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「米作りを通じて食べものを作る大切さを伝えたい」

イチゴを育てるかたわら、福岡県八女市立長峰小学校の米作り体験「ガッツ米プロジェクト」に力を入れている樋口さん。ユニークな食育活動について伺いました。

【プロフィール】
樋口賢治ひぐちけんじさん|ひぐち農園
福岡県八女市で5代続く専業農家。減農薬・有機栽培でお米やイチゴ(あまおう)米、麦、大豆、キクイモを生産する。イチゴでは2002年から天敵農法を採用している。2017年から加工品製造にも取り組む。

米作りだけじゃなく、作ったものが売れる喜びを子どもたちに

 長峰小学校の5年生の米栽培の指導を始めたのは2017年からです。それまで担当されていた方が辞めることになり、恩師だった当時の校長から声をかけられました。もともと興味があったので、こちらからやらせてくださいとお願いしました。米作り体験の名前は学校のスローガンにならって『ガッツ米プロジェクト』と名付けられています。
 私は何をするにしても、どうにかして面白くしたいと思うタイプなんです。引き継ぐ前の行事は田植えと稲刈りの2回でしたが、これに何か加えたいと考えました。その頃、私はキクイモ茶などの六次加工品の製造販売を始めたばかりで、商品が売れる喜びを日々感じていました。そこで子どもたちにもお米を売ってもらおうと考えたのです。

 自分が販売してみて驚いたのは、商品パッケージがいかに大事かということでした。生徒一人ひとりは自分のお米を受け取りますが、それを販売用として用意し、お米のパッケージを描いてもらいました。パッケージには田植えや収穫などを通じて培ってきたお米への思いがきっとこもるはずなんですよね。販売は生徒たちが昼休みに行い、お金の授受もしますよ。
 お米を使ってポン菓子作りもするようにしました。できたてを食べさせたくて、数年後には学校の校庭で作るようになりました。毎回めちゃくちゃ盛り上がりますよ。休み時間には低学年の子たちも見にきています。

農業高校の生徒などどんどん大きくなるつながりの輪

 田植えでは1学年2クラスの合計約80人を一度に指導します。先生が2人来てくださるとはいえ、田植え綱を動かしながら手植えを教えるのは大変です。あるとき、生徒のお母さんが近くの八女農業高校に相談してみては、と提案してくださって。ダメ元で電話してみたら先生が「いいじゃないですか!」と快諾してくれました。それから高校2年生の生徒、15名ほどが田植えと稲刈りの手伝いに来てくれています。高校生も立派な戦力なんですよ。
 力になってくれる人はほかにもいます。しばらくして子どもたちに草刈りもしてもらうようになったのですが、ここでもただの草刈りは地味で面白くない、何かないかと考えていたら、ORECの社員さんとつながって。機械を3台持ってきて草刈りレースができるようになりました。ユニークな体験を交えつつ、草刈りの重要さを伝えられているのではと思っています。

ORECの乗用型草刈機"ラビットモアー"と畦道を刈る"ウイングモア―"と
他社の刈払機で草刈りレースを実施します。

 私自身は以前に子どもたちに何かを教えるという経験は特にありませんでした。田植えのときに苗の根がしっかり張っている様子を見せ、食べられるようになるまでに88の工程があると説明しますが、伝わったとわかると嬉しくなりますね。食べものの大切さはもちろん、作る大事さを知って欲しいし、将来、農業の仕事に就かなくてもずっと、田んぼやお米のことを頭の片隅にでも置いていてくれたらなと思います。そうそう、農業に興味が湧いて、おじいちゃんやおばあちゃんの家で米作りの手伝いを始めたという子どもさんもいるそうですよ。

感想やお礼の言葉が詰まった小学生からのお手紙集

『ガッツ米プロジェクト』を多くの人に知ってもらう意味とは

 このプロジェクトをスタートしたとき、ある先輩から「10年は続けたほうがいい」といわれました。私はこれを10年続ければ形になるという意味に解釈しました。『ガッツ米プロジェクト』が広く伝われば、直接関わりがなくても多くの人たちの心の中に、何かが生まれるのではないかと思います。だから八女市の広報誌やJAの広報誌、新聞にも声をかけたり、活動レポートを何度も送って記事に取り上げてもらったりしています。全国放送のテレビ番組でも紹介されたんですよ。
 アナウンスするのにはもう一つ理由があります。私たちと同じように食育をしている人とつながりができることを期待してるんです。そうすると次の展開がまた楽しみになるでしょう?考えるとワクワクします。
 今後は地域にある大型書店でガッツ米を販売するのが夢です。地域の人がよく行く場所ですからぜひ実現させて、子どもたちの喜ぶ顔がみたいです。

【編集後記】

イチゴ栽培では害虫がついていないか、ルーペで観察します

実は樋口さん、珍しい方法でイチゴを栽培されているのです。その名も、虫で虫を退治する「天敵農法」。この農法を確立するまでの最初の3年は、天敵の虫を放つタイミングが早かったり、予想もしなかった虫が出てきたり、大変だったそうです。最近、ようやく安定し「今後は恩返しとしてこの農法を普及させたい」と語ります。樋口さんは普及活動の一環として「ケンさん、イチゴの虫をこらしめる」という本を出版しています。農業専門紙に直接お手紙を送りアプローチしたことがきっかけで、出版に至ったのだとか。樋口さんは「面白いことを世の中に発信したい」という思いで様々なことにチャレンジし、農業を心から楽しまれている印象でした。今後のご活躍がとても楽しみです。

害虫をやっつける虫がすむ場所。害虫が出回る前から準備しています

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