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以前住んでた家は「自分の家」の感覚が残る

毎日のランニングで以前友達とルームシェアしていた家の前を通る。
今の家から近いのと、歩道が広い大通り沿いに面しているため、ランニングコースには丁度良い場所にその家はある。

オートロックなど勿論無く、昔ながらの外階段がある2階建の木造アパートなので、毎日走っていると、人が住んでいるかどうかくらいはなんとなく分かる。

引っ越しても、そのアパートは今でも「自分の家」という感覚がある。
なので、次の住人が入ってこないかが、ずっと気になっていた。
出来れば誰にも住んでほしくないとすら思っていた。自分の家なので。

僕らが引っ越した後、程なくして会社の事務所として使われていた。
作業着を身に纏った人たちが出入りしている様子を何度か見かけたから間違いないだろう。
人が住むものだと思っていたので、多少拍子抜けした。
でも他の人の思い出で塗り替えられてしまう前に、事務的な目的で使われ、跡形もなく無機質な存在に変えられてしまって、もはや清々しい。
僕らの思い出や生活臭はもうそこには存在しない。

その会社も退去して、それ以降は誰も住んでいる形跡はない。
どうやら僕らが住んでいた家は人気がないらしい。
確かに冷静に見ると、ただのボロボロの木造アパートだ。
思い出バイアスにかかっている僕にとっては最高の家だが、僕以外から見たら、決してそんなことは無いようだ。

誰にも住んでほしくないと思っていたが、ここまで人気が無いと、それはそれで切ない。「誰か住んでやってくれよ!」とも思い始めている。
そんな無機質なまま放置されたアパートを眺めていると昔のことを色々と思い出す。

足音に敏感な1階の住人。
ただ歩いているだけで棒状の何かで天井を突いてくるのだ。
その神経質さにはかなりストレスを感じていた。
「ヤバいやつにはヤバいやつを」という諸先輩からのアドバイスの元、1階の住人が天井を突いてきたら、ルームメイトが床を思いっきり叩くと同時に発狂するヤバいやつを演じてくれた。
効果は抜群で、すぐに下の住人は引っ越していった。

洗濯機ホースからの漏水。
洗濯機ホースを取り付けた蛇口を閉め忘れており、ホースが外れ、一面水浸しに。そして二階だったので、1階まで浸水。また、あろうことか火災保険に入り忘れていたので、管理会社から多額の修繕費を請求された。
この時の1階の住人はとてもいい人たちで、その他請求はほぼされなかった。
1階の住人に悩まされ、救われたアパートでもあった。

若い時の苦楽が詰まった家だった。
築年数もかなり経っているから、取り壊されるのも遠い未来では無いかもしれない。
取り敢えず、その日まではランニングコースは変えないおこうと思う。

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