― 第二十三話 チョンマゲとベンパツのちょっとした冒険 ―

「・・・で、お前はどうしたって?」
「ヤツを呼び止めましてな、シャンプーの銘柄を聞いたのでござります。・・・ふふっ、やっぱりきゃつめ、ワシのにらんだ通り、『シャン・イン・シャン』でございましたな。くわっかっかっか!」
「うるさいっ!シャンプーなぞどうでもいいっ!こ、この、ばかもんっ!て、敵が目の前にいるのに堂々と逃がすとはっ!このっ、げ、げほ、ごほっ、ごほっ!」
「まぁ、落ち着くことでござるぞ、メクロ殿。」
「お、お前が言うなっ!ゴホッゴホッ!さ、さっさとギメガ帳をと、取り返してこんかっ!グホッグホッ!」
「うむ。かしこまったでござる。おい、ベンパツ、行くぞ。」
 チョンマゲが後ろに立つベンパツに言い、二人、悠々と歩きだした。
「走れっ!」
 メクロが言った。
「ほほぅ。・・・おい、ベンパツ、走れ。」
 チョンマゲが言った。
「お前も走れ!」
メクロの顔が怒りで真っ赤だった。チョンマゲがメクロの顔をちらりと見やった。
「なんとせっかちなおひ・・・・」
「さっさと行かんかぁっ!」
 メクロの喉が張り裂けた。

エレベーターが一階に到着してドアが開いたとき、メガネは近くにあったダンボールの箱を運んでくると、開いたドアに挟み込んだ。
自動で閉じようとしたドアは虚しくダンボールに押し返され、そのたびにウィィィィ、ウィィィィと悲しく鳴いている。
(これでエレベーターが使えない、と。あとは階段か・・・)

この建物にある唯一の階段は、エレベーターの向かい、あのイミフな暖炉の絵の施されている柱の内部だ。
メガネは柱にある、『非常口』と書かれたドアを開けてみた。
鍵は掛かってないが、取っ手は固く、かなりの力を入れないと回らない。
(いい具合だ)メガネはニヤリと笑うとズボンのポケットから、さっきメクロの部屋から借りてきた整髪料(?)を取り出すと、内側の取っ手にドロドロと塗りつけ始めた。
そのままドアを閉め、管理人室へと走った。(警察ってそういえば何番だっけ?)メガネが走りながら考えていた。

 その頃、チョンマゲ、ベンパツがエレベーターのボタンを押してその到着を待っていた。
「・・・なかなかこないあるね。」
 ベンパツが言った。
「うむ。まぁ、急いては事を仕損ずる、というからな。あまり急ぐと子孫がずれる、ということだ。ところで、下に何しに行くんだっけ?」
「モヒカンを倒した賊を捕まえに行くあるよ。」
「お、そうか。・・・おぬしの記憶術、なかなかのものだぞ。」
「今、私をほめたあるか?自分をけなしたあるか?」

 エレベーターはなかなか来ない。
 二人は動かない。
 五分、十分・・・が経った。

 ちなみに、十分が経った頃、そこでエレベーターを待っていたのはその二人だけではなかった。
 二人の後ろにはメガフォルテの団員全てがずらりと並んでいる。その数、三十。
 皆じっとエレベーターの到着を待つ。

 ガチャッ。
 メクロがあくびをしながら部屋から出てきた。
「ん?」
 メクロの目の先、薄暗い廊下の先に、メガフォルテの団員全てが静かに立っている。
 その数、三十・・・

「おい・・・」
 メクロが一番手前に居た団員の肩を軽く叩いて言った。
「一応、聞くけどな・・・。皆で何をしてるんだ?」
「はいっ!エレベーターを待っております!」
「・・・そうか、そうか。やっぱり。・・・ちょっとごめんよ。はい、ごめんよぉ。」
 メクロは人込みを掻き分けて集団の先頭まで行った。先頭にはチョンマゲ、ベンパツがそれぞれ腕を組んでエレベーターの到着を待っている。

「来ないあるね。」
 ベンパツがまた言った。
「うむ、まあ急いては事を仕損ずると・・・。」
 チョンマゲが答えようとしたとき・・・バチッ!と彼ら二人の剃り上げられた頭部がいい音を立てた。
「て、敵襲かっ!」
 振り向いた二人の眼前にはメクロが立ち、階段のドアを指指していた。

「おお、その手があったか!かたじけない、メクロ殿。よし、行くぞ、ベンパツ。」
「はいあるよ!」
 ようやく集団が動き出した・・・と、三十秒もしないうちに下からチョンマゲの悲鳴が聞こえてきた。
 メクロがため息をつき、また人を掻き分け下まで降りていくと、チョンマゲが手を押さえて呻いている。

「い、一体、どうした?」
「取っ手が、取っ手がぁぁぁっ!」
「ん?」
 取っ手が鈍く光っている。ためしにメクロは指先でちょんと触ってみた。
「ひぃっ!」
 メクロが叫んだ。
「であろう?であろう?気持ち悪いであろう?」
「何か塗られてるぞ!毒かもしれん、すぐに手を洗うんだ!」
 メクロとチョンマゲは急いで二階のトイレへと向った。


(第二十四話に続く)

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