直感的と曖昧さのデザイン

これは「Webじゃないアクセシビリティ Advent Calendar 2018」20日目の記事です。尾内でべ(@onouchidebe)です。

直感的に操作できるリモコン

Webじゃないアクセシビリティと聞いて、最初に思いついたのが三菱電機さんが発表した「直感的に操作できるリモコン」でした。

視覚障がい者も健常者も、直感的に操作できるリモコンを盲学校と共同で試作 ─「触りたくなるインターフェース」コンセプトを提案

画像の説明:空調機器を例にしたリモコンの試作機。左から電源、運転モード、設定温度、風量、風向、タイマーの操作。それぞれ言葉や意味から想起される形状のインターフェイス。

これを見たとき最初に頭をよぎったのは、『誰のためのデザイン? — 認知科学者のデザイン原論』の「知覚されたアフォーダンス」でした。(アフォーダンスという言葉は、ノーマン自身が誤用を認めているので、軽々しく使いづらいのですが)

視覚障害者のウェブの操作とモノの操作のちがい

視覚障害者がウェブを操作する場合、かたちや距離で意味を知ることが難しく、操作をしてみて何が起こるか探る、という行為が必須になっています。スクリーンリーダーユーザであれば、何かを選択したあと、音声読み上げを聞いて、その意味が初めてわかる。行動→意味づけの順番です。要は答えを教えてくれるわけだから、利用者はそれを聞いて、ボタンを押すか押さないか決めるだけです。

片方でモノのデザインの場合、形状、質感、距離など、環境が事前に与えられ、経験や直感から意味を予測します。意味づけ→行動の順番です。でも、行動を起こした結果、期待したことが起こらなかったら?その場合は、もう一度意味のほうに戻ってやり直すことになります。意味づけと行動は実は一方通行ではなく、双方向で、利用者は経験的にそれを覚えます。手間がかかるような気がしますが、そうやって経験を重ねることで、より直感的に操作できるようになります。

環境から意味を想像することが容易なら、ボタンの位置と役割を記憶するよりも使い勝手が良くなる。しごく単純なことなのに、わりと衝撃的だったのは自分の頭が固くなっているのかもしれないなあと、ちょっと反省しながら記事を読んだ記憶があります。

曖昧な操作

もうひとつ面白いなと思ったのは、操作の結果が曖昧でOKなこと。例えば「温度設定」は縦方向に操作するようになっていて、最上部が31度、最低部が16度です。間は1度ずつジグザグに操作して、温度を決めるのですが、実際にこの「直感的に操作できるリモコン」の利用者がいたら、もっとアバウトに当たりをつけて操作しちゃうんじゃないでしょうか。「今日は寒いから、だいたい上から3分の1くらいのところかな」みたいな感じで。量感がわかれば、じつは数字の情報はあんまり意味を持たなくなって、それで十分じゃん、という割り切りも面白いなあと。

不安やストレスを感じない(そして楽しい)デザイン

これは視覚障害者を対象に、盲学校の生徒さんと共同で開発したそうです。結果的にできあがったものは、視覚障害者専用のデザインではなく、幅広いユーザを取り込むデザインになっています。文字から意味が取りづらいとか、相対的に情報を扱えない障害者、ちいさな子供にも、きっと使いやすい(そして使って楽しい)リモコンだと思います。

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あしたの「Webじゃないアクセシビリティ Advent Calendar 2018」は、井上千紗子さんです。

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