卒業ソング

卒業ソングがいつまでも愛される理由

受験シーズンが終わり、春の足音が近づいてくると、毎年テレビやラジオ、プレイリストなどで卒業ソング特集などが組まれます。

これまで数多くの卒業ソングが発表されてきましたが、これは世界のミュージック・シーンにはない、日本独自の現象です。

そこでなぜここまで卒業ソングが愛される理由を考えてみたいと思います。

人口1億2千万人のほぼ全員が経験するイベントとは?

確率論だけでいうと、日本の人口、約1億2千万人が体験するイベントから題材をピックアップすれば、ヒットする確率は高くなります。

人間なら誰でも経験するイベントは “誕生“ 死“ です。過去には歌謡曲で赤ちゃんについて歌った大ヒット曲もありましたし、死んだ後、お墓の中にはいないという曲もミリオン・セラーになりました。

では “結婚“ はどうでしょうか。国民全員が経験するイベントではありませんが、結婚を祝福する曲にも素晴らしいミリオン・セラー作品があります。 “恋愛“ まで裾野を広げれば、それこそ星の数以上に楽曲は存在します。

そして 卒業式“ です。

卒業式は義務教育では最低2回、高校生活を入れたら3回は経験します。多感な時期であるため、印象に残る場面は何歳になってもずっと記憶に刻まれています。そこで感じた想いを、誰もが共感できるメタファー(比喩)を使い、独自の視点で切り取ることができれば、ヒット曲になる確率は高くなるのではないでしょうか。

卒業文集の上書きの役割

卒業文集で将来の夢を書いた人は多いと思います。文集ですから日記とは違い、他人に読まれることを前提にしています。「オリンピックで金メダルを獲る!」とか、「世界チャンピオンになる!」なんて書いて、その後実現させた人もいます。

しかし、ほとんどの人は途中で考え方が変わったり、挫折して夢を諦めざるを得なくなります。そうなると、過去は振り返りたくないものとして、全て灰色に塗りつぶしてしまいます。

曲作りも誰かに聴いてもらうことが前提です。恋人との三ヶ月間なのか、失恋までの一週間なのか、ある日突然起こった衝撃的な出来事なのか、期間の差はあれど、ある事柄に対する想いを凝縮させて、句読点を打つまでの物語を “一曲“ としてまとめ上げるわけです。

ところがうまく完成させて、ヒットさせようという意識が強すぎると、なぜか頭も心もカチコチになり、物語が自由に動き回ってはくれないし、人には伝わらなくなってしまいます。

逆に卒業ソングは余計な脚色は必要ないし、当時を思い起こしながら書けるため、場面も浮かびやすく、ストレートでシンプルなものになります。

そのため、聴いた人は自分が忘れていた感情が掘り起こされ、まるで卒業文集の上書きをしてくれているような感覚になるのではないでしょうか。

最近ではさすがに出尽くした感もありますが、視点を変えれば、まだ新しい切り口はあると思います。

是非、令和のスタンダートになるような新しい卒業ソングを期待したいと思います。



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