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『あらわれない世界』№3

銀杏の葉が黄色く色づく頃、猫さんはぼんやりと自治会館の縁側から外を眺めていた。チラホラ雪虫が飛んでいる。すると見たこともない奇妙な鳥が現れ、お隣の塀に静かに留まった。

小野さんも驚いたあの巨大な黄金の船といい、最近、猫さんの遭遇する出来事はどうも常軌を逸している。猫さんは気を取り直して、目を凝らしてその鳥をよくよく見るも、見れば見るほど変わっている…

チョビヒゲ猫は、黄金の船など、夜な夜なお月見ばかりするからそんな幻覚を見たんだだの、年寄りだからもう記憶が曖昧だの、猫さんの珍しい体験に全く取り合わない。

猫さんは次第に、チョビヒゲ猫に自分の見たり聞いたりしたことを話さなくなった。代わりに、度々遊びに来る小野さんに色々とお話をするようになっていた。猫さんは早速、先日会館の庭先に現れたおかしな鳥のことを話すと、小野さんは熱心にメモを取っている。猫さんは、自分の話を真摯に聞いてくれるその真剣さが嬉しかった。

そんな2人の様子を見たチョビヒゲ猫は、猫さんはトキソプラズマで、現実の世界にはないことをうわ言のように話すんだと、あからさまに嘲笑した。猫さんはチョビヒゲ猫が茶化すことなど気にもせず、先日の鳥の様子を事細かに小野さんに話すと、小野さんは深く頷いて、1つの解を導き出す。

「それは魂だね」

小野さんは、猫さんの話を聞けば聞くほど、猫さんが遭遇している現象が、冥界の分厚い書物を紐解いても稀有な事象ばかりで、とても不思議だった。なぜ今猫さんは、そういう珍事に頻繁に遭うのか疑問に感じていた。

お偉いさんから色々と世の中の理を学んでいるため、猫さんの脳が活発になり、知識が豊富になった分、珍しい現象に出くわす確率も高くなったのだろうか…しかしどうもシックリこない…

意外にもその答えは、達観していたチョビヒゲ猫が持っていた。


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