ミックスナッツに向き合う

カラオケキング2022 7月大会審査委員長を務める、めっちこと上野目です。
今回の課題曲であるOfficial髭男dismさんの『ミックスナッツ』について、個人的な審査のポイントやアドバイスをまとめておきます。
参加者の方や、まだ参加を検討している、応募したはいいけれどもっともっと磨きたい!!という方はぜひ参考にしていただけると嬉しいです。

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https://karaokeking2022.hp.peraichi.com/

◆ミックスナッツってどんな曲?

https://www.youtube.com/watch?v=CbH2F0kXgTY&t=0s

この楽曲は、2022年4月9日(土)放送スタートのTVアニメ『SPY×FAMILY』OP主題歌で、海外でも人気の高い曲となっています。
TVアニメのために書き下ろされた楽曲ということもあり、世界観や言葉の深読みが可能な曲です。
アップテンポなリズムとエキセントリックな音程に惑わされる楽曲。
だけど、まったく無秩序なわけではない。
むしろ、聞いている人をどれだけ惑わせることができるかどうかがこの曲を通して見えてくる。
ただうまく歌うだけなんて飽きちゃった!っていう人は、どうかこの沼にハマってほしい。
うまく歌えるかな…っていう人は、むしろ隠された音楽センスを発揮できるチャンスかもしれない。そんな曲です。


◆世界観と歌詞

『SPY×FAMILY』の世界観を少しだけ説明すると、
東西の隣国間でかりそめの平和が成り立っている世界を舞台に、凄腕スパイである黄昏(たそがれ)、殺し屋のヨル、超能力者のアーニャが、互いに素性を隠しつつ、即席の偽装家族としての生活するお話。詳しくは作品を見てみてね。めちゃおすすめです。
そんな世界観に歌詞が意味深に寄り添っているところが深読みの第一歩かなと思います。
たとえば…

袋に詰められたナッツのような世間では
誰もがそれぞれ出会った誰かと寄り添い合ってる
そこに紛れ込んだ僕らはピーナッツみたいに
木の実のフリしながら 微笑み浮かべる

Official髭男dism『ミックスナッツ』

ミックスナッツの中身はおおよそアーモンド・クルミ・ピスタチオ・ピーナッツあたりが有名ですが、実はピーナッツはナッツ(木の実)ではなく豆なんです。
木の実のふりをしながらも、普通に紛れ込んでいる。偽装家族はまるでピーナッツみたいなものなんでしょうね。

こういった深読みをしていると時間がいくらあっても足りなくなってしまうので歌の話に移りますが、この楽曲の裏側の世界観と歌詞の深読みをしていくと、ただ難しい曲がなかなか深い曲に代わっていくのではないでしょうか。

◆今回の審査ポイント

この楽曲、非常に難易度が高いため、審査ポイントをある程度設定しておかないとばらつきが大きくなってしまいそうなので、3点に絞って聞いていこうと思っています。

・発音タイミング
・リズム感
・音程の扱い

この3点で審査していく予定です。
音程やリズム感はわかるけれど発音・・・?という方もいると思うのでざっくり説明をしていきます。

・発音タイミング

発音タイミングというのは、どのタイミングで子音が発音されて、どのタイミングで母音に切り替わって、どのタイミングで次の子音や母音に移行するかというものです。
長すぎてしまえばもっさりして聞こえるし、短すぎれば明瞭度が下がっていくので非常に扱いが難しいのですが、この意識が存在するだけで楽曲の印象が大きく変わっていきます。
例えば、サビ頭(隠し事だらけ)の最初の音素は破裂音(k)なので、そこまで気にならないのですが、そのあとのリフレイン(不安だらけ)の最初の音素は摩擦音(f)になります。
この摩擦音は無声摩擦音なので、子音発声後0.1秒以内に有声化しなくてはなりません。(ミックスナッツのBPMは150。子音処理の猶予は大きく見積もっても16分音符以内のため0.1秒以内というざっくり計算)
このタイミングが適切かどうか、次の言葉に移行するときに障害になっていないか。意味のある長さなのかという観点で審査していきます。

・リズム感

それに比べるとリズム感はわかりやすいところかとは思いますが、それでもミックスナッツのリズム感…特に冒頭の入りやテンションの上がりやすいフレーズはリズム感が崩れやすいため、審査ポイントとしています。
裏の楽器の音に騙されて走ってしまったり、ズレてしまったり…まぁあるあるなんですけれども。
どうしても遅れてしまう、走ってしまうという場合は、発音タイミングと合わせて見直してみてください!

・音程の扱い

最後に音程ですが、ミックスナッツは音程的にかなりきわどいところを攻めています。
特にサビ直前の「ありのままでは居られないまま」が最難関かと思われます。
人によっては「ありのまま」の「のま」が音程取りづらいのではないかなーと思っています。
実は音程が取りづらいのには理由があって、音程が上がることと、「お母音」から「あ母音」に移行するときの音の変化が脳内でごちゃ混ぜになって混乱してしまうんです。(この辺詳しく知りたい人はYoutube見るかDMくやさい。)
こういった脳内がバグる系のフレーズやメリスマが割と多いため、音程の操作能力がめちゃくちゃ試されます。
今回の審査ではその辺をしっかりと聞いていこうと思っています。

◆アドバイスポイント

そんな審査の話ばっかりで救いはないのか!!という声が聞こえそう…いや、聞こえないかもしれないけれど、
今回の楽曲のアドバイスポイントをいくつか書いておきます。
むつかしいかもしれませんが、挑戦してみてくださいな

・子音の処理

全体的に短く子音を扱う必要がある楽曲です。
歌いだしやフレーズの頭で長めに子音を使ってしまう癖がある人は、フレーズが重くなってしまったり、次の言葉に入り遅れてしまう傾向があるかと思います。
また、子音で母音を区切るように使ってしまうと、フレーズがつながらず、ぶつぶつ切れてしまう恐れもあります。
子音は母音を区切るために使うのではなく、はじくような感覚で使ってあげるとよいかと思います。母音は出続けているけれど、それを邪魔しない範囲で子音を扱う感じです。
この時子音が長すぎると、訛りのように聞こえてしまうので、注意が必要です。

・母音の処理

この楽曲は大きな口を開けて大きな声で歌うと崩壊するという、学校教育全無視な曲となっています。
サビや高音域になるとどうしても解放感に満たされてガーーーッっと口を開けたくなるのですが、それをちょっとだけ我慢することでより高度にフレーズを作ることができます。あ、とはいえ口を開けないわけではないのでご注意を…
言葉が多くなってくる部分(特に幸せのテンプレートの上あたり)では、口を大きく開けすぎると、母音と母音の移行に時間がかかってしまいリズムが遅れてしまいます。
いやいや、母音の移行にはそんなに時間かからんよ!という滑舌強者な方もいると思いますが、そうすると逆に、言葉が「カパカパ」してしまうんです。このカパカパ感はフレーズを途切れさせる要因にもなります。
一定の口の大きさで気だるげに…しかし力強く歌いあげてみてください。
ちなみに、Official髭男dismの藤原さんの母音を真似したい場合は全体の母音を少しだけ「え母音」に寄せると近くなります。

・ハーモニー感覚を鍛える

ここだけの話、公式の音源を聴くと100%音程に忠実というわけではないんです。
…というと賛否が起こりそうなので定義しておくと、この音程というのはA=440Hzを基にした24平均律(いわゆる絶対音感)からは若干外れる音形やメリスマが多いんです。
音程が若干外れてるのに合っているように聞こえるのは楽曲のコード進行やハーモニーに沿って扱っているからなんですね。これ、実はめっちゃ高等技術です。
高等技術ではあるのですが、感覚的には皆さん無意識にやってるんじゃないかな。「気持ちいい方に声を合わせる」というやつです。
歌の音程のみに意識を向けて正しい音で歌おうとするとなかなか難しいのですが、楽曲自体のドラムやベース、シンセサイザーなどをヒントにすると自然と気持ちいい音が見つかると思います。
Youtube等でインスト(楽器のみ)の音源を探してみて聞きこんでみてください。歌っているときには気が付かなかったいろいろな発見があると思います。

(小話:この気持ちいい音や感覚は個々人の記憶や習慣など様々な記憶から反映されるので、必ずしも「これが気持ちいいよね」ってのは提示するのが難しいものでもあります。そして、音のみならず歌詞の文脈やフレーズの記憶からも影響を受けるので、様々な要素で構成されます。つまるところあなたの経験や考え、人生が反映されると思ってください。そのため、個人的にはこれを聴くのが正直楽しみでたまりません。職業病です。)

◆楽曲に取り組む前に

ここでは、楽曲に取り組む前に確認しておきたいポイントを整理しておきます。ミックスナッツに限らず、最近の楽曲に広く扱えることなのではないかと思うので、目を通してもらえると嬉しいです。

・リズムがわからなくなる、歌が入れない

楽曲の冒頭、歌入りの瞬間に伴奏やベース、ドラムが消えて突然歌が始まったり、変則的なリズムが挿入されることが多々あります。ミックスナッツも同様に歌いだしの直前、ドラムのアタックを最後にシンセサイザーのフレーズが聞こえ、突然アタックが入り歌いだしとなります。
しかも、いやらしいことに歌いだしも8分休符を挟んでからの裏拍で始まります。
こういった場合、一生懸命に聴こうと思っていても、結局直前で躓いて入りがぎこちなくなってしまいます。
こういった状況を改善する唯一の能力は「予測」です。
…いや、そりゃそうだろって思うかもしれませんが、結局はこれに尽きるんです…

https://www.youtube.com/watch?v=CbH2F0kXgTY&t=0s

公式MVの0:21あたりでドラムのアタックが入ります。
その後歌いだしの0:25までは8拍あります。(厳密にいうと裏箔始まりなので8.5拍)
この時大事なのは、そこまでのイントロで大体のテンポ感や拍子感を把握してノっておくことです。
その後、ドラムのアタックが聞こえたら、鳴っている音をすべて無視して8拍数えてから歌い始めるとちょうどいいと思います。
このタイミングを合わせるために必要なことが、予測能力なんです。

イメージとしては走っている車を想像してみてください。
車が見える状態でどれくらいの速度感で走っているか、何秒くらいでどのくらいの距離にいるかを把握しておけば、突然トンネルに入って車が見えなくなっても、なんとなくこの位置にいるだろうなーと予測できる…みたいな感じです。

・キーの設定が難しい

Official髭男dismの藤原さんの声を聴いていると
「あれ?この曲意外と歌えるんじゃね?」
と錯覚してしまう瞬間が多々あります。
ですが、多くの場合は幻想です。実際はめっちゃ高い。
そのため、キーの設定に惑わされている方も少なくないと思います。

キーの設定で効率の良い方法は2種類あります。
(面倒な手順を踏めばいくらでも方法はあるのですが…)
1つは最高音に合わせる方法。
ミックスナッツの最高音はhiDとなっています。
その最高音と自分の最高音を比べてキーを調整する。これが一番簡単な方法です。

ただしこの方法は簡単な代わりに不完全な方法でもあります。
というのも、最高音の出し方が地声なのかミックスなのか裏声なのかでも意味が大きく変わってしまうのです。
そのため、もう少し高度にキーの設定をする場合は、声を裏返しているポイントや切り替わりの瞬間を見極めて選択する必要があります。

この楽曲の場合、サビ中の最高音hiD以外はそこまで音程が高くないセクションが続きます。
そのため、地声の最高音をhiCあるいはBに設定して、その最高音を基準にキーチェンジを行うことで、
張りたいフレーズはできるだけ地声で引っ張り、最高音はミックスに…というような戦略が立てられるわけです。

最近は検索するとあなたの音域とこの楽曲の音域!みたいに出る機能もありますが、地声なのかミックスなのか裏声なのか…もっと言うと男性なのか女性なのかでも音声的な扱いが変わるので、参考にしつつ、ひたすらトライアンドエラーを繰り返してみるのも面白いかもしれません。

・細かい音程が苦手

これはカラオケの採点でもありがちなことなのですが、聴いている音程と実際に入力されている音程が違ってしまい点数が伸びない…ということは多々あります。
複数の要因はありますが、多くの場合、発声のタイミングと発音のタイミングがずれてしまうことが原因となっています。
こういうときはフレーズを分解して考えていくとすっきりしていきます。

例えば「ありのままでは」の部分を分解していきます。
a ri no ma ma de wa
この時、どのタイミングで音程を変えるかを考えてみましょう。
もしもあなたが細かい音程が苦手に感じている場合、
ar in om am ad ewa
(太文字が音程変化)
このように子音が前の母音に連結してしまい、音程の変化を母音の最中に行っている可能性があります。
楽曲にもよりますが、子音の発音中に音程を変化させ、母音発音の時点で音程が確定している状態が理想です。
a ri no ma ma de wa
(太文字が音程変化)

母音の最中に音程を変化させてしまうと、ずり上がり、ずり落ち、ぶら下がりなどが起こるため不安定に聞こえてしまったり、本人の感覚とは関係なくしんどそうに聞こえてしまいます。
テンポが速い曲や細かい音程の曲では、こういうタイミングを考えることで歌いやすさや聴きごたえが向上していきます。
めちゃくちゃ細かい部分ですがこういった処理をしっかりすることでミックスナッツを美味しくいただくことができると思います。
魚の処理みたいなものです。

◆最後に

ここまでお読みくださりありがとうございます。
書き始めたら思いのほか長くなってしまいました…
細かいことを言い始めたらきりがないので、かなりざっくりとお話しさせていただきました。
この楽曲は難易度が非常に高いので、苦手意識を持っている方もいるのではないかと勝手に想像しています。
少しでもその苦手意識が「もしかしたらできるかも・・・?」くらいに変化してくれたらうれしいなーと思っています。

ではでは、審査でお会いしましょう!
あなたのミックスナッツが聴けるのを楽しみにしています!

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