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【代金は、”言葉”です】KOTO-BA-r オープンしました。

こんにちは、せいいです。

みなさんは、「モノとモノを交換する手段」と言ったら、何を思い浮かべますか?

お金はもちろん、物々交換も、ありますよね。
私が持ってるラジオと、あなたが持ってるランプを、交換したり。

でも、交換できるのは、そういう「目に見えるもの」だけなのでしょうか?
目に見えないものは、交換できないのかな。

例えば、言葉は?

そんなことを思って、代金が”言葉”のBar、その名も「KOTO-BA-r」を、
やってみました。
いわば、言葉のちからの実験 です。

お客さまには、注文したお酒の”代金”に相応しい、と思う「言葉」を、
お支払いいただきます。

言葉は本当に目に見えないの?
形のない言葉の価値は、本当にわからないのかな?

そんなことを、体感する夜。
どんな言葉が”支払われた”のか、その一部をご紹介したいと思います。

KOTO-BA-rのメニューは、ビール、ハイボール、ジントニックなどのオーソドックスなカクテルから、ウィスキーや焼酎、ワイン、日本酒まで。
通常のバーと、大きくは変わりません。

でも一つだけ違うのが、このマネートレイに載せるのが、お札ではなく、「言葉」だ、ということ。

お客さまには、お酒を注文いただいたら、
そのお酒を注文した理由や今の気分、そのお酒から連想することなどから、そのお酒に相応しいと思う言葉を書いていただき、このトレイに載せて、
お支払いいただきました。

まず一杯目を注文したお客さま達からは、こんな言葉が。

どうでしょう、みなさん、これらを見て、どの言葉が何のお酒に対する代金が、想像がつくでしょうか?^^

男は黙ってサッポロ(?)ビール。一杯目いただきます!』
は、有名なコピーライター秋山晶さんによるにコピー。
ビールを注文したお客さまが、このキャッチコピーが大好きだということで、こちらをいただきました。なるほど!

ちなみに「(?)」をわざわざ付けてくれたのは、ビールがサッポロかどうかわからなかったから。実は・・・エビスだったんです(笑) 
でも、冷えたビールの潔さは、変わりません!

6月の雨 心に沁みる』
蒸し暑さを吹っ飛ばせ!でも、蒸し暑さを楽しめるのも、イイネ!』
は、どちらも季節を感じさせる言葉ですね◎

この日は1日雨。KOTO-BA-rがオープンした夜の始まる頃は、雨は少し弱まって、しとしと降る程度に。
窓を開け放していたので、雨の音が聞こえるし、すこし蒸し暑さも感じられます。梅雨なんですよね~ 

ふだん、日中や仕事があると、「雨、いやだな」って思う。荷物が増えるし、服が濡れるから。
でも、そういう”目的”をいったん脇に置くと、「雨も、いいもんだな」って思えるような。

梅雨の雨の音と、秋の雨の音は違う。雨に関する言葉がこんなに多いのは、日本だけなんだって!そんな話まで、広がりました。

ここでお客さまも増えてきたので、お酒もどんどん注文され、”売上”がこんなに増えました!

う~ん気になる言葉がいっぱい!

嗜む』 
こちらは、焼酎のお湯割りを注文したお客さまから。
美味しいお酒を、温かくして、じっくり、嗜みながら。そんな想いが込められているそうな。

キラキラひかる』は、ハイボールを頼んだお客さまから。
氷が少しずつ溶けてきたグラスが汗をかいて、光に反射して、きれい!
同タイトルの江國香織さんの有名な小説も好きで、それと掛け合わせての
”代金”でした。

そろそろ』は、2杯目のビールを頼んだ私から。
飲み始める時って、とりあえずビール、で始まって、その流れで2~3杯目もしばらくビールになったりします。
でも、実は2杯目のビールを飲みながら、頭の中では「次はそろそろウィスキーかな」とか考えてる。心は別のお酒に浮気してるんです。
そんなことに気づいて、これにしました。

Feel like a cat』は、やられた!感が!
2杯目のハイボールを頼んだお客さまが、
「僕あんまりお酒に強くなくて、ほろ酔いのいい気分になってきたんです。そうしたら、窓からちょっと入ってくる風が気持ちよかったり、この部屋の感じが居心地よくて、うとうとしてきちゃって。それが、うとうとしてる猫みたいな気分かもな、と思って」とのこと。
心地よさをストレートに表現するのでなく、「猫みたい」という表現にされたのが、秀逸!いや~やられました!!

ちょっとだけ』は、一緒に今回のKOTO-BA-rをやっているこずりんから。お酒はあんまり強くはないけれど、「ちょっとだけ、なら、いいかな」と思って頼んだ、ハイボール。「ちょっとだけ」そこに現れるウキウキしている感じがいい!◎

ここから、「ちょっと」という言葉についての話が、広がりました。
「ちょっと」って言うと、逆に際立ちませんか?「あの子ちょっと可愛いよね」と言うと、「ちょっと」という言葉以上に、実はけっこう可愛いと思ってる、とか(笑)

あと、例えば会議などで「ちょっといいですか?」と言うと、逆に大事なことや、言いたいことがちゃんとある、という時がほとんどのような。
全然、「ちょっと」じゃないんですよね(笑)

言葉それ自体について、このように話すこともあまりないけれど、
よくよく考えてみると、無意識に考えていることや、言語化されていなかった感情に気づく。そんなことから、「あ~」「たしかに!」といった反応が生まれたようです◎


そんな流れで、しばらく歓談に。
今回のお客さまは、アート系や服飾デザイン、はたまた農業に関係する方などもいらして、バックグランドは実に多様。
それぞれが、お酒に対してどのようなことを感じたり考えて、どんな言葉を連想するんだろう?話題は尽きません。

話が盛り上がればお酒も進む。代金の言葉もどんどん溜まっていきます。

ここで、またみんなで”代金”を見て、「これ気になる!」という言葉を掘り下げてみました。

山上山有山又山』 
これは「山頂まで登ったら、また山々が続いていた」から転じて、
「何かを達成すれば、また次の目指すべき山が見えてくる」という意味。
う~ん、ストイック!ちなみに頼んだのは、ウィスキーのロック。
なんかわかる気がする!笑

PM 10時』は、
「自分が話す頃には、PM 10時頃かな」と思ったからだそう。
そして、「PM 10時って、なんだか狭間な感じがする時間じゃないですか?遅いのか、遅くないのか。これからなのか、そうじゃないのか」

これに対して、みんな「なるほど~!」と深くうなずきました。
「大学院に通ってるから、いつも授業中だ」という方もいれば、
「結婚して朝型になってから、そろそろ寝始める時間」という方も。

また、「飲み会だったら、そろそろ2軒目に行きますか、という時間だよね」
「子どもの頃、夜9時からのドラマは見れても、10時からのは”もう寝なさい”と親に言われて見れなかった」というお話なども出ました。

時間のこういう捉え方が、お酒から発想されるなんて、言葉の広がりは面白いなぁ

芋焼酎はソーダで割ると芋の甘みが引き立つ。良い酔い宵』
「よいよいよい」の響きが、すてき。まさにそんな夜です。


最後のターンは、こちら。

本当に良い酔い宵の時間になってきたので、お茶を飲む方も出てくる時間。
そこで、国産の薬草を使った伝統茶{tabel}の月桃茶を飲んでいたお客さまから、こんな”代金”をいただきました。

ニライカナイの景色が広がる』
留白』

月桃は、沖縄・石垣島産のもの。沖縄では琉球の時代から、遠くにある理想郷を「ニライカナイ」と呼ばれています。そこは豊穣や生命の源であり、神界でもあると信じられていました。

月桃はふわっと甘い、とってもいい香りがします。
そこからふわっと、豊かなニライカナイの景色が一瞬、まみえたのかもしれませんね◎

もうひとつの『留白』は、中国語で「余白を留める」「意図された余白」という意味。今回いらしてくれた中国からのお客さまが、
「これを飲んでいたら、なんとなく故郷のことを思い出した。中国の水墨画や詩では、”留白”が大事にされます。ふわっといい香りがして、その後は余白がある感じがしたので、これに」と語ってくれました。

う~ん、奥深い・・!もちろん日本語でも「余白」という言葉があり、その大切さは認識されていますが、「意図された余白」までわざわざ区別して別の言葉にする、ということは、よほど意識されていることなんだろうなぁ。

もちろん、こうして解説されれば、日本語が母語の方々も「なるほどね!」と、その言葉の表す感覚は、持っているのです。
つまり、日本以外の国の言語が交じることで、より浮き彫りにされる認識がある、ということなのでは、と感じました。
これもまた、言葉のちから なのかもしれません。

シメは、『Be Ambitious & Romance!』
みなさん、気づきましたか?

そう、こちらの”代金”は、あいうえお作文になってるんです!

以前実際にBar経営をされていたお客さまにいただいたこちらの”代金”。
「Barは、情熱的で、ロマンチックな場でないとね!」とのこと。まさに!
もう、これをBarの正式な意味として流布したいくらいです(笑)


さすがのシメの後は、引き続き自由に飲んだりお話しながら、KOTO-BA-rは夜に更けていきました。

同じお酒に対しても、格言から、今の気持ちを表した文章、キーワードのようなものまで、実に様々な切り口の”代金”が集まりました。
ここでは紹介しきれなかった”代金”も、どれも本当に面白いエピソードや選ばれた理由があります。

お客さまにも、こんな感想をいただきました。

雨がしとしと降る中、部屋で素敵な言葉と人にまみれて、よい時間だったなあとしみじみ」

「昔の人が和歌を送りあったと聞くたびに、何て芸達者だったのだろうと思う。自分には無理だが、歌の形式だからこそ通わせられる心の境地があるのだろうと、憧れていた。
KOTO-BA-rは、そんな憧れを別のアプローチで叶えてくれた。お酒と心地よい空間を媒介に、普段は引き出せない微妙な気持ちをみんなでやり取りできたと思う。」

「交わされたのが、価値のある言葉だったかはわからないけど、少なくとも僕は交換を通じて、前より言葉を大事に思えるようになった。
お酒よりも言葉に酔う、そんなひとときに巡り会えたことに、感謝している。」


冒頭に書いた
「言葉は本当に目に見えないの?」
「形のない言葉の価値は、本当にわからないのかな?」
という問に対しては、人それぞれ答えが違うかもしれません。

わたしは、こんなふうに考えました。

言葉それ自体は、やっぱり形があって触れられるものでは、ない。
しかし、”目には見えないけれど人の心を動かすもの”を留める役割を果たすのが言葉だとすれば、
これほど色んなものに価値を付与するものはないんじゃないか
、と。

お金を払って手短に済ませる代わりに、
いま飲んでいるお酒とか、今いる空間とか、出会っている人とか、
”今という一瞬”に立ち現れるものに対して選ぶ言葉に、ふだんより敏感になる。
それによって、じぶんの気持ちをいつもよりちょっと深く掘り下げられる。
また、同じように、ふだんより掘り下げて選ばれた他の人の言葉からは、受け取れるメッセージの幅も、ちょっと広がる。

そうすると、今までじぶんの言葉で作ってきた世界、みたいなものが、少し広がったように感じました。


これはまだまだ、実験してみたいっ!
KOTO-BA-rはじめ、言葉のちからの実験に、これからも乞うご期待です◎


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