供養の会「to kaho」
きみの偽物を見た。
六月だった。
デパートの屋上にある小さなメリーゴーラウンド、その隣のベンチで、おおきなクレープを食べていた。雲は妙に粘ついていて、まるで脂肪の膜のようだった。飛んでいた飛行機が絡め取られて、もがきながら落ちていくような気がした。
十月にも見た。
公園の砂場で、蟻の巣をじっと見ていた。ピクニックに向かう幼稚園児たちが、その横を通り過ぎていく。並べられたドミノのように整然と歩きながら、歌を歌っていた。あるこうあるこうわたしはげんき。目を離している間に、偽物はいなくなっていた。例えば楽園があったなら、そこに蟻の巣はあるのだろうか。そこに子供たちはいるのだろうか。
三月の最初の土曜日のことだった。
おおきなおなかで、真っ黒な服を着て、花屋の前にいた。木蓮の花を手に取り、少しだけ匂いを嗅ぐと、すぐに人混みの中へと消えていった。
花屋の前にはもう、なんのしるしも残っていなかった。木蓮の香りだけをかすかに感じた。ぼくは倒れていくドミノのことを思った。
季節は連なって崩れていく。春も夏も秋も冬も、その次の春も、同化して首筋を撫でていく。ぼくは生きているが、それは塗り絵とたいして変わらない。
あれからもう、偽物の姿は見ていない。
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