東京タワー、あるいは

 失ったもの、価値のなくなったもの、忘れてしまったもの、老いて衰えていくもの、奪われたもの、えとせとらえとせたら、そのすべてを躍起になって取り戻そうとする、そんなツアーでした。
 始まる前に見た十箇所という数字は途方もなく感じたけれど、終わってみればあっという間でした。ぼくは各所三曲での参加だったので体力的に幾分楽をさせてもらいましたが、フルで動き続けるシネマのメンバー、スタッフの皆さんには頭が下がる思いです。毎箇所すべての工程、それこそライブが終わったあとの搬出まで見届けさせてもらって、最高のチームだなと素直に感じ、そしてそこに自分が加われたこと、これ以上ない経験でした。
 アンコールでの演奏曲はfirst song,海について,great escapeの三曲を基本ローテさせていたのですが、ファイナルだけわがままを言って君になりたいをやらせてもらいました。いまは無き残響スタジオのスピーカーでプリプロを聴かせてもらった瞬間、「これはあれや、あれ、学校や…」と衝撃を受け、語彙を失い、三島に思わず連絡してしまう。そんな思い入れのある曲をやらせてもらえて、何かが成仏したような気持ちでした。
 当日話したことをここで蒸し返すのは信条に反するのですが、一点、シネマスタッフになりたかったという気持ちに関して。出会ってから十年以上、このツアーを周っている最中も嘘偽りなくその思いがずっと胸にありました。音楽の良さ、人柄の良さも含めて、自分にない光を持っている彼らに対する、憧れ、嫉妬、ごちゃまぜになったそれが心に癒着して剥がれない。一生続くだろうと思っていましたが、ファイナルの日を終えたいま、ちょっとだけ楽になった気分です。後ろ暗い人生を送ってきたぼくから見える海の向こうのひかり。触れてみて強烈に、ぼくはぼくでしかいられないということを痛感し、でもそれが喪失ではないというか……。厭わずに、慈しむ、当たり前に人間が持つ愛情をしっかりといま、彼らに対して向けられています。
 まるで墓参りのようなツアーだった。死んだものがぼくを忘れても、ぼくが死んだものを忘れなければそれでいいのだと教えてもらった。
 サンキューシネマスタッフ、いまこの瞬間までお前らになりたかったぜ。そしてなにより暖かく迎えてくれた各会場のお客様、ほんとサンキューな。
 ぼくはぼくでしかいられないので、ひとり音楽を続けさせていただきます。表立って出来なくなって、ひとりきりになっても思い出したかのようにまた音楽を作る。いままでもそうしてきたように、これからもそうしていく所存。みんないっぱいライブに来てね。次は新代田フィーバー、燃やすぜ。

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