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あの日の代々木は暖かかった。


2020.03.15

文/中村美優
写真/ともまつりか

「見えません。」「一歩進んで。これは?」「……見えません。」「もう一歩進んで。じゃあこれは?」 「……見えません……。」「これも?」「…………め?……」

私の視力は、0.01が無いくらいです。多分。
小学生5年生の頃に熱心にパソコンゲームに向き合っていたら、みるみるうちに1.5もあった視力は0.1まで下がり、気付く事も出来ないはやさでに私の視界はぼやけていきました。
そして眼鏡をかけながらも、顔の知らない友達と毎日のように言葉を交わし、チェーンメールを本気で信じて恐怖におののき、今はもう忘れてしまったhtmlを駆使してホームページを作成していました。
そんな日々を過ごしていたら、何の為にあるんだろうと思っていた視力検査の1番上のバカみたいに大きい字まで裸眼では見えなくなって、友達が見ている中どんどん視力検査表に近づいていくのが恥ずかしくなって、なんとなく、それらしい形のひらがなを答えたりした。

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写真家のともまつさんと、中村美優でお届けするお散歩連載。
今回は、「代々木上原〜幡ヶ谷周辺」を、歩こうと思ったのですが、久しぶりにともまつさんに会ったらお話に夢中になってしまい、いつも以上にゆるゆるです。どうぞご勘弁下さいまし。

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待ち合わせたのは、「PADDLERS COFFEE」。
以前より行ってみたいと思っていたお店です。
平日のわりお昼前に行ったのですが、既に店内には多くの人。
出勤前だと思われる人から、近所にお住まいなのだろうと思う人もいて、一見ですお邪魔します、と小さく心で唱えつつ、ラテを注文。
もちろん、凄くウェルカム(というのもまた違う気がするけれど)な温かい雰囲気のお店なのですが、なんでしょう、隣の区のお祭りに来てみました、みたいな、それぐらいのささやかなお邪魔しますが言いたい感があります。

丁寧に作られたふわふわのミルクが口当たり優しく、苦味と甘さのバランスが絶妙でした。
初めてのお店ではラテを頼みがちです。ラテが好みなお店は、次に何を頼んだって自分にとっての大好きな味を提供してくれるんじゃ無いかっていう自信を持てるからです。
あと全然関係ないんですけど、自分の中の法則の一つに、本を買うときは最後の一文を読んでから決める、というのがあります。オチを知りたい、というよりも、最後の文章が好みかで決めます。
途中でくたばりそうになっても、わたしには最後の一文を読む使命があるんだ…!と、生き残ることができます、オススメです。

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お茶をしておしゃべりをしていたらお腹が空きましたね、ということで。
りかさんが「野菜が沢山食べらえるランチがあるよ」と教えてくれた、パドラーズコーヒーから歩いて1分の「デュボワ」へ。
カフェというよりもビストロという感じで、少し重ためのドアを開けるときはちょっぴり緊張してしまうのですが、良い意味で裏切られる感じです。
ランチメニューは3つほどあり、私もりかさんもサラダプレートを注文。
ご覧いただいている通り、私の体の横幅くらいある大きなプレートに、掌くらいのスープにパン、ドリンクもセットでなんと1000円です。
本当にお皿いっぱいのお野菜なのですが、味付けが結構しっかりとしていて、とにかく量があるのでお腹がいっぱいになります。オムライスなどもあるので男性も是非。

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前述の通り、私は目が悪いです。身長は150cmで、二重です。肌は白いねとよく言われます。
飛行機が苦手です。隣に誰か信用できる人を置いて、「この揺れは大丈夫、この揺れも大丈夫よ〜」ってずっと言ってもらいたい。
好きな喫茶店で、一人で携帯を触ったり美味しいコーヒーを飲む時間があると嬉しい。
人が怒っていると、自分が怒られているみたいに悲しくなってしまいます。
怒っている、とかじゃなくても、少し嫌になっちゃったかな、みたいなのとか、これくらいなら本当は触れないのが良いんじゃないかなと境界線がわからない事もあります。
逆に、喜んでもらえるんじゃないか、という事も思いつきすぎて、でも思いついてるのに全部実行できない自分に罪悪感を感じたり、そこまでやられたら気持ち悪いんじゃないかとか、考えればキリがありません。
クヨクヨしがちな事を指摘されたり、強くなれってよく言われていました。

性格は変えられるけれど、気質は変えることができない。
最近出会った本に書いてありました。
そこに続けて書いていたことに、私は少し救われたんです。
背が低いとか、肌が白いみたいな生まれ持った特徴と同じように、色々なことが気になる事も、生まれながらの気質なんだ、って。

背が小さい人に「大きくなれよ!」と指摘する人はあまりいないと思うんです。
それなら、気にしてしまう人に「気にせず強くなれよ!」と指摘することだって、同じことじゃないのかなって思ったんです。
ダメだって言われてきたわけじゃないのにな。不思議なものです。
それでも、気にしちゃうってそういうことよ、そう言う人だっているのよ、ってちゃんと説明してもらえるのって知ってると知らないじゃ全然違うなあって。

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それからというものの、私は以前に増してへらへらしていると思います。
あれもこれもダメじゃないかって思うことが少なくなったからから。
前は、好きでへらへらしてるのに、へらへらしていることすら何だか悪いことなのかと思ってしまったりもしていたけれど、へらへらして自分が楽なら悪いことじゃないのだと思えます。
悪くない事を悪い事なんじゃないかと悩んで、元気じゃなくなるってなんだかよくわからない。
ああ天気がいいな、やったー電車で椅子に座れたぞ、今日の料理プロ級じゃない?って、小さい事に喜んでバカみたいだなって笑う人がいるかもしれないけれど、それで自分が幸せになるんだから安いもの。だって色んなことにがっつり感情持っていかれるんだもん。誰かにとっては小さい事でも、私にとってはすっごい大きな出来事だから。

パドラーズコーヒーで、りかさんと沢山お話をした流れで、「最近こういう本を読んだんですけど、 」という話をしました。
知らない事を知り、なるほどなあと感じることは自分の中だけの出来事だけれど、それを誰かに伝えてみるというのはまた別の話な気がします。ほんの少しの勇気が要りました。
わかるもんね、よくわかんないけどなんかこういうのめんどくさいなって思う人だっている。それは絶対。

「私とは違うなあって思うけど、理解できないとか思わないよ〜!」っていつもと何も変わらないりかさんは答えた。
単純だから、それだけで私は、代々木がとても好きな場所になった。

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中村美優

北海道出身。女優。趣味はカレーを食べること。喫茶店巡り。
フィルムカメラで写真を撮ること。
twitter / @m_iyu0722
instagram / @m_iyu0722


ともまつりか

岐阜県出身、東京都在住。バンド carpool のベーシストで写真家。
twitter / @tm_mt
instagram / @tmomat
web / rikatomomatsu.com

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