ゴールはどこなんだい

神楽坂にある野菜が美味しい居酒屋にいた。
山田(仮名)が新卒から1000万貰えるという噂の会社に、中途で採用された。すごいねぇ、なんて話をしていたら、「実は学力SPIテスト、0点に近かったんだよね~」と朗らかに言った。

グレープフルーツサワーの氷がカランと音を立てて回った。

いろいろな人の話を総合すると、山田を採用するかどうかは、紛糾を極めた。今の会社でヒット商品を作っている。だいぶ特殊な業務内容で経験もある。ただ、コミニケーション能力と学力に不安がある。

会議は紛糾した。山田さんは面白そうだ。ダメ社員になる可能性もある。うちの社風に合うのだろうか。

その時、副社長が高らかに言った。

「俺が責任持つ」

そして、入社後、山田はスマッシュヒット商品を2つ作った。
だれも思いつかなかったような切り口で、だれもまねできないものを作った。「そんなところに市場があったのか」と驚くような商品だった。

企画会議では「誰が買うの」「俺は買わないよ」と口々に言われ、何度も却下された。

何度目かの会議で、「若い子がこんなに何度も同じ企画を形を変えて出してくる。売れるかどうかは分かりませんが、私は出させてあげたい」とみんなを説得してくれた人がいた。副社長はもっと偉くなり、山田の席まで「お前、次の企画は」とハッパかけがてらよく遊びに来る。

いま山田の企画はなんでも通る。「おれよく分かんないや」「山田さんの企画だから」。実力で、評価と新しい会社での居場所を勝ち取った。

この会社は狭き門だ。新卒は1万人に10人程度の採用になる。新入社員を見ると、コミュニケーション能力が高く、そつがなくて、ちょっとクセのある人が採用されている。学歴を書く欄はないが、なぜか早稲田と慶應がほとんどを占める。中途だとしても、同業他社で結果を出した感じのいい人たちが採用されている。

山田は大学は早慶レベルではない。人見知りで、時間にルーズ。しかしとんでもなく魅力的で独創的。山田が、この会社の生涯給与5億円近くのコストを回収できる人間か。「何も結果を出していない大学生・山田」を新卒で内定出すとしたら、蛮勇に等しいだろう。
「前社で結果を出し経験を積んだ山田」を採用することは蛮勇ではない。

こういった転職話は、実にたくさんある。

就活で「ご縁がなかった」連絡が来る度に、落ち込んで自分がつまらない人間に思える。でも。そこで立ち止まって考えて欲しい。

就活のゴールはどこなんだい。

会社に「入社すること」? 会社で「活躍すること」? 社会で認められること? 豪勢な生活をできる給料をもらうこと? みんなが憧れる会社で働くこと?

もし、希望の会社に入れなかったとしても、結果を出し、チャンスを逃さなければ、必ず評価してくれる人がいる。

その会社が物足りなければ、会社を作ってもいい。フリーになってもいい。仕事は仕事と割り切って趣味に生きるのもいい。専業主婦や専業主夫の道もいいだろう。就活の向こう側に、あらゆる選択肢がある。

腐らないで。肩肘を張らないで。自分を大きく見せないで。
そうしたら、ぴったりの会社が自分を選んでくれる。はず。

山田の笑顔を見ながら、少し氷の溶けたグレープフルーツサワーを一口飲んだ。さっきよりそれは、ほろ苦い甘さを感じて旨かった。


#同時日記
#就活


就活で落ち込んだときにオススメな3冊。

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