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プレイディスタンスな役

今日も舞台の幕が上がる。
中止になった作品を嫌というほど目にし、こうして幕が上がることが当たり前ではないことを思い知らされるこのご時世。
連日客席にはマスクをしたお客様がたくさん座っていて、有難い日々を過ごしている。いつもなら面会があるけど、今はできない。まだもう少し、人と距離を取る時間が続くのかな。
そんな中、何十年にも渡る人と人との繋がりの話の舞台をしている。

ソーシャルディスタンスは
 ヒューマンラブで越えられる。

わけのわからないことを言ってみた。
恥ずかしいけど、そんな言葉が出てきたのよ。
本番前に円陣組むなんて舞台ならではだし、毎日人からもらうエネルギーを感じてるからかもしれない。

今回の私の役は「心」役。「山田心」役とかじゃない。人間の「心」役。台本を読んでもやっぱりわけがわからなかった。
顔合わせって「〇〇役の〇〇です」と最初に自己紹介するけど、私は「長内映里香です」としか言えなかった。それくらい「心女役」と言うのに謎の距離感があった。そこを嘘ついて思い切って言えばいいのに、言えないのが私だった。あー情けない。
みんなで読み合わせしてもしっくり来なかった。
帰り際、演出家に引き止められた。

「長内ちゃん、あれじゃ全然だめだよ。すべての役の中で一番ピュアでいてくれなきゃ。ほんとにまっすぐなかわいらしい女の子でやってほしい」

・・・かわいらしい女の子。私でいけるのか?高音のかわいらしい声なんてまず出ないぞ。この私の声で求められるところに一体辿り着けるのか?

その日の帰宅後、私は絵に描いたようにベッドにうなだれた。「どうしよう」と何度も1人で呟いていたと思う。

それが2ヶ月前の稽古初日だった。立ち稽古ではもう一人の「心男」役の岡部直弥さんと声のトーンを合わせたりして、具体的な動きも見えてきた。
1ヶ月稽古を繰り返し、最初の不安が少しずつ和らぎ始めているところで演出家に言われた。

「気持ちは一番人間の心なんだけど、
姿は人間じゃなくあってほしい」

ここまで来ると求められることもなんとなく理解できて、そこを目指したい意志は明確だった。
でもどうしたらそう見えるのか、私はない頭を振り絞ってみる。

「・・・しゃぼん玉を意識したらいいですかね?」

・・・・・・

自分でもわけのわからないことを言っているのはわかっていた。すると演出家は

「それ!ほんとは舞台上をしゃぼん玉で
いっぱいにしたいくらいなんだよね!」

これは斜め上すぎる返答だった。想像以上に通じたらしい。さらに応えたいと思った。

「舞台上いっぱいのしゃぼん玉を割らないように
動いたり、言葉を発するようにしますね。
最終ゴールは愛のしゃぼん玉を飛ばしますわ!」

少し興奮気味に話したけど、たぶん最後は恥ずかしくなってエセ関西弁になっていたと思う。

こんなことを岡部さんと共通認識にした。理解してさらに深めようとしてくれる岡部さんが相方で本当に良かったと思う。それ以降、「人間じゃない」方向性のダメ出しを言われても、岡部さんがいたから不安も一緒に理解し合えて、一つ一つ解消していくことができた。ここまで2人でセットという役柄もなかなかないかもしれない。

自分が当事者になるわけではなく、目の前の人の「心」を代弁して発する今回の役。今までにない集中で人のことをガン見していると思う。それなのに目が合わず、通常の会話もしないし、感情を出すわけでもないため、最初のうちは体験したことのない違和感があった。「人と会話したーい!」という気持ちがずっとどこかにあったんだろうな。

今回の経験のおかげで次にやる役で「会話」をした時に新たな発見があるんじゃないかとすら思う。ソーシャルディスタンスを経て、人と再会した時のあの感動みたいに。

稽古場で共演者たちがかけてくれる言葉により「見てくれている」ということが実感でき、最初にあった違和感は気づいたらなくなっていた。こういう些細な実感が自分の中での信じられる心強いものに繋がるんだなと思う。
やっぱり一人では何もできないね。

2ヶ月かけてみんなで同じ方向を目指して、本番始まってもバトンを受けて渡すを繰り返す。バトンの大きさが変わったり、いつもより少しでも遅かったりすると崩れるらしい。人と人との繋がりの話だから余計なのかな。それくらいヒューマンラブは繊細なんだろう。

・・・急にね、チープに聞こえてくるけどさ、人と距離を取るのはやっぱり簡単で、人との関係を築くのは容易なものではないとつくづく思う。それなのに今、毎日この座組でヒューマンラブを感じている。そんな愛おしい時間はなかなかない。

ここからかしこまった宣伝になっちゃいますけど、この公演は劇団TAIYO MAGIC FILM スペシャル本公演と題して、12日まで新宿シアターサンモールでやっています。私は『時分自間旅行2021』という作品に出演しています。様々な恋愛のお話です。
あの頃の自分に会いに旅行しませんか?

配信公演もやってます。関西や地方に知り合いの多い私からすると非常に有難い機会です。生配信で観れなくても、2週間のアーカイブで視聴可能なのでぜひご家族や友人と一緒にご覧ください。
http://taiyo-magic.com/blog/配信チケットフォーム-2/

演出家、西条みつとしさんによる緻密なストーリーと演出をまだ観たことがない方はこの機会におすすめです!!

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↓↓↓ここからは観た人にわかる内容になります

「心の声」と言っても、最初はLINEの言葉を声にしているシーンが続く。
この役のおかげで、
「あの人からのLINEのトーンは実は自分が想像しているものとは全然違うんじゃないか」
「もしかしたらこんなテンションで伝えたいんじゃないか」
とか初めて本気で考えた。
LINEはあくまで文字だけど、それを声で言葉にすると感情が伝わって下手したら内容もガラリと変わりうる。人と直接顔を見て話す「会話」の大切さを「心の声」の役を通してより実感した。そこに距離は関係ない。電話でもいい。とにかく人の温度と気持ちを感じられるコミュニケーションをこれからもっと大事にしたい。心の中で思ったことを伝えられるなら素直に出したい。そんなことを自分の役から考えさせられた。
舞台上では人と距離を取る役ではあるけど、今やそのディスタンスすら楽しんでいるのかもしれない。同じ方向を目指す共演者たち、支えてくれるスタッフの皆さん、そして多くの業務をこなしながら公演のことを考え抜く劇団員と演出家。みんなのおかげで、今日も私は舞台に立てている。
本当にありがとうございます。

今日もいってきます。

読んでいただき、ありがとうございます! 子どもの頃の「発見の冒険」みたいなのを 文章の中だけは自由に大切にしたくて、 名前をひらがな表記にしました。 サポートしていただけると とっても励みになります。