趣味、読書
趣味らしい趣味がない。
だから、「趣味は?」と聞かれたときにパッと思い浮かぶのは、読書とサッカー観戦くらいのものである。
読書と言っても、せいぜい月に2〜3冊程度のものだし、特定の分野や作家にものすごく精通しているわけでもない。
それでも中学生の頃から、ペースの低下や読まない期間も多少あるものの、だいたい何かしら読み続けてはいるから、読んだ冊数で言うとそこそこの数になるだろう。
ふと、同じ会社の人達の中で何番目に多く読んでいるかな? と考える。
年齢的に若いほうなので冊数では不利だけれど、年齢で割るとそこそこ上位に行くのではないだろうか。
読書と言うと、趣味と読んではならないくらいありきたりな趣味に感じられるけれど、このようにしてよくよく周りを見渡してみると、普段から本を読む人は思いのほか少ないことに気付かされる。
あなたも職場の同僚や、身の回りの友人をランダムに何人か思い浮かべて、日常的に本を読んでいる人がどれだけいるか数えてみると、結構少ないのではないだろうか。
読書は、世間(特に読書習慣のある人)が思っているよりもマイナーな活動なのである。
にもかかわらず、本の数というのは膨大で、今でも年間7万冊以上の新刊が発刊されている。
1日あたり200冊以上だ。
この数字を見れば想像には難くないが、それぞれの発行部数はもちろん多くない。
1冊1冊を見ていくと、小説を含むほとんどの一般書籍の発行部数は、数千部という世界である。
僕は2年半ほど出版社にいて実用書や人文書、ビジネス書を扱ってきたけれど、初版はせいぜい5,000部。
ヒットがそれなりに見込める本でも、一部の例外(著者の名前だけで間違いなくある程度のヒットを飛ばせるようなもの)を除けば、良くても1万部スタートだ。
僕のいたところは堅実に企画していたぶん、それでも多い方で、多くの本が1,000部とか3,000部というところからスタートしている。
(数百部単位のものも少なからずあるだろう)
1万部売れれば充分にヒットといえる。
2万部で大ヒット。10万部売れたらベストセラーである。
10万部からは、ちょくちょく本屋に通っている人なら、なんとなく目にしたことのある本が大半になってくる。
100万部クラスになると、ちょっとした社会現象(とまではいかなくても、少なくとも誰もが知っているくらい)のレベルの本ということになるが、それはほんのほんの一握りの本(ダジャレじゃない)で、コンテンツのクオリティだけでは普通は到達し得ない、別次元の話だと思ってもらって支障がない。
つまり、良くても数千〜数万部のところで争っているのが、出版の世界ということになる。
1万部売れた本を読んで、内容について話したいからと、身の回りでその本を読んだ人を探そうと思っても、まずいない。
1万部すべてが出回っているとして、持っているのは日本の人口の1万人に1人未満。
各都道府県に200人程度、あるいは各市区町村に5〜6人と言えば、同じ本を読んだ人を探す大変さが伝わるだろうか。
(図書館や中古本もあるが、1万部発刊された本のうち3〜4割くらいは売れ残って返本されることになるので、「読んだ人の数」ならなんとなくトントンと思っておく)
本というのは、実は相当ニッチなメディアだということだ。
メディアとしての時代適合性を考えても、合っているとは到底言えない。
基本的には、本を読むときはほかのことができないからだ。
手も目も頭も使う必要があって、音声や動画メディアのように「ながら」ができる場面は多くないし、ボリュームもあるので自分の時間をがっつりとられることになる。
情報もやることも溢れたこの時代には、見事に逆行していると言えるだろう。
では、かといって、僕が読書をしなくなるかというと、そんなことはないかな、と思う。
少なくとも、向こう10年くらいは。たぶん。
100%自分の時間を注がなければならないからこそ、その世界に入ったときには独特の没入感がある。
文字の情報しかないからこそ、掻き立てられるものがある。
ニッチな層に向けられたものだからこそ、自分にかちっとハマる本には特別なものがある。
現時点で、テレビよりも映画よりもネットよりも読書の好きな人に、本を超える魅力を感じさせるものをつくるのはなかなかにハードルが高いはずだ。
「役に立つだけの本」はこの先ますますいろいろなものに代替されて出番がなくなっていくだろうけれど、「楽しむための本」「自分にとって意味のある本」については、その限りではないだろう。
やることの選択肢が増えていく分、その本に触れている時間の価値は、相対的に上がっていく。
本を読めるカフェやバーが増えていることも、本に触れるという体験、本の世界に浸る時間の価値が再認識されている証拠といえる。
今の時代、読書という趣味はマイナーで、お気に入りの本は周りの誰も知らない1冊だったりするけれど、そこにまで価値を見出して、自分だけの時間を楽しむ人が、これからの時代の読書家になっていくのだろう。
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