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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 2. 自分を見つめる②

 その時、彼女は僕にこんな質問を投げかけてきた。


「これまで誰に話しても、ちゃんと聴いてくれたこと無かったんです。なんで聴いてくれたんですか?」


 そんな咲笑ちゃんに、僕は自己開示をするために答えた。


「僕は心理学を学んでいる途中で、自分自身が抱えてたつらさに全く気付いていなかったことに、突然気づいてね。

僕は親から愛されずに育ってきたと思っていて、だから『家族と離れて暮らすくらいなら仕事は辞めてもいい』くらいに考えてたんだけど、でも結局単身赴任になっちゃって。

その頃の僕は毎週週末に自宅に帰ってたんだけど、遺書を書いたり、生命保険を見直したり、いざという時のために自分が前向きにしてたつもりでいたことが、実は全部死ぬための準備だったってことに気付いて。

人のつらさはそれぞれ違うし、見た目では分からないしね。

だから僕は今、そんなつらさを抱えてる人に気付いて、寄り添うことのできる、そんなカウンセラーを目指そうと思ってるんだ。」


 自分自身の苦しみでさえ、人は気付かないことがある。他でもない僕自身がそうだった。

家族に会うためという名目の下、単身赴任がつらかったから毎週自宅に帰っていた僕は、一人の時間から逃げるように、心理学を繰り返し学ぶ時間を手に入れた。

正直に言うと最初は学びに行っていたんじゃない。日本メンタルヘルス協会の心理学講座が面白いから、そして安いから、大きな声で笑って、時には涙を流す、そんな時間を手に入れるために通っていた。

しかもその頃の僕は、「単身赴任になったから、この学びの時間を手に入れられた。ラッキー!」と本気で思っていた。この気持ちに嘘はない。でもある講座中に、気づかされてしまった。


「出来事が感情を作るのではない。出来事に対する、その人の受け止め方が感情として表れる。この受け止め方のことをビリーフと言います。」


 そこまではちゃんと理解していた。でも。


「本当に危機の時じゃないと、ビリーフ修正はなかなか出来ないものなんです。」


『いやいや、僕は単身赴任がつらかったと思ってましたけど、今は毎週講座に通えてラッキーだと思ってますけど?そう思い直すのも結構簡単でしたけど?…ん?』


 その時に僕が思い出したのは、毎週自宅に車で帰る途中、海沿いを走りながら「このまま海に飛び込んだらどうなるだろう…。」とか、対向車のトラックを見て「このまま正面衝突したらどうなるだろう…。」とか、運転中にいつも考えていたということだった。


「あれって、ひょっとしてやばかったのか?僕は危機に直面していたのか?」


 そう考えると思い当たることが次々と出てきて、その日はもう講座どころではなく、僕は何かが刺さったまま抜けないような胸の痛みを拭い去ることができなかった。
「こんな時、胸ってほんとに痛いんだ…。」その経験も初めてのことだった。



 そんな僕が、他人のつらさを勝手に判断することなんて出来る筈がなかった。


 しかもその頃の僕には、目を背けている人間関係があった。

実は僕自身、父との関係が悪く、その時点でもう3年も音信不通の状態を続けていた。
そして、そんな父との関係は改善出来ないものだと考えていたし、改善する必要もないと考えていた。

でも咲笑ちゃんの話を聴いて、そんな自分がいかに甘かったのかを思い知らされた。



 自分もきっと父親に愛されたかった。でも何の努力もしてこなかった。自分よりも咲笑ちゃんの方が、ずっとつらい思いをしていた。それでも頑張って生きてきている。

 

 

 



幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~


最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。

人って思いの外、自分のことをわかってないんですよね。

嫌いな人のどこが嫌なのか考えてみると、自分の親に似ているとか、自分自身が我慢していることを平気でやってることへの抵抗だったりとか。

自分に向き合う機会って、ありそうでない。

でもその気になると、その機会って結構あります。

自分の心が投影されるものは他人だけじゃなくて絵だったり言葉だったり。

ひっかかることがあれば、その理由をぜひ一度ゆっくり考えてみてください。


続きはまた明日更新します。
よろしければ是非おつきあいください。

よろしくお願いいたします。

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