ライヴ覚え書き (2024/8)

2024/8/27
toddle、勃殺戒洞 @ 渋谷ラママ

 toddleは田渕ひさ子のリーダー・バンドで、以前一度見たことがある……はずだがあまり記憶はなく、新鮮な気持ちで見た。ちょっと暗めの叙情性を帯びたグランジ〜オルタナぽいギター・バンドで、どこにも余分な力の入ってないバンド・サウンドは、何時間でも聴いていられそうな心地よさ。田渕と、もうひとりいるギターヴォーカルの女性の歌の自然体のキュートさもポイント。久々に田渕さんが演奏している姿を見たが、あの少年のような細身のシルエットと化粧気のないたたずまいは、00年代以降の少年マンガの少女キャラに大きな影響を及ぼしてるんじゃないか。なんか文系ロック少年の理想の女性像というかね。

 勃殺戒洞は中村達也と中尾憲太郎のバンドで、だいぶ前に結成して間もないころのライヴを見た時は中尾がモジュラーシンセを弾いていた記憶がある。久々に見たら達也のドラムと中尾のベースがガチンコで即興対決する態勢になっていて、全編ほとんど極度にスピードアップしたスラッシュ・ビートでお互いの全エネルギーを出し惜しみなしに全放射してぶつけ合うような壮絶な演奏。基本的に達也が気分のまま叩きたいように叩き、中尾がそれに合わせていく形のようだが、とにかく無尽蔵と思えるような達也のパワーとエネルギーをがっちり中尾が受け止めて投げ返していく、その力業としか言えないインタープレイが圧倒的に凄かった。なんとなく前から2番目ぐらいの場所、達也の叩いているすぐそばで見ることになったのだが、ナマの肉体が躍動する迫真のリアリティは音源や映像では絶対伝わらないところで、そういえばブランキーの初期、その逞しいフィジカルの力のぶつかり合いに「すごい……」としか言ったきり絶句するしかなかったことを思いだした。中尾はベースの弦3本切って、最後は1本で弾いてましたが、あんなの初めて見ましたよ。弦1本でもなんとかなるんだなーと思った。やはり私にとって日本一のドラマーは中村達也と再認識……と書くといろいろ差し障りがあるので「日本一のパンク・ドラマーは中村達也」としておきます。

 リハも打ち合わせもない完全即興なので、もちろん決まった曲もない。曲を作る気はあるようだが、構成やフレーズが決まってそれを繰り返しなぞるようになると、途端に退屈しそこからはみ出したくなる。そうした達也の性向があるから、おそらくこの先まとまった音源が出ることもないだろうし、あるとしてもライヴとは違うものになるだろう。だからライヴの現場でその肉体のぶつかり合いを確認するしかない。達也のエネルギーが尽きるのが先か、中尾がそれを受け止めきれなくなるのが先か。いずれにしろ興味のある人は、できるだけ早く現場で確認することをお勧めします。

2024/8/25
mother 、グンジヨーガクレヨン @ 大塚地底

motherは痛郎の井手痛郎(vo,b),computer fightの千川新(g)、SPOILEMANのチャック(ds)の新バンドでこれが初ライブ。井手のFacebookでこの日のライブ情報を知ってチケットを申し込んだら、あとでグンジョーガクレヨンの出演が決まってびっくり。

地底は大塚の駅から5分ぐらいのビルの地下のバーで、おおよそ20畳ぐらいのコンクリート打ちっぱなしの空間で、ドラムセットを置くと客は20人も入れば満員になる感じ。まさに地下のアンダーグラウンド空間。ライブ用のPAとDJ用のスピーカーを分けていて、DJ用はB&Wの802をマークレビンソンのアンプでドライブしてるみたい。この手の店としては珍しい、ホーム用のハイエンドシステムで鳴らしている。今度ちゃんと音を聞きに行きたい。

グンジョーガクレヨンはとにかく久しぶりに見るけど、トリオ編成から繰り出されるノイズは強力の一言。一音一音が針になって全身を突き刺してくる尖りっぷりは凄いとしか言いようがない。見た目はそこらのおじさんそのものなのに、この凶悪なノイズはヤバすぎる。15分ぐらいで終わっちゃったけど、その潔さもまたシビれた。

motherはこないだの千川新のソロライブみたいな即興主体のノイズっぽい演奏かと思ったら、すごく真っ当でソリッドでリフ主体のカッコいいロックだった。井手がヤマジカズヒデとやっていたMOZUに近いけど、もっとスピード感があってシャープでキレがいい。ドラムの違いもあるし、ヤマジと千川のギタリストとしての持ち味の違いでもあるだろう。曲は井手のオリジナルとcomputer fightの曲、それからマイブラのカヴァー(これはMOZUでもやってた)。チャックはcomputer fightのサポートもやってるからcomputer fightとの共通点も当然あるが、井手のヴォーカルが入ると一種の暗い抒情性みたいなのが付与されて独特の翳りを帯びてくる。computer fightのヴォーカルとは全然違うので、そこは好き嫌いがあると思うが、私はかなり良いと思った。2回目のライブも既に決まっていて、かなり積極的にライブをやっていくみたい。MOZUの方がヤマジが忙しすぎてなかなか思うように稼働しないので、井手の活動は今後はこっちが主になっていくようだ。音源を販売するという予告もあったが。完成しなかった模様。今後いろいろ楽しみであります。

2024/8/23

The Good Kids @ 下北Que

 メジャー・デビューを果たしてのアルバムレコ発ライヴ。確か結成4回目ぐらいのライヴだけど、完成度はどんどん高まっていて、もう何も考えず身を委ねられる感じ。エンタメとシリアスなメッセージのバランスもとれているし、客の捌き方もこなれているし、客も乗り方を心得てる感じ。アルバムでは原広明ひとりの打ち込みで、ライブになるとフルメンバーが揃っての演奏になるが、その広がりやグルーヴやダイナミズムが実に気持ちいい。次のライブ予定は知らないけど、もっと広い会場で聞きたい音ですね。サポートの女性だけのサンバ・パーカッション・バンド、Banda Girassolも楽しかった。あれでフル・メンバーではないらしいので、フルで揃ったら本格的にThe Good Kidsとコラボしたらいいと思う。

2024/8/17~18
サマーソニック

8/17
 駅からマリスタまで15分強。そこでリストバンド交換してメッセまで9分弱。まだ何も見てないけど、もう疲労困憊なり。あまりに日差しがきつすぎる。台風が1日遅れて来てたら大変なことになってたけど、晴れたら晴れたで超きつい。

 客層はフジロックに比べると圧倒的に女性が多く、もちろん全体に年齢層は低い。フジロックはガチガチのアウトドアファッションが多いけど、サマソニは軽装の人が多く女性のファッションも華やか。

 サマソニの場合、テクノやエレクトロニカ、尖ったオルタナ系は全部ソニックマニアに集約させ、サマソニ本体はKボを含むポップス全般が主で、ロックは王道のもののみ。私の知り合いや友人は断念した人も多い。私はフジロック行かないんだからせめてサマソニぐらいは、という意味合いも大きいけど、ふだんあまり聞かないようなジャンルのアーティストを楽しみにしている。

(見たもの)
ローレン・スペンサー・スミス(めちゃくちゃ歌がうまい。なんだか普段着みたいなざっくりした服装、終始サングラスをかけて、見た目ではなく歌そのもので勝負したいという気持ちが伝わってきた)
→RIIZE(ちょっとだけ)
→NOA(悪くはないが、もう少し強烈にアピールするものがほしい)
→m-flo(ちゃんと見たのは初めて。楽しめた)
→NCT DREAM(灼熱のマリスタで、演出らしい演出もなく歌と踊りだけで40分間盛り上げた。今回のサマソニではいくつかボーイズ・グループを見たが、格が違う感じだった。5年前にNCT127をさいたまスーパーアリーナで見たが、すごく成長していた)
→マジソン・ビア(途中まで。アイドルっぽい感じで、映像もコスチュームも可愛い感じ)
→レーヴェイ(途中から。ちょっと優等生っぽい感じはあったが、歌も演奏も良い)
→ブリーチャーズ(ジャック・アントノフのバンド。ブルース・スプリングスティーンみたいな熱血アメリカン・ロック)
→アクミュー(最後の1曲だけ。韓国の兄妹ポップ・デュオで楽しみにしていたが、最後のあいみょんのカバーしか見られず残念)
→ベル&セバスチャン(今回のサマソニのラインナップでこの人たちだけ浮きまくっていたが、どうも「虎に翼」関連のコンサートがあって、その出演の方が本線だった模様。ライヴはいつも通りサービス精神たっぷり)
→リル・ヨッティ(観客の反応が物足りなかったらしく、観客に呼びかけてモッシュピットのスペースを空けさせてモッシュを促していたのが面白かった。かっこいいライヴ)

 最初会場に着いた段階で疲労困憊で、これはとても最後まで持たないと思ったら、案外なんとかなりましたね。詳しい感想はまた改めて。ベストアクトは難しいですがNCT DREAMとリル・ヨッティにしときます。

8/18
 この日の幕張方面は曇りで、直射日光がないぶんだいぶ体感温度も低く、昨日みたいに駅から会場に着くまでに既に体力消耗、なんてことはなかった。チェックアウト時間の関係で10時にはホテルを追い出され、ゆっくり歩いて10時30分前にはメッセ前に。行列を見てげんなりしたが、これは今日のみの人のチケット引き換え行列で、再入場組は横の細い道を通ってスムーズだった。そんなわけで早めに着いてしまい手持ち無沙汰。タイムテーブルを見れば、午後の遅い時間の出動でも良かったから、ホテル泊まらず自宅からクルマでも良かった。

 フジロックだとおっさんおばさんはデフォルトな感じだが、サマソニだとたまに出会う感じ。ほんと若い人が圧倒的。従来のサマソニは必ず懐メロ枠というかベテラン枠があったけど、今回それらしいのはベルセバぐらい?メインアクトも比較的新しい人たちだし、本当に若い人向けに舵を切った感じ。いわば年寄りを振るい落としたわけで、だから私の古い友達や知り合いは断念した人も多い。でもチケット売り切れなんだからそれで正解ですよね。出演するアーティストが全体に小ぶりになってるけど、まあ経済状況も絡むから仕方ない。

 今回のサマソニのテーマは、なるべくあまり知らない、またライブ見たことのない人を見ること。フェスでは既知のアーティストを再確認するよりそっちの方が重要だと思っている。昨日も過去に見たことあるのはベルセバだけだった。NCTも見たことあるけど、その時とはだいぶ編成が違う。

 それにしても旅行カバン引きずった若い人がこんなにいるとはびっくり。フェスなのに、身軽に動けることを重視しないのかなあ。

(見たもの)
mikah(まだ日本ではファンダムが十分できあがっていない印象で、いまひとつ盛り上がりに欠けた感じ)
→水カン(最後の4曲のみ。新ヴォーカルになってから初めて見たが、すっかりファンダムもできて盛り上がっていた。個人的にはもう少しひねりというか陰影がほしい)
→ZEROBASEONE(可愛い感じのKポップ・ボーイズ・グループ。王子様っぽいキャラも定着してる感じ)
→BOYNEXTDOOR(ZEROBASEONEに比べてより身近でやんちゃな感じ。キャラ違いだがどっちも楽しめた。人気も互角)
→ヘンリー・ムーディー(英国の20歳のシンガー・ソングライター。まだ子供と思わせるところもあるが、立派なアーティスト)
→イヴ・トゥモア(初来日した時の、ひとりで機材を操作して真っ暗なクラブで踊りながら歌ってたころの異様さと強烈なアングラ臭を思うとずいぶんマトモになったなあ、と最初は思ったが、やはり強烈な個性には違いない)
→ニア・アーカイヴス(最高。ダンス・ミュージック最高。ジャングル&ドラムンベース最高)
→ベイビーモンスター(多国籍ガール・グループ。女性にすごい人気で、同性の憧れる「可愛い、強い、かっこいい」を体現している)
→TYLA(完璧なポップ・アイコン。見た目はすごく華奢だが、歌も強力だし華やかな存在感も格別。たぶん若いころのビヨンセを意識している。後継者たる可能性は十分。ダンサーの水準も高い。演出も音楽も思ったよりもアフリカ色を打ち出していたが、次はカラオケではなくアフロ・パーカッションをフィーチュアしたフル・バンドで見たい。これに演奏の妙味が加われば完璧だった)

 そんなわけでTYLAちゃんがあまりに素晴らしかったので、メインアクトで予定してたオーロラを見ないで帰る。タイラちゃん単独公演熱望!

2024/8/9

トクマルシューゴ @ 渋谷www

 8年ぶりの新作を引っさげてのレコ発。基本的なところは変わってないけど、視野が世界規模に広がり圧倒的に懐が深くなった。もともと凄かった技術とセンスが強いモチーフとテーマに裏打ちされて、なんだかライ・クーダーの現代版という風格も。もちろんやってる音楽自体はライ・クーダーとは全然違うが、志と、ギタリストとしての発想が根本にあるという点が似ている。素晴らしいライヴでした。12月には日本橋三井ホールで20周年ライヴをやるそうだけど、やってる音楽のクオリティからしたらもっと大きなところでやって然るべきだろう。

よろしければサポートをしていただければ、今後の励みになります。よろしくお願いします。