ネパールに行った話 「医者の月給」

  前回の続き。

 成田空港を出発した飛行機は無事アブダビ国際空港に着陸し、トランジットが始まった。

 

『アブダビピンクドラム』

 アブダビ国際空港に着いたのは確か0時過ぎだったような気がする。

 そこから10時間待つ。長い。

 なにはともあれ乾杯しようと空港内のパブへ行ったが、高い。ビールの値段が信じられなく高い。アブダビの通貨UAEのレートが1UAE=30円位で、ビール1パイントの値段が70UAE=2000円!!ユーロホップ24缶買えちゃう!

「まじか……」

 KさんとM君と僕は顔を見合わせたが、最終的には飲むことにした。

Kさんが撮影した写真を拝借。リアル充実タイプの撮影方法。
 ビールで喉を潤した僕達は空港を少しだけ散策し、足を延ばして寝れる椅子が置いてある一画を発見したのでそこで夜を明かすことに。

 リュックを枕にして5時間位寝れた。

 寝る前にスマホに落としていた輪るピングドラムを見た。まさかドバイの地で初視聴することになるとは夢にも思っていなかった。生存戦略。

 僕の前に座っていた欧米のおばあちゃんもスマホで何かを見ていた。一体何を見ていたのだろうか。

 そんなことを考えながら眠りについた。

 

 目覚めると時刻はまだ6時前だったが、二度寝は出来そうになかったのでそのまま起きて1人で空港を散歩した。頭がボーっとしていたせいか、写真を全く撮らなかった。

 空港内はとても近代的で、なぜか伊藤計劃のハーモニーを思い出した。

 色々な人種の人が歩いていた。皆ここからまたどこかへと飛行機で飛び立っていき、目的地で観光したり、仕事したり、家に帰って日常に戻っていったりするのかと考えていたら、不思議な気持ちになった。

 気が付いたら2時間ほどブラブラしていたので、売店でサンドイッチと水を買ってKさんとM君の所に戻った。

 腹ごしらえをして荷物をまとめ、忘れ物の確認をして再び飛行機へ。昼前に出発して15時30分に到着予定の便に乗った。

 

『あの日あの時あの場所で』

 成田空港を出発して約丸1日。体も痛いし頭もボーっとするけど、やっとネパールに着く!僕は久しぶりに胸に抱いたワクワクする気持ちを抑えるのに必死で、まだかなまだかなとソワソワしていた。

 そして、ついに飛行機はトリブバン国際空港に着陸!

ウェルカムトゥネパール!


うぇるかむとぅねぱーる!!

ウェルカムトゥジャンゴー!!!

 

 そう。この時の僕は浮かれていた。

 長時間の移動から解放され、聳え立つヒマラヤ山脈を目にし浮かれていた。

 

 僕達は飛行機から降り、出国の手続きをする前に先に空港内でネパールルピーに両替することにした。疲れていたし、大晦日ということもあり、時間をかけて一番高い所を探す気にはなれなかった。

 Kさん。M君が両替を終え次は僕の番。

 

 黄色いバッグの中から財布を取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 財布が、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この鞄に入れておいた財布がない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は次の瞬間思い出した。

 財布をどこに置いたか。

 

 アブダビ空港を出発した飛行機。ネパールまで約5時間。

 その間輪るピングドラムの続きを見ようと機内のWi-Fiサービスを利用することに。1時間5$だったので迷ったが、残る数話を見てしまいたかったので購入。しかしnetflixのアプリを開いてみると「国が違うから見れません」と表示されてしまい断念。デビットカードを財布にしまい、財布を鞄へ戻すその前に、一度鞄の中身を整理しようと僕は席の前の網に財布を入れた。

 

 飛行機がネパールに着き席を立って一歩前へに進んだ時、僕は「あ、忘れ物ないか確認しなきゃ」と後ろを振り向いたのだが、降りる人の勢いと圧に負けて「まぁ大丈夫か」とそのまま降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

イェーイ!ウェルカムトゥネパール!

じゃねーよ!財布無いことに気付けよ!

今ならまだ間に合う!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イェーイ!M君かっこよく撮ってね!

じゃねーよ!財布財布!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は慌てて戻り、空港のスタッフにそのことを伝えようとした。

 英語力0の僕がその時咄嗟に口から出た言葉が、

「My wallet is lost」

だった。空港のスタッフはその言葉で察してくれたようで、MさんとK君を残し僕は空港のスタッフと一緒に来た道を戻った。

 滑走路から空港に入る入口の前で、僕と空港のスタッフは待機。スタッフは時折無線機で何かを話している。そしてスタッフは僕の肩を優しく叩いてくれた。優しい。そして近くの花壇にはなんとタカサゴモズが。日本では迷鳥としてたまに来る大変珍しいモズ。

 なんてことを考えながら、僕は財布を無くしたショックから現実逃避をしていた。

 

 財布の中には旅行の為に頑張って用意した5万円が入っていた。

 後にお義父さんから

「ネパールでは医者の月給が5万円らしいよ」

といううんちくを頂くことになろうとはこの時は思いもしなかった。

 

 

 というわけで次回「5000km離れていても」に続く……。

 

 

 

 

  


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