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地球のはなし あるエピソード

 ちょっと見たい本があって本棚を探していたら、『福翁自伝』と子供っぽい字で書いたカバーをかけた文庫本が出てきた。「福沢論吉著」と小さく書き添えているのは、ご愛嬌ながらきまりが悪い。裏表紙の内側には昭和31年6月20日と日付がある。35年も昔のことだ。価格は120円である。

※「福翁自伝」は青空文庫で無料でご覧いただけます。

 そんなにややこしい本ではないけれども、高校1年生には少々骨がありそうである。そんな本をどういう動機から読もうという気になったのか、今となっては分からない。ただ、福沢諭吉という人は稚気たっぷりの人だと思ったことと、長崎遊学のところに出てくる寺や町が私の通学路にあったものだから、「天は人の上に…」と警句をはいた偉い人というよりは、なんとなく身近な人だという感想を抱いたことをおぼえている。

※「天は人の上に…」は「学問のすすめ」に登場します。

 ずいぶん前のこと、慶応の学生が「諭吉って、小沢栄太郎に似てるよな」と言ったばかりにとがめを受けたというのを、何かで読んだことがある。小沢栄太郎とは、数々の映画などに出演した名優である。不敬である、ということだったのだろう。権威を嫌った諭吉には、まるでそぐわないできごとのように見える。個人崇拝が過ぎると、当人の目指したところと相いれないことが起こるものらしい。
 映画が出来て、福沢諭吉のことが話題になっている。懐かしの『福翁自伝』を見つけ出したついでに、こんなエピソードを思い出した。
                         (1991.9.5)

※「学問のすすめ」は、福澤諭吉が故郷の中津にできる学校のために学問の必要性を記し友人に送ったのが 発端とされています。

別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介しています。



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