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夜の拷問と田中角栄

私は電動歯ブラシで歯を磨いていただいている。

いつも器用に磨いてくださるヘルパーさんが、昨日は手が滑り歯磨き粉を山盛りに歯ブラシに付けて私の歯を磨き始めた。突然舌の先が飛び上がるほど辛くて目から涙がでた。

「おいおい、歯磨き粉が多いよ」と言い、私は歯磨き粉を口から出した。それがなかなか歯茎についた歯磨き粉は簡単には取れないものだ。口を少しゆすいで、また電動歯ブラシを動かしていただいた。

「これは夜の拷問だよ。こういう時は歯磨き粉を捨ててね」と言うと、「私は歯磨き粉を使ったことがないの。塩で磨いているの」と言われ、私は大きなため息が出た。ケアを受け、生きるということはこういうことである。夜の拷問である。なかなか障がい者であることはしんどいことである。

しかし、彼女とは今のところ信頼関係があるので、笑って済ませることができた。「今度から歯磨き粉が多ければ、水で洗面台に捨ててよ」と頼んだ。「はい、わかりました」と彼女は笑っていた。(こんな時笑うもんじゃない)と言いたかったが、もう眠たくなってきたのでおとなしく眠ることにした。

ほら吹き…?

1980年代、東京に行くと面白い脳性まひ者の男性がいた。彼はとてもハンサムで、言語障害がなかった。会うたびに、障がい者運動のことを語り合い時間を忘れるほどであった。

「小山内さん、僕はね、田中角栄さんとよく会うんだ。面白い人なんだよ」と彼は言った。私はこの人はずいぶんほら吹きがすごいなと思った。うその話だと思い、黙って聞いていた。

田中角栄さんはひょっこり誰のうちでも飛び込んできて、困ったことはないかねと聞いていたらしい。田中角栄さんは脳性まひの彼と会って、「障がい者の人たちは何が欲しいのかね」と聞いた。彼は「電動タイプライター、ウォシュレット、電動歯ブラシ、電動車いすなどが欲しい」と言ったらしい。私はそんなことが実現するのか半信半疑で聞いていた。

それから何年か経ち、私は父に「電動タイプライターが欲しい。ウォシュレットが欲しい。」とお願いし買ってもらった。しかしその1年後、国からそれらが支給されることになった。

父は私に「みちこの買ってほしいものは、国からでるようになってきているんじゃないか。他に欲しいものがあったら少し我慢すれ」と言った。父の言葉には納得できたが、待っていると年を取り遅くなってしまうかもしれないという恐ろしさを感じた。


東京の脳性まひの彼は、「ほらね、小山内さん、僕の言った通り角栄さんは僕の言ったものを全国に支給してくれたんだよ。すごい人だよ」と言っていた。

やはり彼の言ったことは本当だったのだな、田中角栄さんは心ある人だったのだなと思った。でもロッキード事件を起こし、お金に目がくらんでしまったのだなと残念に思った。

誰でも若い時は本物の気持ちを持ち、新鮮に働いている。しかしどこかで罠があり、心がすさみ、お金に目がくらんでしまうのかもしれない。その繰り返しが政治なのかもしれない。

手のない人が銃を撃つための機器

電動歯ブラシアメリカで戦争で手をなくした人のために開発されたものだという。そのようなきっかけで開発された福祉機器がたくさんある。

今は戦争で手をなくした人たちのために、また銃を持てる機器を開発し、また戦争に行けるようにトレーニングしているという姿をテレビで見た。「なぜまた戦争に行くのですが」とインタビュアーが聞くと、「家族を養っていかなければならないからだ」と一人の男性が答えていた。

なんと悲しいことか…

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