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セミナー企画とファシリテーションのコツ6:「アイスブレイクの実践例①」

こんにちは。大木浩士と申します。
これまで1000回以上、セミナーやトークイベントなどを企画し、開催してきました。(具体例はこちら
この記事は、それらを自ら企画し開催してみたい。そう思われる方に向け、私が培ってきたセミナー企画のノウハウをお伝えする内容の第6回目になります。
※前回(第5回)の記事はこちらから。

今回のテーマは、「アイスブレイク」です。

人を集めて対面型セミナーを行う場合、リアルでもオンラインでも、「場の雰囲気づくり」が非常に重要になります。

想像してみてください。
目の前にいる参加者たちが、みな腕を組んで、眉間に皺がよっている。
一生懸命話をしても、誰もうなずくことなく、無表情で無反応。
時間が経てば経つほど、場に冷ややかな空気が漂ってくる。
押しつぶされそうです。

アイスブレイク。
セミナーをはじめたばかりのころの私は、その時間を軽視していました。
アイスブレイクという言葉はもちろん聞いたことがありました。
しかし、「そんな時間を持つよりも、限られた時間で、参加者にたくさんの情報を伝えなければ」
このような思いから、大量のパワーポイント資料を作成し、独演会のようなセミナーや勉強会を開催していたのです。
会場内には、いつも冷ややかな空気が流れていました。
その空気から目を背けたくて、懸命に殻に閉じこもり、独り言のようにノウハウのレクチャーを当時の私は行っていました。

今の私ならこう思います。
セミナーなどの場づくりで、まず意識を向けるべきは、雰囲気づくりだ。
その雰囲気づくりのために、アイスブレイクの時間を持つことが極めて重要であると。

今回は「アイスブレイクの実践例」を大きく2つに分けてご紹介いたします。
(1)講師と参加者との会話を通して行うアイスブレイク
(2)参加者同士によるアイスブレイク

(1)はセミナーの冒頭の時間などでよく行います。
講師から、数名の参加者に質問をする。
その会話を通して、場全体を和やかにしたり、参加者と講師とのブリッジをつくったりする。
ここで言うブリッジとは、心理的なつながりや信頼関係のようなものをさす言葉だとご理解ください。
(2)はグループワークを想定したアイスブレイクになります。
参加者同士で簡単な自己紹介を行い、グループ内の警戒心をほぐします。

(1)講師と参加者との会話を通して行うアイスブレイク

セミナーの冒頭、多くは、講師または主催者からのあいさつの言葉からはじまります。
「えー、皆さま、本日はお忙しい中、本日のこの〇〇セミナーにご参加をいただきまして、誠にありがとうございます」
そんなフレーズからはじまる、少々固い感じの内容です。
続いて、開催背景や開催目的、開催スケジュールについての説明がある。
その後、講師からの自己紹介があり、セミナーの本題へと入っていく。
固い雰囲気ではじまり、セミナーの本題に入ってからも固い雰囲気が継続される。
それもそれで1つの形かと思います。

私はそのような冒頭の時間に、できるだけアイスブレイクの時間を設けるようにしています。
具体的には、参加者数名に質問をしながら、双方向型の簡単な会話を行います。

講師 「今日はどちらからいらっしゃいましたか?」
参加者「〇〇からです」
講師 「なんとそんな遠くから!ありがとうございます。このセミナーのどんなところに関心を持っていただきましたか?」
参加者「実は私、〇〇という仕事をしているのですが、このセミナーの△△という内容に関心を持ちました」
講師 「なるほど、そうでしたか。関心を持たれた△△、私もとても大切だと思っています。精一杯、参考になるお話をさせていただきますね。ちなみにお名前も、教えていただくことは可能ですか?」
参加者「〇〇です」
講師 「〇〇さん、ありがとうございます。拍手をお送りしましょう」(その後、全員で拍手)

具体的には、このような会話を2~3名に対して行います。
内容は、「参加の動機」を中心としながら、「簡単な参加者情報」を確認する内容です。

この短い会話の中にも、私が培ってきた技術がたくさん詰め込まれています。
それを1つひとつ紐解いていきたいと思います。

①まずは「考えなくても話せる情報」の質問をする。

人に対して行う質問には、大きく2種類あると思っています。
1つは、考えなくても話せる内容の質問。
もう1つは、少し考えることが必要になる質問です。

私が最初に行った質問は、「今日はどちらからいらっしゃいましたか?」です。
自分はどこから会場にやってきたのか。
多くの方にとって、これは考えなくても答えられる質問だと思います。
一方2番目に行った、「このセミナーのどんなところに関心を持っていただきましたか?」は、答えるためには少し考える必要がでてくる。
人によっては、答えることが恥ずかしいと感じるかもしれません。

まずは考えなくても答えられる、簡単な内容で質問をする。
それに対して参加者から、しっかりと返事をもらう。
いわば、会話のキャッチボールを成り立たせるわけです。

いきなり難しい問いを出してしまうと、ボールを投げても、相手から返ってこないことがある。
会話の中に沈黙が発生してしまい、温めようとしている場が、かえって冷たくなってしまうことがある。
これを避けるために私は、最初に行う質問は「考えなくても話せる情報」になるよう心がけているのです。

②参加者との「ブリッジ」をつくる。

先ほども述べましたが、ブリッジとは「共通の接点や心理的なつながり」を意味する言葉として使用しています。
セミナーをはじめる時に、場の雰囲気を少しでもよいものにしたい。
その際に意識するのが、「講師と参加者との心理的な関係づくり」です。

人は、自分とまったく接点のない人間から語られる話よりも、何か接点を持つ者から語られる話の方が聞いてみたいと思うものです。
ふるさとが同じ。悩みが同じ。目指したい未来の姿が同じ。
そんな接点を持つ講師の姿と自分とを重ね合わせながら、話の内容をより理解したいと思う。
無意識にそのようなことを、多くの方が行っています。
そのため私は質問をしながら、「共有の接点探し」を行います。
そして接点を見つけたら、共通部分があることを、相手に告げるようにしているのです。

先ほどの会話の中では、「なるほど、そうでしたか。関心を持たれた△△、私もとても大切だと思っています」がこれにあたります。
「この講師は、自分が関心を持った内容に共感してくれた。賛同してくれた」
答えてくれた方はきっとそんな思いを抱きながら、興味深く私の話を聞いていただけることでしょう。

このような共通の接点や心理的なつながりづくりを、セミナーの冒頭で、数名に対して行います。
数名に対してではありますが、このような会話のキャッチボールを行っていくと、会場がほのかに温かくなり、和やかになります。

セミナーでは講師も緊張していますが、参加者も緊張しています。
他の参加者がどんな思いで参加しているのか。
どんな理由で参加しようと思ったのか。
それを知ることで、参加者の中に少しほっとした気持ちが生まれるからです。

ブリッジづくりのために行う、共通の接点探し。
質問の内容や返事によっては、接点が見つからないこともあります。
その場合は、「驚く」「賞賛する」「理解する」という態度で望むよう心がけています。

先ほどの会話の中でも、私から「なんとそんな遠くから!ありがとうございます」との声を参加者にかけていました。
遠方から会場に足を運ぶということは、時間もかかるしお金もかかります。
それを講師がちゃんと理解し、しかも感謝の言葉を述べてくれた。
ほんの少しかもしれませんが、参加者の中にうれしさの感情が芽生えるかもしれません。

参加してくれた相手に感謝と敬意をいだく。
その上で、できるだけ相手を理解するようにする。
驚いたことがあれば、その驚きを素直に表現する。
すごい!と思ったことがあれば、それを賞賛の言葉とともに相手に告げる。
仮に「共通の接点」がみつからなくても、そのようなコミュニケーションを行うことで、相手は講師に少しずつ心を許すようになり、関心をもつようになる。
冒頭で行うアイスブレイクの、大切な心がけだと思っています。

③自己開示をする

セミナーの冒頭時に、参加者との会話のキャッチボールを通して行うアイスブレイク。
その際、私はできるだけ「自己開示」を行うよう心がけています。

自己開示とは、自分の個人的な情報を相手に伝える行為のことです。
参加者に質問をし、返事をいただく。
その際、違和感のない範囲で、自分の情報も開示するようにしているのです。

例えば参加者から、
「実は私、人前で話すことが苦手で」
そんな話をいただいた時には、
「私も本当は、とっても苦手でした。すぐに緊張して、頭が真っ白になるんですよね。ずっと悩んでいました。それを克服した私なりのコツを、このセミナーの中で精一杯お伝えしますね」
などと答えるようにしています。

セミナー参加者の多くは、何か課題を抱えてセミナーに参加します。
苦手なことを克服したい。
できない自分を卒業したい。
そんな参加者に気持ちに寄り添いながら、等身大のありのままの自分を知ってもらうような自己開示を行うようにしているのです。

できる自分ではなく、できなかった自分を開示する。
雲の上の先生ではなく、同じ悩みを抱いてきた仲間のような存在なのだ。
そんな開示をすることによって、講師である自分が、参加者の中で「つかみどころのない無機質な存在」から、「人間味のある少し身近な存在」に変わることが多いのです。

自己開示をすることで、自分自身の緊張もほぐれます。
私は先ほど述べたように、人一倍緊張してしまう体質で、10代のころからずっと悩んできました。
どうしたら克服できるのか。
なぜ緊張してしまうのか。
自分なりに研究し、試行錯誤をくりかえしてきました。
そしてわかったことの1つに、「嘘をつくと緊張する」という気づきがありました。

背伸びをして、本来の自分ではない自分を演じようとする。
完璧とはほど遠いにも関わらず、完璧な自分を人前で示さなければとつい考えてしまう。
そんな時に、私は必ずといってよいほど強い緊張感に襲われました。

それを克服するコツは、ありのままの自然体の自分を維持することでした。
不完全な自分を受け入れる。
等身大のちっぽけな自分でもできることをする。
そしてありのままの自分を自己開示し、相手の自分に対するハードルを下げてもらうようにする。
はじめは、そのような心がけは、人前に立つ講師として正しくないのではないかとも考えました。
しかし、ありのままを受け入れ、ありのままの自分を表現する。
そのやり方を意識するようになってから、緊張の度合いや頻度は、明らかに減っていったのです。

自分は完璧ではない。
正しいことは伝えられないかもしれない。
しかし、自分ができる範囲の中で、精一杯のことはやっていこう。
自分が体験したり、苦労して身に着けたりしたものを、精一杯お話させていただこう。
そう考えるようになってから、自分の中の嘘が減っていったのです。

このような心理状態に至れるのも、人前で何度も自己開示を行い、ありのままの自分をさらけだしてきたからなのでしょう。
今ではそのように考えています。

④発言者に拍手を送る

セミナーの冒頭で行うアイスブレイク。
参加者と個別に会話をさせていただき、その会話の最後に、私は必ず拍手の時間を設けます。
「〇〇さん、ありがとうございます。拍手をお送りしましょう」
このように参加者全員に呼びかけを行い、発言者に拍手を送ります。

発言者への賞賛の思いはもちろんあります。
しかしそれ以上に、拍手には「場に活気をつくり、場を温める効果」があるのです。
拍手の音が、場に活気をつくります。
拍手をするという行為が、参加者1人ひとりの意識を能動的にします。
拍手を送られた方の表情には、笑顔がうまれます。
拍手を通して一体感もつくられます。

このような雰囲気づくりを行った後に、講師からの話をスタートする。
冷ややかで重苦しい空気に包まれた会場。
その中で話をするよりも、明らかにリラックスができますし、話す内容に集中ができるようになります。

今回ご紹介した「セミナーの冒頭で行うアイスブレイク」は、ゲスト講師を招いて行うトークイベントなどでもぜひ行ってみてください。
あなたがイベントの司会をつとめると想定しましょう。
ゲストからの話に入る前に、参加者数名と会話を行ってみるのです。

参加しようと思った動機。
ゲスト講師や講演内容についての関心度合い。
普段のお仕事。
そんな情報を数名に確認することで、ゲスト講師は参加者属性を理解することができ、話が各段にしやすくなります。

セミナー企画のコツ。
次のステップは「アイスブレイクの実践例②」として、
(2)参加者同士によるアイスブレイク
について触れてみたいと思います。ご興味ございましたら、ぜひご覧ください。

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