口先だけのキセツ

163日目(7月20日)

 昨日から梅雨が明けた。こんなに暑いのは久しぶりで心が踊ってしまう。これから始まるであろうギラギラとした夏を、あの炎天を期待せずにはいられない。熱を帯びたアスファルトを踏みしめる足に、思わず力が入る。これから夏が始まるのだ。

 ふざけんなクソがよ。なにがギラギラした夏だしょうもないんだよワンパターン野郎が。たまには涼しい風でも吹かせてみやがれ。常に湿度が高いくせにヒートアイランド現象で追い討ちをかけてくるな。暑ければ暑いほど面白いとかそういうの無いからな。夏よ。四つの季節の中で実は一番人気無いからな。お前のことが好きなやつ大体肌黒いし、室内でもサングラス外さないぞ。あと真っ白な半パン履いてる。真夜中に見ると半パンだけ浮いてるように見えるからやめたほうがいいぞとお伝えください。いや、おっけー笑じゃねえんだよこっちがキレてるの分かってねえのか。いいかげんにしろ。これ以上調子に乗ったら俺はもう日傘を差すからな。

 まあそこまで嫌いでもないが。夏の思い出ってなんか美化されやすいというか、思い返した時にすごくノスタルジーを感じる。夏の持つ独特の雰囲気のせいだろうか。6月→7.8月の間が地続きだと思えない。どこかで断絶が起きている気がしてならない。時空が歪んでいるというか、どこか世界がおかしくなっている感覚。明らかに今までの日常が変化している。まるで厨二病を患ったみたいだが、そう、その通りである。まだ思春期も厨二病も抜けていないのでもうどうしようもない。今年も夏は私を捕らえて離さない。

 最近気づいたこと。私は人と話すのがあまり上手くない。滑舌が悪いとか、そのくせに早口だとかの技術的な面もあるが、それよりもっと根っこの部分に問題がある。
 元来根暗なのでいくら外面を取り繕っても無駄だという話。自信に満ち溢れた女子高生、本当のウェイ系、肩を組んでくる体育教師、そこらへんが私の苦手とする分野だと思う。芯から明るい人間を前にすると私が今の今まで人生で培ってきたしょうもない小手先のテクニックが全く通用しなくなるのだ。彼等は腹から声を出すのに対し、こちらは口先というか唇の先端で喋っているからだ(そもそものポテンシャルが違いすぎる)。彼等の土俵に上げられるとボコボコにされるし、自分の狭い土俵に引きずり込むような手段ももちろん無い。その時私にはなす術が無くなる(なのでもうニコニコしながら黙るしかない)。
 これは早急に対策を講じなければいけない。さて、どうする?たとえば好きな子と夏祭りに行ったとしてそこでなす術がなくなったらどうする?私の出す答えは「沈黙」で正解なのか?過去の私はどうしたんだっけか?

 記憶を遡ってみたところ、それに該当する記憶は存在しなかった。
 眼鏡のレンズが真っ白になるような蒸し暑さの中で、人混みに揺られながら、色が白いあの子の手を引く。遠くで最後の花火が打ち上がる音が聞こえて、近くではりんご飴をねだる子供の泣き声がする。あの子の黒目がちな目は笑っているのか怒っているのか、それとも泣いているのか、分かりにくい。
 真っ赤な髪をしたあの子と目が合った時、すべてが透き通って見えた。
 そんな、そんなあの子は透明少女。

(イントロ:ギター)

https://youtu.be/SUAnU1A38ec




#日記 #ナンバーガール

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