『ゴールデンスラッガーズゴールド』

「違うよ、金じゃなくて…… 携帯買ったんだ。番号交換しよう」

マツモトは最新式のスマートフォンを取り出した。全てがウソ過ぎる。こいつは常軌を逸した金欠を常とするアホ大学生で、300円の報酬を条件に逆立ちで一日過ごしたこともある男だ。常識も資力も足りない。携帯屋の店員がマツモトだった場合はありうるとしても、こんなやつが2人も居たら世の中は終わりだ。所持している理由は2つに1つ。8:2の確率。

「携帯は足が付くんだぞ。どうせなら金を抜きゃよかったのに」

「人聞きが悪いよ。拾ったんだよ」

「2のほうか。まあ面倒くせえからそのへんに捨てとけよ。そもそもロック解除できないだろ?」

テレビからスポーツニュースの音声が聞こえてくる。明日は早朝バイトからの1限なのに、もう23時になってしまった。

『東京の4番志藤、今季早くも33本目のホームラン! 驚異的なペースです! ホームインして、恩師平山監督と熱いハイタッチ!』

「あ、開いた」

「は? 」

「写ってた背番号入れてみたんだ。志藤の25と、監督の71。2571」

「マジ? なんか面白いもん入ってる?」

「うわ! すごい、ハメ撮りの写真とか動画いっぱい入ってるよ!」

「東京ファンの癖にそんな楽しそうなことを!? 許せねえ、俺にも見せろ」

最初は持ち主が撮ったであろうポルノグラフィーを盗み見て興奮した俺たちだが、メッセージアプリの履歴を読むうちに背筋が冷えてきた。爛れ過ぎている性遍歴もそうだが、

「なあ、出てくる単語の意味がわからないんだけどお前わかる?」

「たぶんこれ薬の隠語だな…… こいつヤバい。ユーザー名わかるか?」

「えーっと、Takahiro Shido…」

嘘だろ?と思うのと、インターホンが鳴るのは同時だった。冷えた背筋が完全に凍る。俺も結局はこいつと同程度のアホだ。「足が付く」と自分で言ったのに。

ぴんぽん。急かすように、2度めの安っぽいチャイムが鳴った。

【続く】

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