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こぶしをほどけるようになったのは。

関係が続くほど「価値観の違い」は浮き出るのかもしれない。

「学生時代から仲良くしていた子が出産して、なんか話しづらくなっちゃったんだよね。三ヶ月に一回とか定期的に会ってたんだけどさ。これからも仲良くしたいけど、今積極的に会いたい気分じゃなくなっちゃってるの最悪だよね・・・遊ぶ時も子供と一緒だし、なんか申し訳なくなっちゃって。」

目の前の友達が神妙そうな顔つきでそう打ち明けてくれた。

「あーなるほど・・・。仕事の話とかはできないの?」

さっきまであの大ヒット映画の面白さを雄弁に語っていた友達は、持ち前のセールス力でがたがただった異動先の店舗の売り上げアップに貢献したらしい。

「いや・・なんか仕事の愚痴とか、目標の話ってしても共感してもらえないし、向こうが興味なくない?もう、縁切れちゃうのかな、、」

20代の後半に差し掛かると、あるあるな悩みだと思う。違う景色を見ながら同じように笑う事はできないのだろうか。学生時代は、「自分はバリバリ働くんだ」って子と「将来はお母さんになる」って子でも相性が合えば仲良くできる。同じものをみて、同じ瞬間に笑いあえる、それだけで心は通う学生時代はとても貴重な時だったと今になって思う。

でも聞いたときに思った。いやあ、でもそれ、私にアドバイスなんてできないし、力不足じゃないかなぁ・・。

だって、私あんまいないからさぁ、友達。

まだ身の回りに子供出来た友達もいないのよ・・。

デザートのケーキを頬張りながら思う。

それと同時に目の前の友達をうらやましく思ったりもした。

◇        ◇       ◇

話が合わなくなってしまったことにきちんと悩んでいる友人は、人と真摯に向き合える人なんだと思う。そういえば、友人は前の職場の上司と考え方が違った時も真正面から向き合うような人だった。その上司がパワハラ気味でも。

反面私は「この人とは合わなくなったな」と思ったら、口を閉ざし、その人のもとから離れてしまうことが多々あった。

わたしは自分の思想を握りしめて離さないくせに、その拳をほどいとみせるのはとんでもなくへたくそだった。

友だちが離れていってしまうのが怖いという弱さから安易な同調をひたすら繰り返した。また同調することでわたしはあなたの仲間と示したかった。

そんなことを幼少の頃から繰り返していると、他人と関わることは、自分を殺すことと同義になってしまっていた。自分の思想が割れるまで握りしめ、自分の手のひらは血まみれになり、その飛び散った破片で相手にも傷をつけた。

だから結果、同調が辛くなったら、他人を傷つける前に目の前から消えるようにしていた。

そんなことばかりしてるから私は他人と関係をつくるのが苦手だった。

もちろん、他人に同調するのだって、悪いことじゃない。それでうまく生きれるのであればそれがその人の生きる上の戦略だ。

でも私はどうやらうまく使いこなせない。           ◇       ◇

「友達の関係って線じゃなくて、点だと思う。」

何言ってるんだろう私。でもこう考えると少し人間関係が楽になった。から、こんな私でももし役に立つなら、と思い、口に出してみた。

「いつでも、どんな時も仲間ってたしかに素晴らしいけど、友達と一緒に人生の道を歩いていくなんてできないからさ。

きっと一緒にあってる時だけ人生を共有して励ましあうから明日も頑張れるんだよ。だから点だなって思う。

だからもしその会いたくないな、が大きくなっちゃってぎくしゃくしちゃうと、大人になると仲直りって難しくない?学生の時と違って、会わないって決めちゃえば会わないことってできるわけだし。


だから、私だったらちょっと自分の気持ちの整理のために、一旦待つかな、気持ちが落ち着くまで」

ほんと何言ってんだ。友達少ないくせに。でもそう思うことで共感できないことを怖がる必要がなくなった。みんな必要なときに、必要な人に会ってる。必要って言葉は利己的で冷たく聞こえるけど、くだらないことで笑う時間だって、必要のうちだ。

ある人にとっては冷たいと言われるかもしれない。ある人にとっては当たり前、かもしれない。でも私にとってはやっと辿り着いた、ちょっと楽になれる人との付き合い方だ。まだ試行錯誤はしてるけど。

「いやぁそうはいっても、話し合わないだけで距離を置きたくなるじぶんいやーーー」

デザートをほおばりながら叫ぶが、十分に咀嚼した後に言った。

「でもさ、何年後にあっても友達でいれるのが本当の友達だよね、私もいまちょっと仕事つらくてさ、なんかうらやましくみえたのかもしれないわ、気持ち落ち着くまでは、ちょっと待ってみようかな、仲たがいしたくないし。」

そうか、目の前の友人も、必要だったから私とこうして、ケーキを突いているのだろうか。

◇         ◇     ◇

「今度はいつかえってくるの?」

「次は年末かなぁ~」

ひねくれた私はある時から「また会おう」は一種の社交辞令と受け取っていた。そしたら、どんなに疎遠になっても傷つかないから。

「そしたらシフト出すから、連絡してね」

それでも目の前の彼女が発する言葉は社交辞令じゃない。何度かそう言われたことはあるが、絶対に別れた後シフトを送ってくれた。

彼女ともどんなタイミングで、頻繁に会わなくなるかはわからない。それでも縁が切れることはない、と思っている。

彼女は嘘や社交辞令を言わない。それでいて、「私はあなたと違う」の言い方がとてもうまい。だから私も正直にものが言える。

20代の半ばすぎて、みんな結婚や仕事で次のステージへ進んでいる。私は恥ずかしいかな、いまだに自己表現について、人とのかかわり方について、そんなことで躓いている。

でも、それも私なんです。それが、私なんです。齢26にして、掌を晒すことを覚え始めた私はそっと思う。もう二度と、拳に握りしめすぎてできた破片で誰も傷つけませんようにと。

「それじゃまた年末にね」

私は掌を彼女に向けてひらいた。そして傷一つないそれをふらふらと振った。




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