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混ぜる味が好きなのは。

マレーシアのKFCには、日本にないメニューがいくつかある。

そのなかで、住んでいたころによく食べたのが、マッシュポテト。ゆでたジャガイモをつぶしたもので、食感はカスタードクリームみたいになめらか。茶色のグレービーソースが上にかかっている。

こう書くとおいしそうだけど、かむ必要のない食感はおもしろみがなく、味は全体的にぼんやり。フライドチキンにコールスローといった味の濃い面々のなかで、この薄味のマッシュポテトの存在意義はどこにある? とずっと思っていた。

ところが先日、偶然の会話のなかで、なるほど!!拍手喝采したくなる答えが見つかった。マレーシア人の友人が、このマッシュポテトをおいしく食べるための秘策を教えてくれたのだ。

それは、マッシュポテトにコールスローを混ぜ、さらにチリソース(*)もすこし加える。これをフライドチキンにつけて食べる、ということ。「これが最高においしい!」と友人。
(*)マレーシアのファストフード店には、フライドポテトにつけるためのチリソースがかならず用意されている。

マッシュポテトのなめらかさに、コールスローのシャキシャキ感。そこにチリソースの甘辛なやみつき味をプラス。おぉぉ、これは即席の特製ディップソース! 食感の楽しさといい、味の広がりといい、とてもおいしそう!

「でもね、これをトレーの上でやるから、知らない人が見たら驚くよ」と友人。そういえば以前、KFCの食後のトレーに、手ふきの紙やらカップやらがてんこもりになっているのを見たことがある。あれはもしや、ディップ調理のためにプチキッチンと化したトレーの作業後の姿だったのかもしれない。


さて、ここから本題。

マッシュポテトとコールスローを混ぜるように、いくつかの料理を混ぜて食べるのは、マレーシア人の食事の基本スタイルだ。

ご飯とおかずを同じ皿にのせ、混ぜながら食べるのが、ふだんの食事。ご飯にカレーをかけたり、ご飯のかわりに麺にしたり。料理は人によって自由自在。また、決まった味を一緒に盛りつける「ナシレマッ」や「ルイ茶」といった料理もある。


そこで今回は「なぜマレーシア人は味を混ぜるのが好きなのか」について、妄想をふくらませてみたい。

まずは料理の特徴。これはタイ料理と比較して考えてみる。

タイ料理を紹介するとき、よくいわれるのが「五味」(辛味、甘味、酸味、香味、塩味)すべての味が含まれる、ということ。口のなかで、いろんな味を楽しめるのがタイ料理の魅力だ。

マレーシア人も、スパイスの香り、唐辛子の辛味、タマリンドの酸味など、さまざまな味を同時に食べることを好む。でもちょっと違うのが、ひとつの料理にいろんな味があるのを求めるより、複数の料理を一緒に食べることで、いろんな味を楽しむ、ということ。

この嗜好性が表れている料理の特徴が、タイ料理に比べて、マレーシア料理はひとつの料理に使う“食べる”ための具の種類がすくない、ということだ。

たとえば、チキンカレーなら、具は鶏とたまねぎ(生姜やレモングラスなどの根菜類やハーブはすりつぶした状態で多数入っているが、食べる具というよりも調味料の役割)。キャベツ炒めなら、キャベツのみ。レタスのオイスターあえは、レタスがメインで飾りにフライドオニオン程度。つまり、マレーシア料理は、具だくさんな料理ではなく、1種の具をどーんと主役にすえたものが多いのだ。

だから、複数の料理を一種に食べてもじゃまをしない。いい具合にマッチする。言いかえれば、複数の料理をともに食べるのが前提なので、具は厳選されている。

ちなみにこれは、タイ料理のレシピ本『暮らして恋したバンコクごはん~タイ料理レシピコレクション』『バンコク思い出ごはん~食べたい!タイ料理88レシピ』(タイカルチャー料理家・下関崇子さん著)の2冊、ぜんぶで180近いレシピをぱらぱら眺めていて気付いたこと。なぜなら、ヤムウンセンやトムヤムスープなど、多種の具が入ったタイ料理はカラフルで美しい。それに対して、具のすくないマレーシア料理は全体的に単色で、地味である。

マレーシア人のシェフによると、具の種類が少ない理由は、具から出る水分で味がブレるのを避けるため、というのもあるそうだ。たとえば漢方スープ「バクテー」に、水分の出る野菜はあまり入れない。つまり、すくない具で味をバシッ!と決めていくのがマレーシア流。また野菜から出る水分は腐敗の原因にもなりやすく、暑い国の屋台事情にも関係はある模様。


次に、食の好みについて。

最初からひとつの料理として完成しているものと、食べる直前に混ぜてひとつの味に仕上げるもの。このふたつにおける大きな違いは、「食感」だと思う。

コンビニのおにぎりを想像してもらえたらわかりやすい。海苔つきか、じぶんで海苔を巻くタイプか。違いは、しっとりかパリパリかの海苔の食感である。

マレーシア人は、食感をとても大事にする。カリカリ、シャクシャク、もっちり、しっとりなど、いろんな食感を楽しむためには、別々の料理として用意しておくのが効果的だ。KFCのマッシュポテト + コールスローなんて、まさしくこの典型的な例。いろんな食感が混ざり合うことで、おいしさは増し、そして食欲も刺激される。これがマレーシア人好みの味だ。


そして3つめ。食文化の多様性に関係があるのでは。

多民族がともに暮らすマレーシアには、さまざまな食の好みをもつ人がいる。毎日カレーを食べる人がいれば、辛いものがダメな人もいるし、肉にタブーをもつ人がいる。

マレーシアの外食店は、好みの味をお客さんが手軽に選べるように、調理済みの料理が店頭に並んでいるタイプの店が多い。どんな食材が入っているのか、たとえば唐辛子がたくさん入っているか、カレーなのか、スパイスが多めか。お客さんは実際にじぶんの目で見て、確認ができる。この仕組みは、さまざまな好みをもつお客さんがいる社会に合っている。

さらに、この仕組みは料理を出す店側にとっても便利だと思う。ここからは想像だけど、たとえば「この前食べた料理がおいしかったから、うちの店でも出してみようか」と新メニューを登場させる。もともとメニュー表(メニュー名の提示)がないので、メニューを作りなおす必要はないし、お客さんにあれこれ説明しなくてもいい。そこに並べるだけで、新メニューのおひろめだ。人気が出なければ、簡単に別の味にチェンジもできる。

この手軽さのおかげで、マレー系の店に華人系の料理が追加されたり、華人系の店にインド系のカレーが並んだり、いろいろな食文化がひとつの店で楽しめるようになった。お客さん側も、いつもの味を選びつつ、ひとつは新しい味に挑戦してみようか、なんてことも気軽にできる。そうやって食の交流がうまれているように思う。

店頭に料理が多数並ぶタイプの店で、ひとつの皿にいろんな料理をもりつける。その皿はいつのまにか、多様な食文化をもつ人が暮らすバラエティにとんだマレーシアそのものの味になっている。それを混ぜて食べるというのが、いかにもマレーシアらしい。そして、このいろいろな味を楽しむスタイルを、マレーシア人自身がたいそう気に入っているようだ。きっと、じぶんたちで作り上げてきた魅力ある食文化が、混ぜて食べる皿のなかにあるからでは、とわたしは思う。

長くなってしまったけど、まとめると「なぜマレーシア人が混ぜる料理を好むのか」は

・1種の具をメインにしたシンプルな料理が多い
・食感を大事にする
・食の多様性にマッチした

という3つの理由があるように思う。

もうひとつ、タイの宮廷料理とマレーシア料理の違いについても考えたけど、こちらも長くなりそうなので、また今度。


ケンタッキーの特製ディップ。食べてみたくてたまらないので週末に挑戦してみようっと。
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こちら、酒粕とアーモンドパウダーでつくる「パルジャミーノ」風。パルジャミーノか、といえば違う気もしますが、これはこれでとっても美味。かみしめるごとに広がる、酒粕の香りとうまみが最高です。作り方も超簡単。こちらの本『無国籍ヴィーガン食堂「メウノータ」の 野菜がおいしい! ベジつまみ』にレシピがのっています。おすすめ。

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