命をおとし、正しく葬ってもらえなかった女性のおばけらしい。ポンティアナッpontianakの名前は、マレー語のperempuan(女性) mati (死) beranak(出産)からきているそうだ。

映画は、うらみをはらすために村人を襲うポンティアナッのはなしで、ジャンルとしてはホラー。ホラー映画は大の苦手なんだけど、ポンティアナッに興味がありみてみたら、なかなかおもしろかった! 最後のシーンは、ポンティアナッがなぜかアクションスターみたいにかっこよくて、美しい主人公の女性とともに民族衣装姿が素敵(血がとびちっているが)。


わたしがマレーシアに惹かれる理由のひとつに、マレーシアの社会は、おばけや、死んだ人の霊や、森の精霊といった“目に見えないもの”との距離が近い、ということがある。宗教観が影響しているのは確かだけど、宗教と関係なく語られる“目に見えないもの”がマレーシアにはたくさんある。

日本でもわたしが子どものころはそうだった。「天国のおじいちゃんが見ている」とか「学校のトイレには幽霊がいる」とか「山道でたぬきに化かされた」など、そういう会話がふつうに語られていた。たぶん今でもあると思うし、単にわたしが大人になっただけかもしれない。でもマレーシアに触れていると、大人同士でも、むかしのように“目に見えないもの”を語る機会がとても多い。

たとえば、みんな怖い話が大好きで、カジノがあるゲンティンハイランドのホテルに出る幽霊話はてっぱんネタ。「夜中になると学校の校内を日本軍が行進している」「24時間操業の工場にはおばけ退治のための歌が毎晩流れる」「いとこが黒魔術をかけられた」など、聞けば、怖い話の持ちネタが続々。それもかなり凝っている。

ポンティアナッに関しては「車の上に乗っていた」「高速道路でマッハのスピードで走っていた」などの目撃情報も多く、「バナナの葉のなかにいるので、夜にいい香りがしても振り向いてはいけない」という教えもある。

町の映画館やテレビではしょっちゅうホラー映画をやっていて、ポンティアナッも、この映画だけでなく『Pontianak Harum Sundal Malam』『3 Doors of Horrors』など結構ひっぱりだこ。

ちなみに、マレーシアではおばけのことをハントゥ hantuといい、ポンティアナッのほか、トヨール、ペナンガランといった有名どころのハントゥがいる。


そんなわけで、マレーシア人と怖い話しをすると、たいそう盛り上がる。怖い話しなのになぜか楽しい。「これ知ってる?」「あれも聞いたよ!」「 それは無いでしょう!」と言いたい放題で、ワイワイ。目に見えないぶん、正解がないわけで、だから会話は自由にひろがる。

目に見えないものは怖い。でも、マレーシア人と怖い話をして感じているのは、目に見えるものだけを信じる世界の息苦しさだ。

見えないものがいない世界より、もしかしたらいるかもしれない世界のほうが、なんだろう、わたしには心地よく感じる。たとえるなら、暗闇に何か潜んでいそうな世界のほうが、単色の壁に囲まれた部屋にとじこめられているよりも、息が吸えるという感じ。もちろん、怖いけど。

水木しげるさんがこんな言葉を書いている。

――世界中の人々が“目に見えないけどいる”存在を“形”にしている。目には見えないが感じるものを“形”にして、つかまえて満足するという性質を人間はみんな持っているのだ。(水木しげる「頓智」一九九六年二月号より) 『水木しげる 日本の妖怪 世界の妖怪』(平凡社)――

なるほど、おばけやこわい話しは、国籍や民族や宗教を問わず、人間共通の興味。だから話していて楽しいのかもしれないな。

マレーシアのこわい話し、もっと知りたいです。

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マレーシアでもよく食べた大好きなエッグタルト。日本で買えるもので、わたしのいちおしは横浜中華街の「紅棉」。サクサクとしたパイ系食感の香港式の生地に、ぷりんとした卵の黄身が特徴的。すんごくおいしいです。

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