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バニラ、さようなら

いつか書かなきゃと想いながら、心が散らかったまま時が流れてしまった。ほんとうは「死」とは忌み嫌うものじゃない。ほんとうは自分のすぐ後ろにあって、振り向いたらその淵に足を踏み入れるかもしれないくらい近くにあるもの。そう、怖いものではないはずなのに。

青い秋の空に白い雲が浮かんでる。ぷかぷかぷか、かわいい雲。そんな雲を見あげて、あぁキミは空で遊んでるのかと思う。遊びに行ったまま、帰ってこなくなったキミ。自由に空を走り回り、ころころと遊んでるんだね。夕方には、その白い毛並みをピンクに染めて、夜になったらキラキラ瞬く星の下でまるまって眠ってるんだろう。

私はどこへ行っても、そう、旅に出ても、キミのことを考えている。私の意識は一瞬で宇宙へゆく。そして、キミのことを思い出す。におい。湿った鼻。何回撫でただろう、きれいな毛並み。抱きしめた時の感触。キミが亡くなった日のことを、頭の中で何度繰り返しただろう。キミの息が細くなった夜、キミを看取るための準備を淡々とした。胸が張り裂けそうって、こういう痛みなのかと頭の隅で想いながら淡々と。キミを抱っこしたら、キミは声をもらしたね。私の帰りを待って、息をひきとったキミと並んでその日は眠った。キミの足はまだやわらく、命がもうここにないことが信じられなかった。

朝が来て、キミのタオルケットを敷き詰めた箱に、キミは小さくおさまった。もこもこの毛布をかけたら、眠ってるいつものキミだった。今思えば、玄関からキミをのせた箱を運び出す時がいちばんつらかったように思う。あぁ、もうキミは、この家には帰ってこないのだ。そう思うと、一緒に箱を持ってた娘も涙顔になっていた。

つづく

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