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「縦と横のバランス」 プレミアリーグ第25節 トッテナム・ホットスパー vs マンチェスター・シティ マッチレビュー

試合結果

試合結果:TOT 2 vs 0 MCI
得点者:63’ S・ベルフワイン(TOT)
    71’ ソン・フンミン(TOT)
場所:トッテナム・ホットスパー・スタジアム
審判:マイク・ディーン
スタメン:下図
白がトッテナム・ホットスパー(以下トッテナム)、黒がマンチェスター・シティ(以下シティ)

第25節 vs Tottenham スタメン

 <前半> 〜アクションと主導権〜

シティ ボール保持 × トッテナム ボール非保持

昨年の4月、ここトッテナム・ホットスパー・スタジアムでのCLのファーストレグはCityzenの記憶には新しい。序盤に得たPKを外してしまい、流れを持っていかれてソン・フンミンに決勝点を決められたあの試合以降、シティにはどこかしらトッテナムに対する苦手意識が芽生えているように見える。その後に行われたセカンドレグと今シーズンのリーグ戦の1試合目は、いずれもアディショナルタイムの勝ち越し打をVARによって覆され、涙を呑んだ。リーグ戦三連覇が非現実的なものになる中で徐々に行われるCL優勝への路線変更の準備段階として、このトッテナムを倒すことで昨年の苦い思い出を払拭し、弾みをつけようという心意気で臨んだのが、この第25節である。

そのスパーズもシティとの試合以降調子をあげているかと言われたらそうでもなく、今シーズンは長期政権を築き上げていたポチェティーノを解任し、ジョゼ・モウリーニョのもとで新しい道を歩み始めている。

というわけで、この試合は「モウリーニョ対ペップ」という世間的にも注目を集める試合となる。当然ボールを持つことで主導権を握るのはペップ率いるシティの方。まずはシティのボール保持の局面を見ていこう。

トッテナムの守備陣形はトップ下のデリ・アリが2トップの一角となる4-4-2。最終ラインはPAのライン上で、比較的低い位置にブロックを敷く。対するシティはこの日IHにギュンドアンを起用。ライン間でボールを引き出してラストパサーになるよりは、下がりながら後方からのボールを引き出してゲームメイカーとなる!というのがギュンドアンのタイプ。その起用法には賛否両論ありで、左内レーンのライン間のスペースを誰が使うか!という命題が残る。

この命題に立ち向かうべく、ペップが取った方法は「アグエロの偽9番」である。アグエロがこのスペースに落ちることでCBのアルデルヴァイレルトを引き出し、その背後をジンチェンコやスターリングが使いましょう!というのがこの日トッテナムに対して起こした戦術アクションである。

第25節 vs Tottenham ① あ

しかし、これが上手くいったかというとそうではない。特にジンチェンコは、メンディが得意とするこの動きを行うタイプではない。また、配置の噛み合わせ的にもフリーマンは作りにくいものとなっている。というのも、スターリングが裏を使うにはジンチェンコを経由するのが必至となってしまうが、ジンチェンコにはソンが、スターリングにはオーリエがついているため、スターリングが裏を使おうとすればトッテナム に対応の時間を与えてしまい、裏が使えないという状況に陥っていた。結局アグエロが落ちるだけになって深さが取れず、左サイドの攻撃はアグエロの個人突破頼みとなってしまった。左サイドの攻撃は停滞していた。

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というわけで攻撃は右サイド頼みに。特にチャンスとなったのは左からのサイドチェンジがあったときだ。マフレズは1on1で優位性を生み出せる選手である。チャンスとなったシーンでは、このマフレズがフェイントでタンガンガを揺さぶってクロスを上げたほか、デ・ブライネのチャンネルランやウォーカーのオーバーラップが行われていた。

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と言っても、マフレズにボールが渡ればチャンスになっていたと言い切れるものではない。時々オーバーラップをしていたウォーカーは、タスク的には後方でのボール出しとカウンター対策の二つが主であり、むしろオーバーラップはウォーカーの機動力があるからだと言える。また、マフレズはカットイン型のドリブラーであり縦へ行けるのは横へのカットインに強みがあるからだが、ウォーカーが上がれないためマフレズのカットインに対しては余ったSHのベルフワインが対応可能であり、封じ込まれていた。ニアゾーンと呼ばれるスペースを使えるのはチャンネルランをするデ・ブライネのみであり、左利きのマフレズはパスを出しにくいほか、ウィンクスやD・サンチェスも柔軟に対応していた。

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左右どちらのサイドでも主導権を握り切れなかったシティ。ところどころでチャンスを演出したもののそれを決め切ることはできない。トッテナムとしては運良く失点を逃れることができた。

トッテナム ボール保持 × シティ ボール非保持

ボールを持たないときのシティの陣形は4-4-2。トッテナムとは違い、ディフェンディングサードとミドルサードの境界辺りに最終ラインを敷く。対するトッテナムは右SBのオーリエが高い位置をとる一方で左SBのタンガンガは低めのポジションをとる。全体としては3-2-4-1のような陣形をとった。

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トッテナムは中盤において3vs2の数的優位を創出。アルデルヴァイレルトは正確なロングボールを蹴れる技術を持っているため、プレスをかければ中盤の数的優位をこぼれ球等で生かしてくる。というわけで2トップのデ・ブライネとアグエロは無闇に出ていくことはせず、「サイドに追い込む」ことを第一にパスコースを切るようにプレスをかけていた。

トッテナムはタンガンガが低い位置をとり、ベルフワインも絞り気味となるため、左から攻撃を仕掛けることはほとんど不可能と言っても良い。攻め手はジンチェンコvsソン・フンミンとなる右サイドであり、そこでの質的優位とオーリエのオーバーラップから攻撃を仕掛けようとしていた。

しかし、この日のジンチェンコは守備に関しては絶好調。タックルによってドリブル突破を許さなかったほか、カウンター時にも守備職人であるフェルナンジーニョをソン・フンミンがドリブルで圧倒できるまでには至らず。アルデルヴァイレルトも何回かジンチェンコ目掛けてロングボールを蹴るシーンがあったが、ボールを納めて起点作りをすることはできずじまい。右サイドを質的優位性で制圧することはできなかった。

ボール保持時に主導権を握れるほどのアクションを起こしきれなかった両チーム。優位性を得られたかというと微妙なシティの方は、チャンスらしいチャンスを作りはしたものの決めきれず。両チームともに徐々にエラーが増えていくようになり、30分辺りからはオープンな展開に。そんな中で訪れたビックチャンス。PK。ギュンドアン起用反対!と豪語するCityzenも口を揃えて「安心」というギュンドアンがキッカーだったが、運悪く外してしまう。キッカーから見て右下のコースをロリスに止められてしまうところから昨年のCLを思い出してしまった人も多いはず。このPKとその前後でのモウリーニョの様子が、お互いに主導権を握りきれずにオープンな展開となったこの日の試合を象徴しているように思えた。PKはもちろんのこと、決定期を作り出せたのにも関わらず決めきれなかった前半のつけが後半に回らなければ、、、と思ったCityzenも少なくはないだろう。

 <後半> 〜我慢の守備〜

後半になるとモウリーニョは守備の修正を行う。チャンスを何度か作られていた右サイドでのデ・ブライネにマンマーク気味にウィンクスがつくようになる。これによってトッテナムのCHの2人の間が空き、そこにアグエロが落ちてうけるようになるが、前半同様に裏を使う選手がいないため意味をなさない。落ちるアグエロにはCBが出ていく!と明確化され、アグエロのドリブルも半ば封じ込められた感じである。

60分ごろ、シティはジェズスを準備する。これは完全な予想であるが、ジェズスをマフレズと代えてスターリングを右におき、ジェズスを左内レーンのスターリングがいた辺りに置こうとしたのではないかと思う。右利きのスターリングが右に入れば縦突破が容易になるし、内側に絞っての仕事は本職CFのジェズスの方が慣れている。ジェズスの投入はこのような意図を持っていたのではないかと思う。

しかし、現実はそうもうまくいかないのか。投入直前になってジンチェンコが退場。シティは一人少ない状態での戦いを余儀なくされることとなる。そしてそれとほぼ同じタイミングでデビュー戦を飾るかのようなベルフワインのゴラッソ。前半の決定期を問題なく決めきれていれば後半の入りももう少し楽になったのかなぁって思う。。。

退場後は4-2-1-2のような形で中央からのこじ開けを試みるものの、シティの攻撃からサイドという選択肢が消えたためにSBがCBとともにシティの攻撃に対して必死に抵抗。そして71分に追加点をとってより楽な立場に回ったトッテナムは、80分ごろからは相手をいなすようにボールを持ち試合を終わらせにかかる。試合はそのまま終了。2-0でトッテナムの勝利で試合は幕を閉じた。

あとがき

焦ったい試合。もちろん勝ち切りたい試合だったし、CLに向けて勝ち切らなきゃいけないのだが、結果だけでなく内容もいまいちだなーというのが率直な感想である。特にギュンドアン起用に伴って行われた「アグエロの偽9番」。アグエロは特に言及するほどでないが、それに伴う周りの動きがちょっと物足りない感。不調のスターリングはまあともかく、ジンチェンコ裏取りできないか!って思った。でも、仮にクロスの体制に入っても誰が中に入るんだろうとも思った。アルデルヴァイレルトを引き出したならニアに1人は欲しいし。選手起用もそうだがそもそも戦術アクション自体どうなんだ?と感じた。

アグエロの列移動によって相手の守備の乱れを生じさせようとしたこの試合には、その乱れを生かせる「縦への推進力」が欠けていた。そうなると欲しくなるのはサネだ。現状WGの選手として挙げられるのは、スターリング、マフレズ、サネ、ベルナルド・シウバの4人だろう。このうちベルナルド・シウバとWGもこなせるジェズスは、内側に絞っての仕事の方が相応しいので除外して考える。この3人のうち、サネは「縦」が持ち味でマフレズはカットイン、つまり「横」が持ち味だ。スターリングは何方でもこなせる万能型。こうして展望するとWGの選手層的には「縦横」のバランスは取れているとわかる。WGはシティでは得点を取るための突破口となるポジション。試合に合わせて左右で縦横のバランスを取るように選手起用をするのが理想である。でも実際は選手それぞれの好不調があり、そうはいかない。例えば今シーズン絶好調のデ・ブライネは絶対に外したくはない。今節の試合では、結果として全体を展望した時に「縦横」のバランスが取れていなかった。そんな選手起用の難しさが垣間見えた試合だった。


トップ画像引用元
https://twitter.com/ManCity/status/1224007114760380420?s=20

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