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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ

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2022年9月の記事一覧

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ13

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ13

毛玉と私はすでにあの黄泉地で魂の抜けた腑抜けで、ただ欲ばかり大きく、それも自分のことすら後始末ができていないのに他人のことには厚かましく幸福を願ったりしているので、神様たちもほとほと呆れていたのだ。
 思いが届いたとまでは思わないが、願いが叶う機会は与えられたのだ。願いが叶うとき願掛けの紐が切れるように、毛玉の仔うさぎたちは救われ、私の眼球は、娘は、その連鎖から救われたはずだった。

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ12

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ12

朝陽でぬくもった露草の雫が一滴、私の目の虚ろへこぼれ落ちた。雫は虚ろで溜まり、増え、ドロリとした球体になり、その虚ろを埋めつくし……。

目を開くと、その球体で世界を見ることができるようになっていた。
 私は草原で眠っていたらしい。ふところには毛玉のぬくもりがあった。
「おい、毛玉」
 人指し指で毛玉をつつくと、毛玉はのそりと起き上がり、相変わらずの悪態をつき、睡眠を邪魔したことを非難した。

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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ11

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ11

娘の琵琶が、夜風に鳴く。
 私の琵琶は、鳴いた夜風を踊らせる。
 ススキが、リンドウが、夜空の星明かりを写しとり、発光する。毛玉が、獣が、跳ね回る。
 産山に生まれた命が、踊る、踊る、踊る。
 私は琵琶を弾き、語る。思い出したこと、産まれ落ちた時のこと。夜風がやみ、ぬくい朝陽が額を撫でるその時まで。

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ10

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ10

三月ごとに方位を変える神様がいた。この神様の方向へ進むと祟られる。荒ぶる神様。金神様と呼ばれていた。
 私の父がまだ幼かったころの話しである。あるとき、金神様が父たちの村の方へ向かっているとの噂がたった。三月ごとの方位は決まっており、父が暮らす村とは方向が違っていたが、何故だかそんな話が広まっていった。最初は魚売りの行商からだったと思う。
 ーあんたら金神様の怒りに触れたらしかな。
 ーそぎゃ

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【小説】肥後の琵琶師とうさぎ9

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ9

ーーお前と娘の琵琶の音がいる。
 毛玉に、その仔うさぎたちの命を助けるためにと、とある山奥へ連れてこられた。娘も一緒である。
 山への出発前、どうやって娘を連れていくのかと問うたら、お前が撥を流せば勝手に現れると言われ、訳も分からず言われた通りに琵琶を弾いたら本当に娘が眼前に現れた。
「何なんだ。どうなっている」
 毛玉は、ただ琵琶を弾きつづけろと言うだけだった。
 そして、弾きつづけること一

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