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ト書きとは-脚本を読み物として楽しむススメ-

黒い白クマです。今回は脚本を楽しむ方法を説明していくゾ!
前提として舞台脚本の話になりますが、他のアフレコ脚本やドラマ脚本にも通ずる部分もあるんじゃないかなと思っております。

ト書きって何?

僕が言うト書きとは、一言で言えば「脚本形式の読み物」です。
本当は「ト書き」部分と「セリフ」部分の合わさった文章…正式名称とかあるんですかね。取り敢えず、ここでは文章の形式全体を「ト書き」って呼びます。一例を挙げると、こういうやつです。

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(出典:What am I
https://note.com/ot115bpb/n/n33d9aeb3caaa )

この赤線の部分が正しい意味での「ト書き」になります。舞台脚本ならば役者たちの動きや物の配置、照明や音響(BGMや効果音)の指示が書いてあります。アフレコ脚本やドラマ脚本なんかは僕の専門外なのでよく知らないのですが、カメラワークなんかも入ってくるんでしょうか。ともかく、全ての「指示」が「ト書き」に書かれます。

そして赤線以外の部分が「セリフ」。実際に役者が話す部分です。大抵の場合、役名の後にスペースが入り、その後ろに発話部分が書いてあります。たまに(倒れ込む)のように()で指示がぶっ込まれますが、これはト書きと同じだと思って下さい。というか黒い白クマの作品の場合はですね、正直改行するのがめんど……タイミングの説明が難しい時にこの()を使うので、マジで実質的ト書きです。

なんで読みにくいの?

読み慣れた身としては小説体(そもそも小説体って言う?言わねーか?)よりも断然読みやすいのですが、見慣れない方にはちょっと取っ付き難いですよね。

以前アンケートをとった時も、半分の方が「何かわからない」ないし「読みにくい」と言う回答でした。
元演劇部の方とか、舞台ないしアフレコ脚本を手にしたことがある方でもない限りは見覚えのないものかと思います。あと手にとる機会というと、文庫本ですかね。白水Uブックスのシェイクスピア全集とか。

じゃあ見慣れない人にとっての読みにくさ、違和感というのは、一体どこからくるのか?

小説を読む時って、割と多くの人はその情景を思い浮かべますよね?地の文の登場人物達の心情、動作、心の声を合わせて、目の前にその景色を思い浮かべていく。主人公視点で想像するかもしれないし、はたまた第三者視点で想像してもよし。(私は割と部屋の壁視点で読みがちなので後者っすね。)

ところが!ト書きの場合はどうでしょう。さっきの画像見てみましょうか。冒頭1文目、「全照。」

……ゼン、ショウ????(用語は後で解説しますね)

2文目、「神木、電話をかけている。」

……味気ねぇ〜!!!!

照明やら音響やらの環境への指示と簡潔な動作指定がつらつらと並んだト書きにだーーーーっと連続するセリフ、セリフ、セリフ!

このセリフの間この人どんな顔してんの?何してんの?どういう気持ち?

そういうのが一切ない、これが根本的な読みにくさではないでしょうか。これじゃ小説の読み方が通用しないですよね。

つまり!ト書きを読む時は、小説を読む時とは全く違うプロセスで脳内映像化する必要があるけれど、その方法が分からないから楽しめないのではないでしょうか。
とすると逆に言えば、映像化の方法さえ分かれば小説と同じようにストーリーを楽しめる、と私は思うのです。

ト書きの魅力って?

これは私個人の意見ですが、

読者側で想像する「隙間」が圧倒的に多いこと

が魅力のひとつだと思っています。舞台脚本の話になりますが、確かに表情の描写は少ないし、背景には「椅子ひとつありゃいいよ」なんていう劇もざら。でもそれは裏返せば、指示のない部分のキャラクターの表情も心の声も、セットの椅子の役割も、全てが読む人の思い通りということ。それってめちゃくちゃワクワクしませんか?

ト書きの映像化

これはすごぉーーーく私個人の意見で、楽しみ方は人それぞれだと思うのですが、あくまで一例として。

私の場合は小説を楽しむ時の頭の中とト書きを楽しむ時の頭の中って結構違います。

小説を読んで脳内で思い浮かべる様子って、割とリアルの生活の見え方と近いような気がしません?主人公視点にしろ、第三者視点にしろ、自分もその空間に包まれているような想像をしませんか?登場人物達と、同じ次元に存在するような感覚といいますか。

でもト書きは違います。ト書きが使われる脚本は全て、舞台、アニメ、ドラマ、映画など「スクリーンの向こう側」の作品を作る為の設計図なのです。だから読み手の頭の中で映像として想像すべきは、「書かれた世界」そのものというよりも「完成した作品」だと私は思っています。世界を思い浮かべるのではなく、舞台を、映像作品を思い浮かべながら読むのです。

小説は、その世界の風に当たり、主人公と一緒に冒険しながら読む。ト書きは、例えば舞台脚本ならば、客席に座って、もしくは舞台上で人工的なスポットライトを浴びながら読む。

この違いを意識すると、「作品を作る人たちへの指示」と「作中キャラクターの言葉」が入り交じったト書きの読み方が見えてくるのではないでしょうか。

実際に読んでいく①キャラクター、衣装、セット

ここからは今まで以上に私、黒い白クマの執筆スタイルを念頭に置いて進んでいきます。そしてますます舞台脚本限定の話になります。

『さよなら前世、また来て来世。』を元に説明していくので、良ければこちらの作品を並べてみながら読んで下さい。

題名の後に書いてあるのが「CAST」欄、いわゆるキャラクター紹介になります。ちなみに黒い白クマはキャラクターの事をCASTと呼びますが、本来「キャスト」はキャラクターではなく役者さん、または役者さんを配役する行為を指します。

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※私はキャラクター達のことを物語を構成するパーツとして扱いたいなぁという思いなどからこういう呼び方をしていますが、まぁ邪道ですね。

キャラクター欄には、小説と違ってどんなモブも含め出てくるキャラ全員が書いてあります。最初に主人公、その後ろに主要キャラが続いて最後にモブが書かれることが多いかな?古典作品なんかは、登場人物の身分が高い順に書いていたりするのでその限りではありません。

次に「服装」欄。キャラクター欄に併せて書いてあることもあるし、指定がないこともあります。書いてあったら脳内の役者さんに着せてあげてください。書いてない時は、本編読めば何となく分かるか、正直服装はどうでもいいかです。気にせず行きましょう。

本編が始まる前に「世界観」や「セット」について書かれている場合もあります。

「世界観」は本編が始まってすぐのト書きに書いてあることも。最終的にはセリフやセットで表現しなくてはいけない部分になります。セットをつくる時にイメージしやすいので、SFやファンタジーだと作品を作る人たちへ向けて書いておく人も多いですね。是非読んで衣装やセットの想像に役立ててください。

この「セット」というのは大道具や背景のことを指します。例えば舞台の一番奥、壁にどーんと大きい絵を立てていたり、最近だとプロジェクションマッピングを映し出していたりするの見たことありませんかね?あれが背景です。(黒い白クマは貧弱中高部活で生きてきたので、私の作品では基本的に背景は無です。そんなものは食べてしまいました。)大道具はここでいう机やベンチといったものになりますね。

「セット」の説明は、場面が動かない劇では本編前に書かれたりしますが、場面が移り変わったりする劇では、本編中のト書きに登場することがほとんどです。『さよなら前世、また来て来世。』でも本編中のト書きに書かれています。(以下P1,7より引用)

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「キャラクター」「服装」「世界観」「セット」など、これらの情報から皆さんの頭の中の舞台に物を置き、人を立たせる。そしてト書きに沿いながら(時にト書きを無視しても楽しい)物や人を動かしていくこと。これがト書きが使われている脚本の読み方の基本になります。

そこに音響だの照明だのエフェクト指示がぶっ込まれてくるから最初は「うるせ〜話に集中させろ〜」ってなると思いますけど、エフェクト理解すると頭の中の舞台がどんどん派手になって楽しいから心を折らずに行きましょ。

ということで次はエフェクト指示に出てくる演劇用語を解説していきます。

実際に読んでいく②動作、照明、音響などの用語

脳内映像化する最後の障壁は演劇用語だと思うんすよね。もうね、慣れてしまった身だと普通に使う言葉と混ざっちゃってどれが日常用語なのか専門用語なのか分からんくなってしまって……普通は全照とか暗転とか言われても分からないよね……分かるか……?日常会話でフェードって使う?使わん??私自身はもう毒されてこんな調子なので、この項目は皆様からの意見があれば随時更新していきたいと思っています!

取り敢えず『さよなら前世、また来て来世。』に出てくる私的に分からなそうなワードを拾っていき、かつ私が思い出せる限りの用語を並べておきます。黒い白クマの他の作品を読んだり、他の方の脚本作品を読んでいく中で意味がわからないワードが出てきたら遠慮なくコメント欄に質問して下さい。(あのお恥ずかしいのですが勘違いしてる用語とか無きにしも非ずなので間違ってたら教えて(小声))

それでは参ります。

<演出用語>
暗転/明転
転は「場面転換」のこと。舞台上のセットが入れ替わることを言うぞ。暗転の場合は舞台が真っ暗、つまりお客さんに物の移動を見せない場面転換。明転の場合は明るい、つまりお客さんに見せる場面転換になるぞ。

スポット(スポットライト)
舞台の一部分のみ局所的に照らす照明。サスペンション(後述)タイプだとその舞台の間中動かせないことがほとんどだけど、「ピンスポ(ピンスポット)」って呼ばれる照明は動かすことが出来るから、人物を追いかけることも出来るぞ。お金がある劇場だとサスペンションっぽいのに電動でグオングオン動くやつもあるから……まぁなんとも言えねぇな!ともかく○○にスポット、と書かれている場合、その人物だけが明るく目立っているイメージでOK。

サス(サスペンション)
単独で吊るされた照明。基本役割はスポットライトだと思ってくれ。ただし絞り(後述)によっては舞台半分を照らしたり出来るから、出来ることは沢山あるな。ちなみにサスペンションは基本的に人を追いかけたり出来ないぞ。ライトの一種だと思っておけば読むのには困らないはず!

ボーダー
サスペンションが1個なのに対して、列になってるのがボーダーライトだ!(雑解釈ですまない)ボーダーライトつけろって書いてあったら舞台全体の明るさが統一されたと思ってくれ。全照(後述)っていうとこいつらがつくぞ。

絞り
照明器具のパーツ。絞りの開き具合によって照らせる範囲が変わるぞ。絞ったら照らせる範囲が狭くなり、開いたら広くなるぞ!

全照
舞台全体が照らされること。大抵ボーダーライトの出番だ。スポットライトなどの局所ではなく、舞台全体が余すところなくお客さんの目に止まるようになるぞ。

フェードイン/フェードアウト
だんだん明るくなったりだんだん音が大きくなるのがフェードイン、だんだん暗くなったり音が小さくなるのがフェードアウトだ。ゼロから百の時はイン、アウトというけれど、最終的に完全についたり消えたりする訳じゃないときも徐々に変化することを「フェード」っていうぞ。

はける
役者が舞台から舞台裏(お客さんには見えない、人や道具の待機場所)に移動すること。退場と意味は一緒だ。というか、退場っていう書き方の方が私の癖が出ちゃった邪道な書き方か!?

ストモ(ストップモーション)
動きを止めること。再生停止ボタンを押されたみたく役者が動きを止めるぞ。

声/声のみ/録音
舞台上にはいない人が話す時、ないし舞台上は真っ暗だけど話し声だけがお客さんに聞こえる演出。録音、って書いてあれば事前収録だし、裏から、って書いてあれば舞台裏から叫ぶぞ。

最後に

普段何気なく楽しんでいるものを人に説明しようとすると……めちゃむずですね……!!

腐っても「読み物としてのト書き促進委員会」の会長としては(いつそんな会が発足した?)、ただ書いて押し付けるだけじゃダメだ!と思ってこんな感じの説明を作ってみました。

書いてみて思ったけど、演劇部の入門なんかにもちょうどええんじゃない?

さてもちろん僕の作品も読んでもらいたいんですが、「はりこのトラの穴」っていうサイトだと自分の好みのストーリーを検索出来るのでよりとっつきやすいと思います!是非皆もト書きを読む楽しみに目覚めてくれれば幸いです。

以上、黒い白クマでした!

ト書き作品紹介

黒い白クマの舞台脚本

黒い白クマの声劇脚本

色んな人の脚本

p.s.
……実は!例にあげたウィリアム・シェイクスピア先輩なんかはト書きがとっても芸術的。もはや小説の地の文と言っても差し支えなく、めちゃくちゃ散文的です。今回はシンプルなト書きの楽しみ方をお伝えしましたが、古典作品なんかは結構小説的に楽しめます。もちろん、今回の話を踏まえた上で読めば脚本的にも楽しめて一粒で二度美味しいですヨ!


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