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A010 ~演習で学ぶ有機反応機構解説~

疑問点などありましたら、どしどしコメントください!
一緒に学んでいきましょう。

それでは、『演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで』の解説部分を見ながら、『電子はマイナスからプラスに動く』の考え方に基づき、反応機構の流れを見ていきましょう。

A010 はアセタールの α位ブロモ化反応です。

アセタール形成の反応機構については A008, A009 で説明しました。
何度も言いますが、アセタール形成反応は可逆反応です。
反応系内には常に、反応中間体として考えられる全ての化合物が、極微量かもしれませんが、存在はしています。

A010 の最初のステップは、まさにアセタール形成の逆反応ですね。
ここでは、アルコールに 1,2-ジオールを用いているため、平衡はアセタール側に偏ってはいますが、一部カルボニルカチオン中間体も存在しています。(何度も言いますが、可逆反応なので。)

この極微量存在するカルボニルカチオン中間体において、カルボニル基の α位のプロトンはカルボニルカチオン部分に電子を引かれるため、酸性度が高くなっています。
すると、最初のステップにおいてアセタールをプロトン化し、ブロモアニオンとして存在 していた臭酸が、この酸性度の高くなったプロトンを引き抜き復活する中で、カルボニルカチオン中間体はエノールエーテルへと変換されます

エノールエーテルは、酸素原子上に存在する非共有電子対の押し込み効果により、α位の炭素がマイナスを帯びています
この炭素上のマイナスが、臭素分子に求核攻撃することで α位の炭素は臭素化され、その結果生じたカルボニルカチオン中間体が再びアセタールとなることで、α位がブロモ化されたアセタールが生成します。

A008, A009 で扱われているアセタール形成反応は可逆反応だと言いましたが、A010 の一連の反応の中には一カ所だけ不可逆な過程が存在します
それは、エノールエーテルが臭素分子に求核攻撃し、α位の炭素が臭素化される過程です。 

この過程が不可逆であるため、ほんの少しでもカルボニルカチオン中間体由来のエノール エーテルが系内に生成すれば、それがブロモ化された後は脱ブロモ化されることがないため、
反応系内はブロモ化されていないアセタールから、ブロモ化されたアセタールへと偏っていく
というわけです。

~重要ポイント~

・アセタール形成のような可逆反応では、反応系内には常に、反応中間体として考えられる全ての化合物が存在している。
・可逆な反応系において、ある中間体が極微量しか存在しなかったとしても、その中間体に対して不可逆反応を起こすことが出来れば、その中間体由来の化合物を主生成物として得ることが出来る。

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