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小野瀬雅生の2021年ベストアルバム10選+α

2021年はすっかり焼きそばの人になってしまったので、音楽の人であることをちゃんとアピールしておかねばなるまい。2020年に続いて2021年の僕のベストアルバムを10選んでみた。どうしても年末年始に色々調べるので「こんなのも出ていたのか」と驚いたりもするし、一年の最初の方に聴いたものは印象が薄くなりがちだし、春から夏のレコーディング中は自分たち以外の音楽を聴かなくなるし、若い頃のように没頭して聴き込んだりもしなくなった。それでも自分の中に深くアクセスしてくるものを自分なりに選べたと思う。ジャンルはバラバラだし特殊な内容も多いけれど、これが現時点での僕のスキスキスー。全く何の参考にもならないと思いますがカモンレッツゴー。

Samara Joy "Samara Joy"

アルバム10選の順位は付けないが、1位だけはこれに決定。まだ20代前半のジャズシンガー、サマラ・ジョイ Samara Joyのデビューアルバム『Samara Joy』。バックを務めるのは、パット・メセニーがベタ褒めしたこれもまだ30代の新進気鋭ギタリスト、パスクァーレ・グラッソ Pasquale Grassoを中心としたトリオ。このシンプルさでこのカラフルさ。何と云ってもサマラ・ジョイ嬢の声の素晴らしさ。ヴェルヴェットヴォイスとでも申しましょうか。軽妙かつ濃厚。上質の出汁のように身体に沁み渡るような滋味。そしてパスクァーレ・グラッソの神域の超絶ギター炸裂。ギターを聞いてこんなに興奮したのは何年ぶりであろうか。最初に聴いた時はあまりの凄さに爆笑してしまったくらい。ウマウマ王。天才中の天才。バカボンもパパもビックリのハジメちゃん級。歌もギターもあまりにも凄すぎるので却ってポップ。天才の正しい使い方。ジャズに疎く、ジャズに浅い僕が今年最もハマって聴き込んだこのアルバム。ダントツでトップ。来日してください。生で聴きたいです。

ABBA "Voyage"

続いては40年ぶりの復活を遂げたアバ ABBAのアルバム『Voyage』。何よ、ひさしぶりじゃんよ。40年ぶりですよ。デビュー曲「S0S」が出たのが1975年。僕は中学校1年生。アメリカのヒットチャートをスイスイと駆け上っていたアバの「SOS」をラジオからエアチェックして何度も聴き返していました。モジュレーション(フランジャーかな)とリヴァーブがキツくかかったピアノのイントロからのヴォーカルイン、シンセサイザーの分散和音的フレーズからサビに突入、アコースティックギターのストロークも心地好く、2番、間奏、サビ繰り返し、そしてまた特徴的なピアノ音色で哀愁のエンディング。それがアバ。それこそがアバ。デビューにして完成形。その後の明るい曲調のヒット曲にもこのアバ的工夫と哀愁(音像やら音色やらコード進行やら)が必ずブレンドされていると云うのが僕のアバ感であります。そしておっかなびっくり聴いた40年ぶりの新作、これが見事にバッチリとアバでした。アバ以外の何ものでもないアバ。歌声もサウンドもちょっとしたコード進行もきっちりとアバ。1曲目「I Still Have Face In You」のサビで爆発するアバ感。2曲目「When You Danced With Me」はイントロからしてアバ万歳。色褪せないどころか音楽がスゴイ瑞々しい。5曲目「Just a Notion」なんてアバ以外には絶対に出せない味わい。そして何と7曲目「Keep An Eye On Dan」のエンディングのピアノフレーズは「SOS」のイントロに出て来るフレーズ(多分12弦エレクトリックギターとシンセ音色を重ねている)ではありませんか。やるなアバ。40年一日。奇跡。

Deep Purple "Turning To Crime"

そして何とあのディープ・パープル Deep Purpleがカヴァーアルバム出しちゃったんですよ。タイトルは『Turning To Crime』。オリジナルメンバーはもうイアン・ペイスしかいないけれど、イアン・ギランもロジャー・グローヴァーもおられます。それでどんなカヴァーをやっているのかと云えば、ラヴとかフリートウッド・マック(昔のね)とかミッチ・ライダーとかボブ・ディランとかはまあ良いとして、僕が衝撃的だったのはリトル・フィート「Dixie Chicken」。えー。パープルがリトル・フィートやるのー。その違和感たるや。あまり判ってもらえないかも知れませんが違和感あるわー。最後のメドレー曲もグリーン・オニオンもオールマンもツェッペリンもスペンサー・ディヴィス・グループもなかなかに節操なく繋げてます。うおー。パープルのホワイト・ルームもねー。ぬおー。ワウの踏み方がエグいなー。スティーヴ・モーズのギターは大好きなんだけどあまりにもスティーヴ・モーズ然としていてそれが何ともあっけらかんとしていて自家用飛行機で自分ちの牧場の上空でアクロバット操縦自分でしちゃうような人だからなーあまりにもスゴすぎて聴いていて安心しちゃうんだよなー吉野家の牛丼とかケンタッキーとかビッグマックとかその方面。でもイアン・ペイスのドラム健在、チョースバラシイのでこれでいいのだ。これまた奇跡。

Employed To Serve "Conquering"

2021年のメタル方面はあまり心に響かなかったなー。僕の心に響いた数少ないそっち方面の一つが、エンプロイド・トゥー・サーヴ Employed To Serve(バンド名ね)の『Conquering』。演奏は僕好みのハードエッジサウンドで高度なテクニックを持つプレイヤー揃い。ドラム超高速、ギターバリバリ。整合性のある様式美より不協和音異次元空間方面。パンテラ辺りの重量感疾走感も感じさせつつ、ここ最近の暗黒深淵要素もふんだんに交えての文句ナシ捨て曲ナシ容赦ナシ。最大の特徴としては女性ヴォーカリストがデス声で歌っておるのですが(男性ギタリストも歌う)超ハードコアでお色気感皆無。この何と云うか女性ならではの暴走感と云うかヤケクソ感と云うかぶっちぎり感と云うか情感とかニュアンスとか絶無で最初は何だこりゃ的印象だったのが聴いているうちに段々と愛おしく感じられて来る不思議な体験を致しました。サイコーデス。

First Fragment "Gloire Éternelle"

これもスゴイのを見つけた。カナダのバンド、ファースト・フラグメント First Fragmentの『Glorie Éternelle』なるアルバム。このバンドを物凄く雑に説明するならば、イングヴェイとヴァイとレス・クレイスプールがレツゴー三匹の漫才を5倍速でやっている感じ。ダチョウ倶楽部でもよろしい。このイングヴェイとヴァイがいきなりガットギターを弾くとこれまた5倍速のジプシーキングスになる仕組み。ベースがフレットレスで超速でスラップまでやってルート音の方に殆ど行かないのでハードなサウンドなのに低音域が全く押してこないと云う摩訶不思議な音像。エモーショナルなのに超絶テクなのにスゴ過ぎて笑う系。ホントにスゴイの。それとはまた別に、アルバムの冒頭に海の波の音とシンセ(だと思う)の和音の出たり入ったりパートがあるのだけど、それが何だかロキシー・ミュージックの『Avaron』のアルバムのエンディングを想起させて、そのまま「More Than This」がかかるのではないかと全然レツゴー三匹でも玉川カルテットでもないことを考えました。ちなみに歌はフランス語でデス声です。

Noise From Under "Aliquem Alium Internum"

インドネシアのラッパー、ノイズ・フロム・アンダー Noise From Underのアルバム『Aliquem Alium Internum』に出会った。詳しくはまた調べてみたいが(あまり情報がないのだけれど)、真摯で陰鬱で魂をどこか遠くへ連れ去ってゆくようなサウンドメイクがどうしてもどうしても気になった。インドネシアか。行ったこともないしあまり気にしたこともないけれど、急に気になった。いつか行くのか。水木しげる先生のようにある程度年齢を重ねてから世界のあちこちに行くのも悪くないと思う。

Senyawa "Alkisah"

またもやインドネシア。センヤワ Senyawaと云う2人組によるアルバム『Alkisah』に出会った。これまた詳しいことは何も知らないけれど、そして何を訴えているのかも判らないけれど、語らなければならない言葉を語り、奏でなければならない音を奏でている。何よりも魂に直接響く真摯さ、そしてやかましさ、無秩序さ。原初の出鱈目。そこに惚れた。これがあれば他に何もいらないとまでは云わないけれど、水と塩と、祈りと叫びと、夜と夜の奥深くと、何かそう云うもの。

Subsonic Eye "Nature of Things"

シンガポールのバンド、サブソニック・アイ Subsonic Eyeのニューアルバム『Nature of Things』にも出会えた。何だこれ。揺れてる。ぐにゃぐにゃしている。チューニングも合ってるのか合ってないのか。誰と誰がどんな関係だとこんなに爽快で気持ち悪くなるのだろう。何だか何もないようで全部揃っている感じもする。聴いたことのないギターの音がする。聴いたことあるかな。わかんないな。この手のバンドサウンドには、例えばネオアコとかそう云うのだと思うけど(それすらよく知らない)あまりと云うか全然興味がないのだけど、ここでこの不思議な新種を見つけて俄然気になってきた。こう云うのは自分ではやろうとは思わないけど、このジャケット写真そのままのイメージの変な感覚はずっと覚えていようと思う。アジアには聴いたことのない音がいっぱいある。もっと聴こうと思う。

Coldplay "Music of The Spheres"

急に方向転換。コールドプレイ Coldplayの『Music of The Spheres』を聴く。BTSとコラボした「My Universe」が珠玉の出来映えではあるけれど、アルバム全体も僕が聴きたかったサウンドに溢れている。サウンドと云うか音像と云うか。地方都市にあるでかいショッピングモールの感じ。広大な食料品売り場。そこから宇宙に直接繋がる感じ。コールドプレイが直接意識に注入されて宇宙の旅に出る。それはそれで良いのではないか。個人的には勝手にアラン・ホールズワースの「Sphere of Innocence」からラッシュの「Hemispheres」にまで繋げております。Sphere繋がり。そうすると「My Universe」の音像の中にゲディー・リーのベースのぐりぐりのアタックが聞こえるようになってきます。幻聴ですけどね。けっけっけ。

Robin Trower・Maxi Priest・Livingstone Brown "United State of Mind"

一つだけズルさせてください。2020年10月リリースのアルバムです。ロビン・トロワー Robin Trower マキシ・プリースト Maxi Priest リビングストン・ブラウン Livingstone Brownの連名アルバム『United State of Mind』。これのリリースを知ったのは2021年に入ってずっと経ってから。これをピックアップせずに何が小野瀬雅生か。だから許して。紹介させて。この面子ですからイイ曲満載で素晴らしい出来映えなのは当たり前。その中でとにかく光るのが1945年生まれ御年76歳のロビン・トロワーのギタープレイ。心からの愛を込めて申し上げますが、とても変。どうしようもなく変。1970年代から変わらぬへんちくりんなギター。何でそこでそのノートに行く。何でそんな変なアームプレイをする。この変さ加減を聴いて身悶えして喜んでいる〇〇とか〇〇〇〇が日本に何人いるだろう。生涯現役独自路線。見習いたいと思います。

Se So Neon "Jayu" & "joke!"

番外編。韓国のセソニョン Se So Neonが2021年にリリースしたシングル2曲「Jayu」と「joke!」がやっぱり素晴らしかった。「Jayu」(自由の意)の方はシンプルでライトな曲調ながらヴォーカルフィルタリングエフェクトを大胆に使って僕をドッキリさせる。歌詞の世界観も宇宙から食欲まで自由で広い。ブラボー。そして「joke!」は一転してファンクでブルーズ。イントロからしてベースもシンセもエグい音色。ギターがイイところにポジション取りしてるな相変わらず。ギターソロがイエスの「Owner of Lonely Heart」以来のハーモナイザー全開でクレイジー。ブラボーブラボー。そこで久しぶりに2017年リリースの「The Wave」も聴き直してみたらやっぱりファン・ソユン最高。歌もギターも尊敬に値する。サイコーでサイキョーです。

Reggae Disco Rockers "The Whistle Song"

もう一つ番外編。クレイジーケンバンド『好きなんだよ』のレコーディングエンジニアを担当してくださった高宮永徹さん率いるレゲエ・ディスコ・ロッカーズ Reggae Disco Rockersが2021年にリリースしたシングル「The Whistle Song」をご紹介。1991年にフランキー・ナックルズが発表した同曲のカヴァー。細かい説明はともかくあまりにも心地好いサウンド。僕が2021年に一番ふわっと溶けたトラック。何だかとても助けられた。溶けられた。ありがとうございました。この後にリリースされた「Harvest Moon feat. MARTER」もステキですので是非。

植木等 "シビレ節"

以前から折に触れて申し上げていることですが、「シビレ節」のサビのシービレチャッタシービレチャッタの直前4拍目裏に「ハ」が入ってハ・シービレチャッタになるところのその「ハ」にこそ神髄があると云うのが最重要ポイントであります。あとイントロのラップスティールギターがシビレ感をプッシュしているのです。そこも大事です。植木等さんサマラ・ジョイ嬢には共通点がありまして、両人とも笑いながら歌うのですジミ・ヘンドリックス井上陽水さんCKBの剣さん笑いながら歌います。これも重要事項です。唐突にすみません。2022年も音楽にビリビリとシビレて参りたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

末永くがんばりますのでご支援よろしくお願い致します♫