見出し画像

春の彼岸に詠む「水のおもに」 主君を偲ぶ小野篁公の名歌

 今月の特別特別御朱印である「春光」は、春に故人偲ぶ「お彼岸」がテーマです。

3月21日は「春分の日」
そして、この前後一週間は「春のお彼岸」の期間となります。

彼岸の中心となる「春分の日」は、昼と夜の長さが逆転する節目の日でもあることから、あの世と現世が交差しやすい時期であると考えられていました。

そのため、お彼岸が大切な人を偲ぶのに適した時期ともなると考えられているのです。

小野篁公の御名歌、「水のおもに~」はそんな春のお彼岸にぴったりな歌です…🌸

水のおもに しづく花の色 さやかにも 君がみかげの 思ほゆるかな
小野篁朝臣(古今和歌集845)

【訳】水面に浮かぶ花の色のように、まこと鮮やかに主君の御面影が偲ばれます。

御祭神の小野篁公が詠まれた主君を偲ぶ哀傷を詠んだ歌ですが、「水のおもに(水面に)」ならば「うつる」という表現が常のところ、「しづく(沈む)」という言葉で感情に厚みを持たせていたり、5・7・5という和歌の基本形から6・8・5という初二句の字余りでしみじみとした余韻と趣を醸成したりと篁公の詩才が光ります…✨

「わたの原~」の和歌が百人一首に撰されるなど、当社御祭神である小野篁公は和歌にも秀で、その作品からは類稀なる才を垣間見ることができます。

今回の特別御朱印に記された和歌は、『古今和歌集』に収録された歌です。篁公の歌は『古今和歌集』(8首)以下の勅撰和歌集に、14首が入集しています。

この和歌の前文には、諒闇りょうあんの年、池のほとりの花を見てよめる」とあります。

「諒闇の年」とは、天皇が父母の死にあたり喪に服する期間のこと。もしくは、天皇・太皇太后・皇太后の死にあたり喪に服する期間のことです。

この歌で篁公が偲んだ主君が誰なのかを記した記録は残っていませんが、年代を考察して篁公の父君の代から温情に預かった嵯峨上皇(842年崩御)か、配流から都に戻した時の天皇である仁明天皇(850年崩御)かといわれています。

こうして伝わっていない、歴史の行間に思いを寄せるのも歴史のロマンですよね…😊


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?