マガジンのカバー画像

それでもやはり、意識せざるをえない(小野美由紀のマガジン)

作家小野美由紀によるエッセイマガジンです。タイトル通り "それでもやはり、意識せざるをえない” 物事について、月に5-10本程度配信します。日々のエッセイ、恋愛、性愛、家族、また… もっと読む
¥580 / 月
運営しているクリエイター

2018年2月の記事一覧

批判は人を育てない

批判は人を育てない

2月某日 恋愛エッセイ本の企画が一つ飛ぶ。
担当編集者さんが「全て私の不徳の致すところです」と平謝りに謝るので、なんとなく、あれかな、とピンときて、
「もしかして、数年前の御社の◯◯さんとのトラブルが原因ですか?この件について全く怒ってはいませんが、理由を聞かないと◯◯さんのことが信頼できなくなりそうなので、できれば訳を説明してください」と言うと、
「御察しの通りです」と返ってきた。
案の定、その

もっとみる
東京を描く

東京を描く

東京の街が好きだ。地方から上京して、長く東京に暮らす人に、最初に東京に出てきた時にどう思いましたか、と聞くのが好きだ。他人がこの街に注ぐ眼差しが好きだ。他の人が語る、決して私には見られない、この街の素顔が好きだ。

2月某日
作家の五百田先生が幹事をしてくださり、「メゾン刻の湯」の出版記念お祝いの会に。五百田さんのお知り合いの編集者さんや、作詞家の高橋久美子さんや作家の米光一成さんが来てくださった

もっとみる
力の抜き加減、の話

力の抜き加減、の話

2月某日

物書きの小池みきさん、佐々木ののかさん、占い師のシュガーさん、編集者の小林くんを呼んで、うちでパーティーをする。張り切って料理するぞ!とわざわざ自由が丘まで肉を買いに行ったが、大人数分の調理は久々だったため、勘が戻らず配分を間違えて自分としてはイマイチな味。あーもっと美味しいもの作りたかったな、こういう風に、気合を入れすぎて上手くいかないこと、って人生の中に結構あって、いつも通っている

もっとみる
その記事は”共感”系か、”世界観”系か?

その記事は”共感”系か、”世界観”系か?

佐々木俊尚さんと久しぶりにお話させていただく。面白かったのが、「ウェブで最後まで読まれる記事とはどういうものか」ということと、「あらゆる文章は”世界観”系と”共感”系に分かれるよね」という話題。

以下、思い出せる限り、書き起し。

「今まではさ、ウェブでは2000字から3000字くらいの短い記事の方が読まれるって言われてたけど、最近アメリカでは、1万字くらいの記事でも読まれるよね、って言われてい

もっとみる
その炊飯器で炊く?米。

その炊飯器で炊く?米。

10月某日
 原稿の直しが終わる。

 私の担当の編集Yは恐ろしく動物的な勘の働く30歳の女で、
「みゆきちゃんは!紙(ゲラ)になって手を動かして初めてチャクラ開くタイプの作家なんだから!」とか言い(チャクラ……?)と思いながら半信半疑で進めていたのだが、最後の最後、最終コーナー曲がり切る直前、ここで抜き出なかったらやばいかも、というところで危うくチャクラが開き、なんとか物語として、着地させること

もっとみる
自分を信頼すること

自分を信頼すること

小説を書き終わって、ゴムみたいに感性が伸びきっている今、朝、歯を磨いている時なんかに、ふと繰り返し思い出す光景がある。

2年前の冬、祖母を看取るためにホスピスに通いつめていた時のことだ。

廊下は日が差してもグレーで、ざらざらした弱々しい空気ができたばかりの病棟の隅々にまで満ちていて、建物の中にいる人々は皆、静かで、消毒液と死ぬ前の人特有の体臭が混じった匂いが、じっとしていると体の中に鉛のように

もっとみる
絵面の汚さが最高の面白さを保証する 爪切男さん「死にたい夜にかぎって」

絵面の汚さが最高の面白さを保証する 爪切男さん「死にたい夜にかぎって」

爪切男さんのエッセイ「死にたい夜にかぎって」を読む。

汚い。

何が汚いのかといえば、サイッコーに、絵面が汚い。

全ページどこを開いても、文章から浮かんでくる場面の絵面が最高に汚いのである。

この作品は「笑顔が虫の裏に似ている」爪切男さんの青春時代の童貞喪失から、6年間暮らした最愛の彼女との別れまでを描いた自伝エッセイである。

「映え」要素は一切なし。フィルタ加工もボカシもなし。強いて言え

もっとみる