目線を隔てなく。#やさしさに触れて

優しいってなんだろう。優しいって難しい。言い換えれば「無関心」にも「甘やかしている」にもなる。「厳しさこそ優しさ」っていう考えもある。はたまた人に与える優しさを自己満足、または自己犠牲とはき違えてしまうこともあるから、優しいって難しい。

私の中で「優しさ」を考える上で欠かせない人物がいる。

「このあたりで一番優しい支店長だと思うよ。」

新人の時に一番最初に配属した部署の上長について、人事の方からそう聞いたことを思い出す。

◇          ◆      ◇

支店長は何と表現したらいいのかわからないが「聖人」のような人だった。30代後半の男性だったが、器がとても大きかった。

どんなに年下のスタッフにも「さん」を付けて呼んでいた。そのくせ飲み会で酔うと「●●(ある男性スタッフの下の名前呼び捨て)は頼りになる!」と顔を真っ赤しながら褒める人だ。

問題児ですぐお客様とトラブルになる私も見捨てずに指導してくださった。
もちろん「お客様は練習台じゃないよ」と叱咤されることも厳しい言葉を頂くこともあったが、一切不安になったことがなかった。

いつも「お時間いいですか・・?」と聞くと明快な「もちろん!」が返ってくる。

どんな状況でも「話しかけずらい」ということはなかったし、問題の解決のための相談にいつでも乗ってくれたからだと思う。

◇    ◆    ◇

お客様が理不尽なことを言い出すと、一緒になって怒ってくれた。

「お客様だって、サービスを受けたいと思うなら、ちゃんとしなきゃいけないんだよ、スタッフとお客様との関係だって人と人との関係だからね」

「年を取ると何か勘違いしている人もいるけど、そんな人のいうこと間に受けて傷つかなくていいよ。俺らはああいう風にならないようにしようね。」

理不尽でないことに対しては指導が入るが、そうでないことに対して不必要に傷つくことは一切しないこと、反面教師にして人生の糧にしてしまおうという提案をいつもくれた。

私は当時新人で、もちろんありがたい言葉だと思っていたけど、ここまで踏み込んでいってくれる人って実は少ないということに気づくのは、上長が何度か変わってからのことである。

◇    ◆    ◇

新人の時は業績は一番下だったし、なかなか仕事もうまくいかない時期が続いた。そんな時の面談の際にかけられた言葉だ。

「ボーナス、本当はもっとあなたはもらえる人だからね。」

ボーナスの割り振りを決めるのは上長の役目で、他のスタッフとの相対評価で決まる。だから私が貰えてないということは誰かが貰えてる、ということだ。

常日頃、ボーナスはみんな同じ割合でもらうことを目標にする、と言っていたことを思い出した。

ふと支店長の顔を見ると彼の瞳は涙をためているように見えた。仕事がこんなにできないのだからボーナスなんてそんなにもらえなくて当然なのに。それを苦しそうにしているなんて。この人は本当に部下のことを心から考えている人なのだと思った。

◇     ◆     ◇

先輩同士がお互いの考え方の違いから、修復不可能になるくらい仲たがいしてしまったこともあった。喧嘩したのはAさんとBさん、としよう。Aさんは所長代理に当たる人だ。

Aさんの指導があまりにも厳しく、Bさんが「一緒に働けません・・」とついに口に出して言ってしまった。それにAさんが少なからずショックを受け、出勤こそすれど、接客を全くしなくなってしまったのである。

Aさんの指導が厳しいのはBさんだけではなく他のスタッフにもだった。平気で2時間説教するし、自分の段取り通りに他のスタッフが動かないと理不尽に怒り出すことなどがあった。Aさんが言うことが正しいこともあったし、仕事熱心なのはみんな分かっていたがそれでもストレスを抱えていた。

そのため接客をしないAさんに対して不満がみんなに募っていた。

支店長はというと、会議のため一週間店を開けていた。

支店長が帰ってくると私たちは全部全部、支店長に言った。支店長は私たちの言葉をすべて聞いてくれた。

Aさんがやったことは職務放棄、私たちは「支店長がいない間代理が仕事を全うしない状況」に怒ると思っていた。いや、内心は思うところはあったのかもしれないが、私たちの前には口にださなかった。

「きっとみんなが辛い状況だよ。こんな時にいなくてごめんね。」

私たちを労う言葉を尽くした後、こう続けた。

「でもね、Aさんもきっと今辛い状況なんだと思う。許せないのもわかるし、Aさんにもちゃんと言っとくよ。でもAさんもつらい状況なのはわかってあげてね。」

この言葉を聞いて、あぁこの人は本当に優しい人なんだ、と思った。

私を含め全員あの時はAさんの味方にはなれなかった。

ただあの時、Aさんに手を差し伸べる人が必要だったのは確かだ。支店長までAさんの敵になっていたら、Aさんも過ちに気づいて立ち上がる力すらなくなっていたかもしれない。

◇      ◆      ◇

「せっかく一緒に働いているから、お互いに出会えてよかったって思えるといいよね」

支店長がよくいっていた言葉だ。

優しいって何だろう。きっと優しいの解釈はたくさんある。それでも私の中に答えがあるとするならば、優しい人は誰に対しても、どんな状況でも、分け隔てなくまっすぐに目線を向け、その人の人生がよりよくなるように願える人だと、そう思う。

アイコンを変えたい、、絵が得意な人にイラストを書いてもらいたいなぁと考えています。サポートいただければアイコン作成の費用にかかるお金に割り当てたいと思ってます。