見出し画像

【おさとうの頭の中】イスラエル、UAE国交正常化と今後の中東情勢

昨日、イスラエル、UAE間の商用フライトが就航した。国交正常化から、まさに異例の速さである。

そんな中で、イスラエルとUAEの国交正常化について、現在世界中のメディアやシンクタンクが経済、軍事、米大統領選挙、イスラエル内政など様々な切り口からこのディールの評価や考察、そして今後の中東情勢の予測がされている。現状アメリカが仲介して働きかけているバーレーンやスーダンは国交正常化を突っぱねてはいるが、一応中東にいた身として、空想レベルの分析を地図を眺めながらしてみようと思う。

1. なぜUAEなのか

そもそもなぜUAEとの国交正常化が優先されたのだろうか。世界地図を眺めながらその位置関係に注目すると、イスラエル、アメリカの思惑が少し見えてくるかもしれない。
UAEはアラビア半島の東に位置する国である。そしてアラビア半島の西側はイスラエルと既に国交を結んでいるヨルダンが位置している。この2つの国にカッチリ挟まれているのがアラブの大国、サウジアラビアである。
そのサウジアラビアの西側にある紅海の対岸にはこれまたイスラエルと国交のあるエジプトが位置している。現状でもイスラエルと国交のある3ヶ国に囲まれているのである。
さらにサウジアラビアの南東には近年イスラエルと交流を深めているオマーンが位置している。その西側に位置するのは現在戦国時代さながらのイエメンであるが、さらに西に目を向けると、そこにはスーダンとエリトリアが位置している。
実はエリトリアには紅海防衛の観点からイスラエルの軍事拠点が置かれている
ここまで見ると、あとはスーダンさえ取ってしまえば、サウジアラビアは北側以外をすっぽり囲まれてしまうことになる。

こう考えるとイスラエルのネタニヤフ首相が、今後国交を正常化させたい国になぜかアフリカのスーダンを含めていることも、なんとなく納得である。現在アメリカが仲介するディールを一旦は突っぱねているが、イスラエルからの経済支援や、アメリカからの制裁緩和等を提示された時、資源を南スーダンに置いてきたこの国がイスラエル側に転ぶ可能性は、低くはないのではないだろうか。

また、サウジアラビアは北をシーア派の影響力が強いイラクと国境を接しており、言ってしまえばシーア派とスンニ派対立のフロントラインである。こうなるとますますサウジアラビアとしても「敵の敵は味方の原理」から、東西南のスンニ派諸国と連帯を強めて協調姿勢を取ることが求められるだろう。

2. UAEの人口構成と国民性

また、UAEの人口構成とその国民性にも注目したい。UAE人口の8~9割を占めているのは外国人である。そして会社が居住ビザを保証する仕組みになっているため、UAEに住むほとんどの人間は働くために住んでいる。そして王族国家であり、そもそも選挙もないUAEでは住んでいる人間の関心は経済であり、政治へはそこまで関心を寄せてはいない。

さらに言えば世界中の人々が働きにUAEに移住しているため、UAEはアラブ国家というよりかは実質多民族国家である。その多民族ぶりと言ったら、ドバイにはしっかりユダヤ教の宗教施設であるシナゴーグもあれば、ユダヤ人のコミュニティがあり、そこがUAEにとって非公式なユダヤ社会への窓口となっているくらいである。なので多くの国民がアラブ民族主義的な大義を持っているわけでもなく、政治的なまとまりは限りなく薄いというのが実のところの姿である。

このことから、UAEがイスラエルと公式に国交正常化したところで、国内において民衆が反発して大規模な抗議運動が起こり、政治的な大混乱が起こる可能性が限りなく低い、というこの土壌が、まずUAEから国交正常化したことに関係があるのではないかと思う。

3.シーア派軍事拠点の分布

では一方で、イスラム教スンニ派と対立関係にあるシーア派の体制はどうなっているのか。
言わずもがな、シーア派の大国はイランである。そしてイランは国内だけでなく、主に中東北部にて軍事基地を展開、またはシーア派組織を支援している。
また、イランの西側に位置するイラクもシーア派の影響力が強い国であり、中部から南部にかけてシーア派が点在しており、特に物流の拠点である南東部に多くのシーア派が住んでいる。そしてIS掃討作戦をイランが徹底して支援したことから、イラクでのイランの軍事プレゼンスも大きい。

さらに西に視点を持っていくと、シリアが位置している。シリアにもシーア派から分派したアラウィ派であるアサド政権を支援する形で多くのイラン軍事施設が点在しており、具体的にはシリア北東部のアレッポからホムス、ダマスカスを通り南東部のダラア、そしてゴラン高原のクネイトラ、これらのエリアを南北に結ぶようにイラン軍地施設が設置されている

そしてシリアにおいてはイラン以外にロシアのプレゼンスも存在している。ロシアはシリア北東部、地中海に面するラタキアに空軍基地タルトゥースに海軍補給拠点を置いており、地中海において重要な軍事拠点となっている。その関係でロシアはアサド政権を支援しており、反政府勢力を支援している米国と対立しているのですが、ここにもまたロシア、シリア、アメリカ間において、「敵の敵は味方の原理」が働いている。

また、シリア南部からさらに西を見るとレバノンがある。そのレバノンの南部は「ヒズボッラー」というシーア派組織が事実上統治しており、その活動の支援をイランが行っている。

4.中東の南北分断

これらの関係から、今後の中東の姿として考えられる可能性のある中東の勢力構図をざっくりと簡単に地図に起こしたのが下図である。

赤が反米、反イスラエルのシーア派圏、青が親米、親イスラエルのアラブ諸国となる。
こうして色分けするとよりはっきりしてくるのですが、オセロのようにサウジアラビアがイスラエル側にひっくり返った場合、反米・反イスラエルの地域と親米・親イスラエルの地域で中東が南北に割れているのがわかる。

正直なところ、このような形で中東地域が引き裂かれることは起こって欲しくはないが、これからの中東を見るにあたって、中東全体を1つの地域として見るのではなく、南北に分けて情勢を見ていく必要があるのではないかと個人的には思う。

スンニ派が実権を握るがシーア派が多数を占めるバーレーンや、イエメン内戦の構造に触れられず、かなり雑で恥ずかしい限りだが、ひとまず、今回の出来事を私なりに大まかに分析してみて思うのはこんなところである。

気がかりなのは、パレスチナが一切登場しないで中東和平の話が進んでいることである。どんな結果になるにせよ、当事者間での和平が結ばれることを、願うばかりである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?