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ぼくらはパンダのうんこを5万個売った。

はじめに
このnoteはコロナ以前に何度かビジネスセミナーでお話しし好評だった内容をコンパクトにまとめたものです。再編集するにあたってコロナ後の事も併せて書きました。
刺しゅう作家である私がどうやって畑違いの商品を作り販売していったかの記録になります。何か新しいことをはじめたいと思っている人の後押しになり、またコロナ禍で苦しんでいる工場の役に少しでもなればと思って無料で公開することにしました。
もし参考になった、商品に興味を持ったと思った方は是非工場のオンラインショップで商品を応援購入してください。商品を置いていただけるお店も随時募集中です。

▼パンダのうんこ販売ページ


01 隣の芝生は青く見える?

2017年6月に上野動物園で生まれたジャイアントパンダの赤ちゃん“シャンシャン”についてはみなさん記憶に新しいと思います。愛らしいその姿を見るために日本全国から観光客が上野動物園に押し寄せました。動物園周辺のお店ではそのブームにあやかったカワイイぬいぐるみ(生まれたてのピンク色をした赤ちゃんパンダのぬいぐるみは抽選になるくらい人気でした。)やキーホルダー、お菓子やデザートなどのお土産物はもちろんのこと、レストランではキュウリとナルトでパンダの顔を強引に作ったパンダそうめんなどいたるところでパンダの商品が溢れかえっていました。

当時私もそのブームにあやかりパンダの親子が刺しゅうで入ったハンカチを上野駅構内にあるお土産物屋さんに卸していました。あるとき納品ついでにお店のスタッフにどんな商品が売れているのかと尋ねた所、パンダの顔を模した「パンダ煎餅」が1日200枚以上コンスタントに売れているということを聞きとても驚きました。私の仕事は刺しゅうがメインなのでお菓子を扱ったことはもちろん無かったのですが売れていると聞くと俄然興味を持ちます。すぐに他のお店もリサーチしたところやはり雑貨よりもお菓子が飛ぶように売れていることに気づきました。これまで意識して見ていなかったのでお土産お菓子市場がこんなにも盛況なのかとびっくりしました。考えてみるとお土産で一年に一度食べるかどうかの“鳩サブレ”や“ひよこ”、“東京バナナ”と言った商品はどこの駅や空港のお土産物屋さんにもあります。その日私はお土産お菓子の市場はとてつもなく大きいのではないか、自分でも何か作れないかと思ったのでした。

ポイント:自分のいる業界以外にも目を向ける。


02 商品開発 パンダのうんこは緑色!?

飛ぶように売れるお土産お菓子を目の当たりにし、この業界にすぐにでも参入したいと思いましたが畑違いで後発である私がパンダの形をしたクッキーやキャンディーなどを作ったとしても既に似たような商品がある可能性が高くお店に置いてもらえるかどうか微妙です。何か商品化の参考になるような面白いパンダのアイデアは無いかとネットを探っていたところパンダのうんこは緑色だという情報と画像が目に飛び込んできました!

■パンダのうんこの豆知識 
パンダは主食である竹を十分に消化することが出来ないため緑色のうんこをします。大人のパンダのうんこの大きさは1個約15cmで一日平均100個近くします。

見た目がどことなく麩菓子っぽいなと思い、抹茶で色を付けた麩菓子が出来たら商品化出来るのではないか!?それだったら商品名は「パンダのうんこ」や!(何故か関西弁、生まれも育ちも埼玉です。)とひらめきすぐに商標を抑え、商品化へ向けて動いたのでした。

ポイント:行ける!と思ったら悩まず勢いで進む

【こぼれ話】
当時「うんこ漢字ドリル」が大流行中だったことも商品名に“うんこ”を付ける後押しだったような気がします。 商品名を“パンダのうんこ”で行こうと決めてからはすぐに商標を申請し、pandanounko.comというドメインまで勢いで取得してしまいました。もしここで“パンダのふがし”など無難な商品名にしていたらどうなっていたでしょうか。もっと売れていたかもしれないし、売れていなかったかもしれません。悩んでも答えは出ないので行ける!と思ったその時の初期衝動を大事にしたいと思っています。ちなみにいつか作りたいと「恐竜のうんこ」という商標も抑えています。


03 難航する工場探し

「パンダのうんこ」という商品名で緑色の麩菓子を商品化しようと決めましたがこの時点で作ってくれる工場の目星はありません。お菓子の製造に関して、ましてや麩菓子の製造に関してなんて全くの素人なのでわかりません。実際この時は工場さえ見つかれば何とかなると思っていました。通常の黒蜜で出来た麩菓子の上に抹茶をまぶせばほら簡単に緑色をした麩菓子が出来るでしょと考えていたのでした。

早速ネットで麩菓子工場を探したところ数軒すぐに見つかったのでその時は意外と簡単に出来るかもしれないと思いました。商品化した後の送料の事を考えて近場の工場から順番に電話を掛けて行きます。(私は初めてお問い合わせする会社にはメールと同時に電話をします。メールだけだと後回しにされることも多いので。)東京にあった1軒目、2軒目ダメでした。少し遠いなと思いましたが静岡にあった3軒目4軒目に電話するもこちらもダメ。かなり遠いけど仕方ないかと岐阜にある5軒目、ダメでした・・・。断られた理由は「パンダのうんこ」というネーミングだからでは無く麩菓子の製造工程上難しいという事でした。

■オートメーション化された麩菓子の製造工程の簡単な説明
機械でグルテンと小麦粉と水を混ぜて生地をつくる→棒状に小分けする→ベルトコンベアーに乗せ焼く→焼きあがった麩に黒蜜をかける→熱風をかけ乾燥させる→パッケージ→完成

単純に出来上がった麩菓子に後から抹茶をかければいいと考えていましたが製造ラインが既に出来上がっていて新たな工程を挟むには数万個単位で製造しないと機械の清掃の手間などを考えたら作れないということでした。要するに生産コストが合わないということです。もしくは見ず知らずの素人がいきなり電話してきて面倒だったのかもしれません。

あんなに1人で盛り上がっていたうんこブームも一気に冷め、それからは他の仕事に忙しく毎日を過ごすことになります。それでも頭の片隅にうんこが引っ掛かっていたのかお土産屋さんを見るたびに作りたい欲が湧き商品化出来れば絶対売れるのにとついには夢にまで緑色のうんこが出てくるようになりました。

こんなに作りたいのなら諦めるにはまだ早いと私は改めて工場を探しなおすことにしました。検索ですぐにはヒットしなかったけどネットの奥の奥まで掘りまくったところ青森にあるお麩工場が手作りで色々な色と味の麩菓子を作っているのをついに見つけました。当時抹茶味の物はありませんでしたが作れそうな気がします。

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株式会社 松尾
青森県弘前市・創業明治15年
業務用、家庭用の焼麩製造他、バリエーション豊かな麩菓子も精力的に開発。
https://foo-matsuo.jp/

すぐに電話をしたところ、拍子抜けするくらいあっけなく「出来ると思いますよ」と青森なまりのおじさん(社長だった)から返答をもらいました。商品名であとあと揉めると大変なので実は「パンダのうんこ」という名前で売りたいと伝えたところ「それは面白いね」と乗って来てくれ話しはとんとん拍子に進み、電話をした2週間後にはサンプルを作って送ってきてくれました。味にもこだわってわざわざ高級な京都産の宇治抹茶を使い作られた麩菓子は色も形もパンダのうんこにとても近く、口にした瞬間食べたことはないですが“パンダのうんこの味”がする!ととても感動しました。

ポイント:壁にぶつかったら少し時間を置いて寝かせる。


04 価格設定とパッケージデザイン

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スーパーで販売されている麩菓子はパック詰めで8~10本入って300円くらいだと思います。いっぽう新商品として売り出そうとしている「パンダのうんこ」は通常の麩菓子のサイズの3分の1くらいのもの(シャンシャンサイズ)が9個入って550円です。手作りなので仕方が無いですが工場もお店も私も利益が出るように考え計算して設定しました。消費者に少し高いと思われても買ってみようかと思って貰えるようにパッケージや販促チラシで商品の素晴らしさをアピールする工夫をしました。

■消費者へのアピールとして行ったこと
・レトロなタッチが定評の人気イラストレーター鈴木旬さんにパッケージデザインを依頼。伝統的なお菓子の雰囲気を出し、お土産物として喜ばれるかわいさを加えました。
・工場の歴史が古いことに着目し「創業明治15年」と大々的にパッケージやプロモーションとして使用し説得力を加えました。
・京都産の高級宇治抹茶を使用しネーミングはふざけているけど味は本格派とアピール
・製造元である工場の社長や制作過程の写真を多く使用
・パッケージにパンダのうんこがなんで緑色をしているかなどの豆知識を掲載など
ポイント:割高に見える価格は付加価値アピールでカバー


05 ついに販売開始!

出来上がったサンプルをお土産物屋さんの店長へ持って行ったところ見た目キャッチ―で味も美味しく面白いので試験的にやってみましょうということになりついに2018年3月2日店頭で販売することになりました。2017年9月に「パンダのうんこ」を作ろうと動きだしたので商品化して店頭に並べるまで半年かかったことになります。工場を探すのに難航したので当初考えていたより時間が掛かりました。

一番目立つ所に並べてもらった「パンダのうんこ」は目新しさとそのインパクトからか売場に並べた瞬間から売れて行きます。あれよあれよという間になんとその日のうちに初回納品分の120個が完売しました!!!!これは大変なことになったぞと喜びもつかの間、工場にすぐに電話をし増産が出来ないかと相談しました。というのも工場からはどんなに頑張っても月500個しか作れないと事前に言われていたからです。電話では上手く伝わりません。こうなったら直接会って話すしかありません。翌日青森へ飛びどれだけみんなが“うんこ”を欲しているかということを熱く語りました。しかし通常の生産ラインを崩してまで「パンダのうんこ」を作ってもらいその後売れなくなりましたでは済まないと思ったので前金で2000個分払うのでなんとか月2000個作ってくださいと勢いで伝えました。こっちだって青森まで来て簡単に引き下がれません。その熱意に負けたのかラインを組み直してくれなんとか作ってくれることになりました。社長は帰る時にお金は売れてからでもいいよと言って駅まで送ってくれました。売らなくては!と決意を新たに東京へ戻ります。

ポイント:手ごたえを感じたらすぐ次の行動へ


06 売場確保&飽きられない工夫

2018年3月に発売後すぐにヒット商品となった「パンダのうんこ」は桜のシーズンを迎え上野公園へお花見にいく観光客が増えた4月には5000個に迫る売り上げを記録します。なんとかお願いして2000個まで作ってくれることになったその翌月に5000個の発注です。工場は稼働時間を増やして対応してくれました。私が出来ることは人目に付く一番良い売場を確保して商品を売ることです。専用の什器とノボリをこちらで費用は負担するのですぐに作らせてほしいとお店に提案し置いてもらうことになりました。

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また売上が少し落ち着いた時に飽きられない工夫として期間限定で味と色を変えたうんこも作り話題になりました。さくらのシーズンはピンク色をしたさくら風味。秋は白色をした青森リンゴ味。最近作った「黄色い色をしたパンダのうんこ バナナ味」はうんこ史上最高に美味しいと私の中で話題です。

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目的としてお客さんを飽きさせないことが限定商品のはじまりでしたが通常の抹茶味と一緒に買ってくれる方が多かったのは嬉しい誤算でした。

ポイント:専用什器を作って売場確保!&話題作り


07 売上低迷

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コンスタントに毎月2000個以上売れていた「パンダのうんこ」ですが2019年に入り売上が落ち着いてきます。5月には前年の売上を参考に4月に多めに入れてもらった分がそこまで動かずお店に在庫が残ってしまい発注数は500個を切りました。天候が悪かったのも1つの要因です。これまでが良すぎたという考えも出来ますが売場の都合でこうも発注数が変わると工場のラインが組めなくなるのでこれまで店舗限定で販売していたお店の店長に相談し他店でも「パンダのうんこ」を販売することを了承してもらい営業活動を始めました。

※2019年10月の売上が突出しているのは人気テレビ番組で取り上げられたのと全国チェーンのスーパーの青森フェアに商品が並んだからです。


それからはというものこれまで力を貸してくれた工場に迷惑をかけてはいけないと手当たり次第置いてくれそうなところを営業に周りました。何十件下手したら何百件断られ続けていた中、浅草花やしきさんが取り扱ってくれることになり手ごたえを感じつつもまだ2店舗だけでは売上が不安定なので営業を続けます。自分のためもありますがこの時は工場への恩を返そうと絶対月2000個は下回らないようにと目標を立てて動いていました。(本業は刺しゅう作家なのに。)

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営業用に作った名刺
途中で青森から来たというと話を聞いてもらえると気づきわざと青森訛りで営業していました。

そうこうしているうちに取引先の上野駅のお土産屋さんで一番売れていると聞いたパンダの顔の形をした“パンダ煎餅”を販売している問屋さんにたどり着きます。勝手にライバル心を抱いていましたが話してみるとこちらの商品の事も知ってくれていて取り扱ってくれることになりました。直接お店と取引するよりか取引条件は悪くなってしまいましたがこの問屋さんを通して今では横浜中華街や量販店にも並ぶようになり売り上げが安定しつつあります。

ポイント:時としてライバルとも手を組む


08 定番化へ ~パンダのうんこの進む道~

「パンダのうんこ」は重量は軽いのですがかさばるので配送コストの問題や手作りで大量生産出来ないという欠点があります。これ以上取扱い店舗を増やしたとしても売場に数量を左右されるので毎月決まった生産数しか作らないようにして“細く長く売れるうんこ”にして行こうと工場の社長と今後の方針を決めました。またその流れの一環として私は開拓した取引先と販売の権利、商標の使用権を工場に全て譲ることにしました。販売数分のロイヤリティをもらう契約です。もちろん営業面ではフォローします。これにより工場は利益が増え、私の利益は減りますがお店とのやりとりなどに掛かっていた時間が無くなりまた新しい事をはじめることが出来るようになりました。

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【図の説明】
商品に付加価値を付けたため価格競争に巻き込まれず工場もお店も私も利益が出る仕組みが取れました。どこか一つ欠けても成り立たないので対等な関係で取引が出来ています。

ポイント:関わる人すべてがハッピー。対等な関係を築く。


あとがき

私の思い付きが発端となり青森で作られた“パンダのうんこ”が上野に届き、お土産として買われたその“パンダのうんこ”が各家庭や職場で楽しみながら食べられていると思うと何だかとても不思議じゃないですか?

もしこの話を読んで自分でも出来そう何か新しいことをやってみたいと思っていただけたとしたら嬉しいです。是非参考にしてください。
自分から行動すればきっと面白いねと協力してくれる人が出てきます。もちろん失敗したり嫌な思いもするかもしれませんがそれはその都度修正すればいいだけです。一歩踏み出せば世界がぐんと広がりますよ。

そうそう最近ウォンバットのうんこが四角いという事をネットニュースで知りました。(笑)
最後まで読んでいただきありがとうございました。




コロナ禍の今

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パンダのうんこの売上はグラフを見てもらえればわかる通り2020年2月以降激減します。売り上げが数個という月もあります。ホテル、観光業の業績悪化がよくニュースで取り上げられますがそれに付随したお土産物の需要も激減しています。一番の取引先だった上野のお土産店は観光客がいなくなったこともあり賞味期限があるものの取り扱いをやめ売り場からパンダのうんこは無くなりました。

これまで何か新しいことをやろうと思ったら行動しようと書きましたがコロナ禍の今みんながみんなすぐに何か出来るわけではないとはわかっています。青森のお麩工場は多くの商品が賞味期限切れになり廃棄することになっても事業を継続するために従業員の生活を守るために新しくなったオンラインショップで商品の販売を続けています。

今も工場とお付き合いしながら何も全く新しいことをするのがすごいんじゃなくてこれまでやってきたことの延長線上に新しいことをするのがすごいことなんだと感じています。

下を向いてばっかりはいません。これまでやってきたことが間違っていたわけではありません。
だってぼくらはパンダのうんこを5万個売ったのだから。

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オンラインショップで販売中!

商品に興味を持っていただいた方は是非工場のオンラインショップで商品を応援購入してください。パンダのうんこ以外もおいしいよ!商品を置いていただけるお店も随時募集中です。

▼お麩の松尾 オンラインショップ

2021.4.28追記
2021年4月現在の取扱店舗
上野公園内パークス上野

2021.5.14追記
朝日新聞デジタルに掲載されました。

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