ミュージカル「キングアーサー」配信視聴

 視聴した経緯は「HUNTER×HUNTER THE STAGE2」を観劇→クロロ役の太田さんの過去作を調べる→ランスロット役で出てる→おい加藤和樹がメレアガンやないか!!!→えーー2023年にこんな舞台あったんだな・・・と思っていたら、親切な人が「WOWOWオンデマンドで配信ありますよ!」と教えてくれた。というわけで2024年6月11日、12日に配信で視聴。
 
 見るきっかけは俳優さんだけど、元々アーサー王伝説は好きなモチーフなので、配信を知った時からかなり楽しみにしていた。なにより気になるのは、主人公がアーサーという点。
いや、アーサー王伝説って、聖剣エクスカリバーを抜いて王になったっていうのは有名なのに、肝心のアーサーはどうも地味というか華やかなエピソードがあまり無い。んで世の中で人気なのはランスロットである。逆にランスロットはこれでもかというくらい盛られている。まあ王妃との許されざる恋というのはロマンチックな騎士道物語の王道といったところなのだが、それにしても不倫が原因で騎士メンバーが二分って酷いやないかい。グィネヴィアとアーサーの結婚がガチガチの政略結婚だったとか、アーサーが老王で耄碌してたとかならまだわかるけど、そんな悪い点ないよな!?なんでみんなそんなランスロットに判官贔屓すんねん!王やぞ!・・・と思っていたので、この舞台ではどういう展開になるのか、ちゃんとアーサーは主人公なのか!?というのが凄く気になっていた次第。 

 舞台を見た感想は、全体的には良かった!他の方の感想を検索してみると『アーサー以外の登場人物が目立ちすぎて誰が主人公かぶれる』というのがあったけど、確かにモルガン&メレアガンのタッグは強烈で、私はもともとヒール役が好きなので凄く楽しかったけど、努力友情勝利を求める人には物足りなかったかもしれない。だけど、タイトルにあるとおり「キング」、王とは?という問いかけに対して「許しを与える者」になるというアンサーを示すにはこうなるかな、というのが個人的な感想。
 この点はグィネヴィアの恋ともしっかりリンクしていて、能動的なランスロットに対して、立場上グィネヴィアはどうしても受動的になるので嫌な女、悪女になりがちである。王妃であるからには恋はしたとしても心の中だけにしておいて拒めば不貞にはならないからだ、攫われでもしない限り。攫いに来たやつもいたな、メレアガンとか・・・まあそれはさておき。
 グィネヴィアの「親の決めた結婚ではなく恋をした相手と結ばれたい」という気持ちは若い女の子としてごく自然、というか老若男女関係なく誰しもそうである。実際、アーサーはそうしている。婚約者メレアガンが癖強ヒールとして設定されているので、相対的に「じゃあこのアーサーくんの求婚を受けたらいいじゃない!」と観客側は思いがちだが、武功をたてて結婚相手を自分で決めようとしているアーサーと、自分の意思では婚約破棄すらできないグィネヴィアではそもそも立場が違うのだ。
 ランスロットとの出会いが婚礼の前というのもタイミングとして残酷なところ。グィネヴィアはまだ神の前で誓いをたてる前の乙女であって、この時点で恋に落ちることは罪ではない。甲冑もマントも黒のメレアガンに対してランスロットは白。拒絶する相手に対して、愛する相手はアーサーではなくてランスロットなんである。それでも婚礼前なんだからダメだよ、と言ってしまえばそれまでだけど、思い詰めて攫いにくるメレアガンには「名誉のために取り戻す」という大義名分があり、アーサーの父ユーサー王も略奪によって息子を誕生させている。しかしグィネヴィアは指輪を贈っただけで(それが不貞のメタファーにしろ)火刑にしろ!という話になるんである。

 この男女で違うよね~ってのはモルガンもそう。キャラクターが鮮烈でモルガンこそヒロインでは、という感想も目にしたけど、彼女の復讐の動機は「母親が略奪されたことによって生まれた異父弟がアーサーだから」である。しつこいほどにモルガンはそれを繰り返し歌う。この「母親が陵辱され、父は死んでいるので自分が復讐します」というのは息子であれば、ヒール役であっても英雄譚になるが、娘が決行すると魔女ということになる。「ここまで強調するならいっそフェミニズム劇にすれば」という感想も読んだが、まあ結構ぎりぎりまで強調しているよな、とは思った。 
 黒のメレアガン、白のランスロットに対して、どちらでもないアーサーは『王』であり、世俗の階級から弾かれた存在になってしまっている。元々エクスカリバーを引っこ抜く気満々だったメレアガンでもなく、ストイックに騎士道を重んじてきたランスロットでもなく、もともとは自分の出自すら知らなかった青年がそれが運命だから、ということで人間ではなくなっていく残酷さ。浦井健治さんは初見の俳優さんだったけど、序盤は無邪気に、後半にかけては蛹が変体するかの如くの変化でした。

 その他役者さんたちの話をすると、安蘭けいさんのモルガン、まああああああ妖艶、カッコイイ。皆いうてるけどダンダリダンダリ、耳に残りますね。私は加藤和樹さんが好きなわけだけど、伊礼彼方さん版メレアガンもすごく良かった。加藤メレアガンはさ、闇落ちすればするほどむしろ輝いて見えて、伊礼ガンの方が病み深め。ランスロットは登場時「国一番の美青年が参りました」みたいなので笑いました。侍女の群れに混じったり、女の側から指輪もらったり何かと儚げ・・・と思っていたらえ、ここでお亡くなりに!?という展開だった。そのせいで円卓の騎士は仲間割れしなかったけど、グィネヴィアは一人で断罪されることに。ええんかそれで。でも主要人物の中で唯一、両思いを達成して幸せなまま死ねたのでやっぱりいいとこ取りしていったなこいつ。
 Wキャストで違いがあるのが一番面白かったのもこの役で、太田ランスロットはキラッキラの騎士様でグィネヴィアが一目惚れした瞬間が目に見えるよう。スカしてるのもここまで来ると天晴れというレベル。本人はあくまでも騎士道の延長で「お守りします」と宣言して、あとから「あ、これって別の感情だった」と気がついていくイメージだけど、平間スロットは好青年で純粋。自分に正直に生きてきたら最高の騎士になってました、みたいな。出会った中で一番綺麗だと思った人が王妃(になる直前)という女性だった・・・ってのが悲劇的でウェイクアップあたりからが凄くせつなかった。太田ランスロットの死は勝ち逃げ、平田ランスロットの死は悲劇、とまあ同じセリフ、立ち回り、歌でもこんだけ違うのか~というのが個人的に面白かった点でした。
 あとは侍女のレイアちゃん!これも皆言ってるけど、体の動きがキレイすぎるしすごい存在感。モルガンのためにもっと悪事の小細工をするのかと思ったけど、普通に良い侍女でもあったんですね。

 そういうわけでキングアーサー。できれば再演してほしいなキングアーサー。マントを翻すところ生で見たいよ。

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