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妻恋う鹿は笛に寄る(自作の詩と散文)

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瀬戸内海に面する小都市で暮らし、働きながら詩や散文を詠んでいます。情景を言葉として、心で感じたことを情景にして描くことを心がけています。言葉の好きな方と交流できたらいいなと思って…
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#詩人

青い蝶

青い蝶

部屋に青い蝶が飛んでいる。偶然に偶然が重なり、縁と縁が結ばれてたどりついた蝶たち。いつでも逃げて行けるように窓を開け放していていも、窓から外へ飛んでいく様子はなく、狭い部屋ながらも居心地良く過ごしてくれているようだ。部屋の隅に青いバラを挿して、白いお皿に砂糖水を吸わせた脱脂綿を置いている。青い蝶たちは時折、蜜を吸っている。結局のところ、私は誰かを幸せにしてあげられる人間ではなくて、気ままな詩人でふ

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森の中、鬼は一人

森の中、鬼は一人

森の中に群生する

野生の百合

物語は動かない 解き放たれない 一途な思い

悲しい歌を唄い続けている

何を言えばいい 何を待てばいい

美しい水音 木の葉の風に揺れる音

遠い昔、ひとりの淋しい鬼が球根を植えた
誰も知らない 誰も訪れない 誰も気づこうとしない

深い森に宿る光 しんとした冷たい

野生の百合の甘い香り

夜の森 深い闇
夜の森 物語は動いていく

そもそも闇は
弱い者には

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道 標

道 標

今にして思うと、いいこともそうではないと感じたことも全て、私の一部分で、一つ欠けても今日この日は迎えられなかったのだろうと思う。私の世界は他ではない私自身の選択で決められて、誰のせいでもない事。否定もしないし肯定的でもないが、因果応報、こうなる定めであり、概ね、これで良かったと思える。これからさきは未開地。先の尖ったドリルで、壁をぶち破り、これまでの経験を糧に、知恵を絞って、一つひとつの選択をして

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凪のしじま

凪のしじま

あぁ、時々は空に溶けて

暮れ泥んでいきたい

あぁ、時々は海に溶けて

呑み込まれていきたい

しかし、どちらも内在している

身体の現象

しかし、どちらも滞在できない

凪のしじま

宇宙の片隅で

宇宙の片隅で

銀河系を共に旅するなら、愉快な人がいい

宇宙遊泳するなら、一人がいい

月を見て語り合うなら、友達以上恋人未満の人がいい

新月の夜に夢で会うなら、まだ見ぬ人がいい

流星群を見るなら、恋人がいい

夕陽を見て叫ぶなら、悪い友達がいい

日向ぼっこするなら、良い友達がいい

日の出を過ごすなら、家族がいい

地球の滅亡に共に立ち会うなら……

どんな時も人間は無力であることを知っている人がいい

コアラのマーチ

コアラのマーチ

夜中、目が覚めると隣に眠っていたはずの君がいない。トイレにでも行ったかなと思い、うとうとしていても帰ってこない。心配になって探しに行く。

また、眠れないのかな……

リビングの方に行くと、真っ暗な部屋で映画を見ている君を見つけた。眠れないの?と聞くとうなずく。

寝転んでごらんと言うと聞き分けの良い女の子のように、すっと寝転がる。僕は君の足元に廻り、そっと足の裏をマッサージしていく。そうするとた

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暴力装置

暴力装置

私の体の中に忍び込んでいる
暴力装置を監視している

何かの弾みでスイッチの入る恐ろしい装置に
スイッチが入らないような
第三者機関のような冷徹な目が曇らぬように
第三者機関を見張るもうひとつの目が光っている

その目こそ私の中に忍び込んでいる
暴力装置が持っている目であるという
大きな矛盾の中で
私は日々、生きている

湖

心の中に

濁った湖が横たわっている

澄んでいるといいのに・・・

いつもそう思う

真ん中まで舟で漕ぎ出すと

心もとない気持ちになる

底は浅そうだが

計り知れないものがある

風向きが刻々と変わっている

上空の方・・・

漣は月影を揺らす

しんと冷たい水

良かった

良かった

どん底を味わって良かった。辛いことをたくさん経験してきて良かった。身体も心も弱くて良かった。もうダメかもと何度も思ってきたけど、いろいろな人や自然に助けられてきて良かった。運が良かったのかも。まだ自分にはやり残したことがあるのかも。立派な人間ではなくて良かった。格好良くなくて良かった。仕事ができる人間ではなくて良かった。良かったことが沢山見つかって良かった。自分の素直な感覚の中で生かしてもらえて良

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哀しみの在処

哀しみの在処

夕空追いかけながら

あなたの見ているものを見つめながら

歩幅に寄り添いながら

走り去る車の脇すり抜けながら

壊れものを扱うように手を握った

誰もいない世界の

二人だけの小さな会話の

クツクツ笑う瞳の奥の

わななく哀しみの在処を

そっと温めたの

ちっぽけな存在にすぎない私たちの心の中

ちっぽけな存在にすぎない私たちの心の中

なんて人生は意味深いのだろうか。自分の思い方次第で、どんな風にでも捉えられる。辛いことが重なっても、その経験が人間を広く深いものにしてくれる。この世界の大きさ、歴史の長さの中で、ちっぽけな存在にすぎない私たちの心の中には、全て詰まっているはず。感じられるはず。それも自分の思い方一つなのだ。それは何か大切な者達に支えられ、助けられ、ここまでたどり着いた大きな流れの中に浮かんでいて、星々の軌道に則った

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二人の距離感

二人の距離感

下らない話を上機嫌で笑い合う二人は、真面目な話をバカバカしく話す。煩悩の塊の私は魅力的な妻をいつもそばで見ていると、大晦日には除夜の鐘を三倍速で三倍叩いてもらわないと高貴な思想には至らないそうだ。秋の道を二人歩く。二人とも別々のカメラでそれぞれのものを撮影する。車を持たない二人は、田舎の国道沿いのバス停ベンチで、撮影したものを見せ合いっこ。一時間に一本あるかないかの本数。のんびり待つ。