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阿漕(アコギ)

阿漕海岸は伊勢湾に面した全長二kmほどある広大な砂浜である。
三重県庁所在地、津市の東岸にあたり、付近は閑静な住宅地が防波堤を隔てて広がっている。

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伊勢湾は大抵穏やかである。砂浜に打ち寄せる波も大人の膝を越えるものはめずらしいようだ。かつては、ゴミや流木などの漂着物が散乱した汚いところだったらしいが、ボランティアの努力によりみちがえっているらしい。ゴミの類はほとんど眼に留まらず、無数の貝殻と海草、いずこから漂着した流木が点点とある。

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ここは昔、御贄所(おにえどころ)と言われ、その沖合は神聖な海域だった。そのため禁漁域となっており、密漁した者は死罪となった。

「阿漕」は、付近の漁村に住んでいた漁師の名前が由来と言われる。阿漕平治(平次)という名の漁師は、病の母へ体に良いと言われた矢柄(ヤガラ)なる魚を食べさせるため、夜な夜な禁じられた網を引いた。やがて、その密漁は役人の知ることとなり犯人の捜索が始まった。その矢先、平治が不注意にも自身の編傘を浜辺に置き忘れたため、彼の罪が立証されて捕えられた。彼は死罪を言い渡され、簀巻きのままどこかの海に沈められたという。
「阿漕ぎな」とは、この伝説より生まれた言葉といわれる。母思いの男が掟を破った罰のために海に沈む。今でも「アコギな奴だ」などというが、その言葉にひそむ非情な様は、現代にも受け継がれているのか。

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※写真はすべて、α7s + OM ZUIKO AUTO-T 100mm F/2.0

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