視線。

 息子は私の前に座り込み、俯く私の顔をわざわざ下から覗き込んだ。口は半開きだった。「そんな締まりのない顔やめなさい」と何度繰り返しても分かってくれない子だった。私は視線を合わせない。息子は発達の遅れた言葉に代え、小さな頭を私の視界の中でふるふる、ふるふるとこれ見よがしに振ってから「くひっ」と笑うという仕草を示した。息子が彼なりに気を引こうとしていることには気付いていた。けれど私は、怯えていた。見抜かれてしまうのが怖かった。私の中の一番悟られたくない感情。弱々しくて醜い心。母親などという役割に適さない無力さ。それら全てを、1人きりの2歳の息子が、無邪気に覗き込んで全て悟りきってしまうのではないか。
 その怯えはある意味、理不尽な姻族たちや封建的な両親が私に向ける圧迫的な視線に対して感じるそれと同等のものだった。

………………

 あの出来損ないの息子よ、なんとかしてもらわねえと。
 母親だろ?

………………

 息子は私の前に座り込み、俯く私の顔をわざわざ下から覗き込んだ。私は顔を上げる。
 「何?」
 「いや、気分悪いのかなと思って」
 「そんなことないよ」
 私は思わず愛想笑いを返した。
 息子はプイとそっぽを向き、皿洗いに戻った。私の身長をとっくに追い抜いた、その後ろ姿。

 私はつまらない記憶を辿るのをやめ、椅子から立ち上がる。