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エンジニアがユーザーリサーチ推進室に入ってユーザビリティテストを自走できるようになった話

この記事は SmartHR AdventCalendar2021 の9日目です。

こんにちはてっちゃん(@oremega)です。
SmartHRでプロダクトデザイナーをしながらリサーチャーとして活動しています。
今回はユーザーリサーチ推進室(以下、「推進室」という)として、開発チームのエンジニアであるkabetchさんがユーザビリティテストを自走できるようにサポートした活動の記事なります。

推進室の目的は、SmartHRの中でユーザーリサーチを誰もがおこないたいときにおこなえる体制をつくり、お客さまを理解してプロダクトの品質と生産性の向上に貢献することです。現在は定期的にユーザビリティテストをおこなう体制を作り、運用しています。

詳しい活動は以下の記事で紹介していますので良ければご覧ください。

エンジニアをどう巻き込んだのか?

元々エンジニアに的を絞って巻き込もうととしていたわけではありませんでした。

日常的にユーザビリティテストやリサーチの勉強会をおこなうなかで興味を持つ人が出てくることへの期待はありましたが、まずはユーザビリティテストを定期的におこなう体制作りを優先し注力するために、社内全体の開発チームと協力関係を構築しています。

また、推進室を主導するプロダクトデザイングループでは、他の職種でもデザインをできるようにするクロスファンクショナルな組織づくりを推進しており、エンジニアがデザイン活動に触れる機会も多くありました。それにより、デザインに関する温度感を高めた結果、より感度の高いエンジニアがユーザビリティテストの価値を感じてもらえるきっかけになりました。とてもありがたいことです。

推進室としてもユーザビリティテストをおこなえる人を増やすことは来年以降の目標にしていたこともあり、デザイン活動の一環としてユーザビリティテストを開発チーム内でおこえるようにしたいと思ってもらえたのは幸運でした。

こうして、エンジニアを巻き込むことができたので、次に具体的にどういう手順でユーザビリティテストができるようになったのかを見ていきましょう。

ユーザビリティテストを身につけもらうために何をしたか?

推進室としても初めてユーザビリティテストの設計プロセスと実施方法を教えていくことになります。
基礎的なユーザーリサーチの知識は社内勉強会に参加してもらっていたことを考慮し、相手に合わせてステップを以下のように計画しました。

  1. 期待値のズレ埋め

  2. ユーザビリティテスト実施の流れの把握

  3. 実施の流れを見学

  4. 役割を持って実施

期待値のズレ埋め

推進室としても社内にユーザーリサーチを広める一環になるので推進室のメンバーとして活動してほしいと思っていました。しかし、エンジニア自身の目的が達成できなければ意味がないのですし、お互いにとってベストな状態で取り組めると良いなと考えました。

まずは期待値のズレを埋めるために1on1をおこなったところ、以下のことがわかりました。

  • ユーザビリティテストでUXデザインに興味を持った

  • 漠然とデザイン全般に興味を持っている

  • UXデザイナーと1on1をしてしてデザインに関わっていくことになった

  • 個人の目標としてデザインとユーザビリティの観点が入っている

  • ユーザビリティテスト全般を経験してみたい

ここからお互いの期待値をすり合わせていき方針を決めました。
最終的に、ユーザビリティテストだけを学ぶより推進室のメンバーとして経験を積んでもらうことが本人の希望に添えられるだろうということで、推進室に入ってもらうことになりました。ただし、メインはエンジニアかつデザインもおこなっているので、無理のない範囲でどの程度の活動ができるかもすり合わせています。

ユーザビリティテスト実施の流れの把握

次に、全体の流れを把握してもらうためにリサーチ勉強会の資料を元に説明していきました。全体を見ることで各ステップがどのように連動しているかを理解してもらうのが狙いです。

幸い開発チームの一員としてユーザビリティテストやリサーチ勉強にも積極的に参加されていたので、漠然と全体像の把握はスムーズに進み、ユーザビリティテストの肝になる「設計フェーズ」と「準備フェーズ」を重点的に学んでもらいました。また、1回のユーザビリティテストを2週間で設計から実施までを完了させています。

ユーザビリティテストの実施の流れ。設計フェーズ(案件ヒアリング、テスト設計)、準備フェーズ(資料/議事録作成、リクルーティング、テスト環境構築)、実施フェーズ(テスト実施、トリアージ)があります。
ユーザビリティテスト実施の全体の流れ

実施の流れを見学

大体の知識を頭に入れたあとは、一緒に全体の流れを体験してもらうことにしました。
推進室で受けたテーマを「設計フェーズ」「準備フェーズ」「実施フェーズ」に沿って見学してもらい、質問や意見を出して理解を深めてもらいました。
実施が終わるたびに全体のGKPT(Good, Keep, Problem, Try)も一緒におこない気づきを書いてもらっていたので、本人が何を学習しているかを私達も確認できる状態になっていました。

設計フェーズ

設計フェーズはユーザビリティテストにおいて「段取り8割、本番2割」と言われるほど重要なフェーズです。
なので、テスト設計の最終的なアウトプットだけでなく、どうしてその結論に至ったのかをわかりやすく伝えるために「観点」をテスト設計にいれるようにして、開発チームのメンバーにも理解しやすい状態を心がけています。
また、テスト設計はファシリテーターが中心となって設計おこないますが、必ず関係者全員のレビューをいれることで設計の品質を担保しています。これらの様子を見ていくことで自身の設計にも活かせるようにしています。

準備フェーズ

準備フェーズも段取りの8割に入っているとても重要なプロセスです。
特にリクルーティングは設計で決めた要件にあった人を被験者(テストを受ける人)として募集します。SmartHRでは社内の人事労務のメンバーに協力をお願いすることが多く、給与計算の時期にかぶらないかなどのスケジュールについても配慮が必要で常に念頭においています。

ユーザビリティテストで被験者をリクルートするときの心得
リクルートするときに気をつけるべきことをまとめたマニュアル

また、テスト環境も被験者に違和感を感じさせないようにしないと操作に集中できないこともあるため、なるべく実務に近い状態になるように配慮しています。
これらの注意ポイントをドキュメントにまとめて共有・更新していくことで、これから新しくユーザビリティテストを始めたいメンバーが自発的に学習していくハードルを下げる効果があります。

実施フェーズ

実施フェーズは配信、ファシリテーター、サポートの役割ごとにマニュアルを用意しており、状況に合わせてどの役割を誰でも担当できるようにすることで属人化しづらい仕組みになっています。

ユーザビリティテストの円滑配信マニュアル
配信の手順がまとまったマニュアル

ファシリテーターにはいろんな状況に対応する力が必要になりますし、実施フェーズの要になります。マニュアルから心構えや最低限の振る舞いは学習できますが、被験者は自由に行動するので思いがけない事態になることもあります。

マニュアルは随時更新していきますが、一緒にテストを実施したメンバーからのフィードバックを得ることや、他の人がどんな対応をして事態を乗り切っているかを見学することも大事になります。
とはいえ、回数をこなし経験値を得ることが一番成長するので、ここまで来たら次に役割を持って実施してもらいました。

役割を持って実施

2回くらい見学してもらい慣れてきたところで、以降は役割をアサインしてユーザビリティテストに参加してもらうようにしました。
ステップとしては、以下のようにしました。

  • 初回は見学

  • 3回目で配信

  • 4回目でファシリテーターデビュー

4回目は、ちょうどkabetchさんが所属する開発チームで関わっている機能だったこともあり「設計フェーズ」「準備フェーズ」「実施フェーズ」をすべてこなしてもらいました。もちろん、いつもどおり各フェーズでレビューをはさみながら実施することで品質を保ったままユーザビリティテストを実施できました。

具体的に良かったポイントは以下になります。

  • 被験者の状態に合わせた臨機応変な対応

  • 検証したいことが達成できていた

  • 被験者への配慮がなされていた

  • カイゼン部分を把握できてきた

  • 全員タスクを完了してプロダクトの状態を把握できた

もちろん、完璧ではないのでGKPTで自他共振り返ることで経験的に学習をしていき次回に生かしていく事が必要です。

ここまでに初回から3ヶ月ほどで独り立ちできていたので比較的早いなと感じています。今後も同様にユーザビリティテストを学習する方がいる際には推進室としては再現性があるようにしていきたいと考えています。

kabetchさんの感想

ここで本人から感想を頂いていますので紹介します。

ユーザビリティテストに興味を持って声をかけたのを受け入れていただき、実際に経験をさせていただく中で、かなりユーザビリティテストに対する知識とスキルが深まったと思っています。

一方でユーザーリサーチの難しさも痛感する日々です。被験者の方にいかにバイアスを与えずに質問をして、潜在的なニーズを探っていくか。これってとても難しいですね…これが今の自分の課題です。

こんな感じで、今後自分たちのチームの行いたいタイミングで、自分たちでリサーチを実施できる状態を目指して現在も修行中です。

そしてゆくゆくは、自身も推進室のメンバーとして、ユーザビリティテストが行える人をもっと増やしていくことに貢献していきたいです!

推進室にも良いことがありました

今回、kabetchさんが参加してくれたことで推進室にもいいことがありました。
これまで暗黙的におこなっていた運営上の品質の保ち方やテスト設計のプロセスを言語化する機会となり、推進室としてより多くの人にリサーチと言う手段を届けるための整理ができました。
また、kabetchさんの持っていた基礎知識とデザインに対する関心があれば、今回の手順と期間的なコストをひとつのモデルとして提供できる目処が立ったので、「リサーチできる人を増やす」という目標のためのタスクが明確になり、計画を立てたり効率化できそうなポイントも含めて今後のベンチマークになりました。

おわりに

冒頭でも述べたように、推進室では今後もユーザーリサーチを誰もがおこいたいときにおこえる体制を作っていきます。そのために、今回の様にユーザビリティテストをできる人をもっと増やし、気軽に開発チームの中でテストが実施されるようになれば、プロダクトの検証が充実し、品質と生産性の向上に貢献できると考えています。
また、一人でも多くのデザインやリサーチに興味関心を持ってもらえるようにワークショップや勉強会などを開催しながら引き続きリサーチ活動をおこなっていきます。