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FOCUS Vol. 13

ORM

8月はFUJIROCKに続き、SUMMER SONICや海外アーティストの単独公演が相次ぎ、改めて音楽産業の盛り上がりがライブカルチャーの面でも見えてきた月でした。続々と発表される秋の来日公演に向けてブーストをかけてくれた重要な1ヶ月だったのではないでしょうか。今月もアルバムやシングルともに良作が多数リリースとなりましたが、例のごとく我々的ベスト楽曲をいくつかご紹介いたします。

<HAYATA's Select>

Louis Cole – Let It Happen
超人Louis Coleの2年ぶりの新曲「Let It Happen」。繊細で静かなファルセット、煌びやかなシンセサイザー、そして終盤に向かって一気に解放される喜びのムードは、本人が言う「喜びと痛みの間にある特別な感情を表現した、時代を超えたモダン・パワーバラードの名曲」という言葉にぴったりだ。まるで瞑想のような音楽に加え、本人が監督を務めたあらゆる街角にいるLouis Coleが遠くからズームされるMVも曲を際立たせる。2022年に生きる全員にとってのセラピーとなる一曲。

Lounge Society – Blood Money
15歳でSpeedy Wundergroundと契約を結び、記念すべき1stアルバム『Tired of Liberty』をリリースしたばかりの4人組アート・パンクバンドThe Lounge Society。アルバム2曲目の「Blood Money」は、伝統的なUKポストパンクの鋭利なギターとプロデューサーDan Careyらしいミニマルで機械的なリフ、そしてユースフルな疾走感溢れる、エネルギッシュなトラック。また、IceageのErias Bender、Fontaines D.CのGrian Chattenを足して割ったようなボーカルの歌いっぷりも最高だ。

Joyeria - Colour Film
カナダでのバンド活動を終え、シンガーソングライターとしてのキャリアをロンドンでスタートさせたJoyeria。Speedy Wundergroundからリリースされたシングル「Colour Film」は、叫び声から始まる大胆なギターロックでありながらも、暗くて、新鮮な面白さがある。歌詞もうつ病や社会問題、そして人生への無頓着さについて書かれたものばかりだが、ただの悲観的な曲で終わらない奇抜さもあり、今最もPavement的なアーティストだ。10月にはEP『FIM』をリリースする今後の彼に注目したい。


<KAJI's Select>

The Orielles - BEAM/S
イギリス中部の都市、ハリファックス出身の男女3人組、The Orielles。2年ぶりのスタジオ・アルバム『Tableau』のリリース発表とともに先行公開された今回の曲。なんだこれは、、、衝撃だ。そしてバチバチに最高だ。アフロビートやミッドウェスト・エモの要素を内包しつつ、彼らがこれまで得意としてきた浮遊感のあるドリーミーなタッチを加えた圧巻のナンバー。8分という長尺の中に、これだけ多くの要素をレファレンスとして取り込みながらも、あくまで独自の音楽として開拓していく姿勢にはただただ感動だ。ここに来て一気に覚醒たような感じがするのは、おそらく僕だけではないだろう。

the hatch - shape of raw to come
札幌発のポストハードコア・オルタナティブバンド、the hatch待望の新曲。これがヤバい。UKのblack midiらが作り出した近年のポストロック~マスロックの流れをここ日本でリアルに体現し、ジャズやアフロ音楽を脱構築する中で見出した、ベストなスタイルで楽曲に落とし込む。4年前のデビュー・アルバムでリスナーを震撼させたあの時のあの衝撃を、圧倒的な爆発力と煮えたぎるカウンター精神で再び蘇らせる。ベースにあるフリージャズやポストロックへの鋭い感性、そしてリスペクトが絶妙な緊張感の中で表現されており、彼らが只者ではないことを痛いほどにわからせに来る至極の一曲。

Cass McCombs - Music Is Blue
前作からわずか1年というスパンで完成させた、USインディーのベテランによる最新作『Heartmind』からの一曲。ここまで“出来上がった”作品を出せるアーティストが今の時代どれだけいるものか。そんな具合に素晴らしい作品の登場。アルバムの冒頭を飾るこの曲の内容は至ってシンプルだ。音楽に付随した過去のさまざまな思い出を回想しながら、音楽という存在がいかに今の自分を形作っているかを、素直な気持ちそのままに描写している。ひねりや賢さというものはおそらく意図的に排除し、誰もが聴いて楽しめる、いわゆる「ポップミュージック」の姿を追求したように感じられる。本作はその点において非常に巧みであり、我々の一つ上を行く“上手(うわて)”な一枚だ。


<RYODO's Select>

THUS LOVE - Family Man
10年代のUSインディーシーンを担ってきたレーベル、Captured Tracks。近年は以前と比べてその勢いが小さくなったと感じていたが、ここにきて衝撃の新人をデビューさせる。それがこのTHUS LOVE。彼らはこのシングルについてこう語る。「必然的なシステム崩壊がすべての苦悩を和らげることを暗示している。」と。既存の資本主義社会に対する疑問といずれ起こるであろう社会の崩壊に対して彼らは荒々しいギターとリズミカルなベースで対抗する。アメリカの広大な道路を走り抜けつつ街の古いネオンを眺めながらこの曲を聴き、RED SOLO CUPを飲み干す。デビューアルバムも10月に予定されており、今年再注目と言っても過言ではないだろう。

distraction4ever - City
全てが未だに謎に包まれたカナダはモントリオール出身のデュオ、distraction4ever。8/5にデビューアルバム、”Please Don't Think About Tomorrow"を自主レーベルよりリリースし、インディープレイリストにも取り上げられるなど注目を集めている彼ら。根底にはダークウェーブがあり、ポストパンク、シンセ、エレクトロ、ローファイなど様々な影響が感じられる実験的な音楽。かつてのウィッチハウスに最も近いだろうか。アングラの中のアングラを突っ走る彼らはファッションもY2K感が溢れており、まさに現代のトレンドと10年代初頭の忘れ物を融合させたようで、見事である。

Gracie Gray - Only Time
上記の2組とは打って変わり、LA出身のSSW、Gracie Grayはその美声と耽美なメロディを兼ね備えた兼ね備えた20年代のエンヤである。それもそのはず、このシングルはエンヤの代表曲、”Only Time"のカバーであるからだ。しかしながら彼女も意識していることは間違いないだろう。近年はSSWと言ってもエンヤのような「シンガー」というような類のアーティストはなかなか出てきていなかったこともあり、新鮮である。今年の2月に2ndアルバムをリリースした彼女だが、新たなステージへと飛躍する一歩がこのカバーになるかもしれない。


注目の新人のデビュー作から、ベテランのカムバックまで幅広く楽しめた月だったではないでしょうか。ここでは紹介できなかったStella Donnellyや岡田拓郎などの新作も、新基軸を感じさせる非常に素晴らしい作品でしたし、今度DYGLとの対バン企画も期待される東京のバンド、bedの新曲も新時代の到来を感じるものでした。

ここでご紹介した楽曲はマンスリープレイリスト「Fresh」にてまとめてまとめて聴くことができます。「新しい音楽を知りたいけど何から聴けばいいかわからない…」なんていうあなた、ぜひ「Fresh」からお試しください。

過去の「Fresh」セレクト楽曲は「Fresh ARCHIVES」プレイリストでチェックできますので、そちらも合わせて聴いてみてください。
Apple Music、Spotifyにて展開中。

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